著者
中島 佳緒里
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-32, 2010-03

本研究は、周手術期に用いられているインセンティブ・スパイロメーター(incentive spirometer;IS)の効果を検証するために、データベース検索によって抽出された13 文献を用いて、術後呼吸器合併症に対するIS の効果を検討した。その結果、術前および術前・術後におけるIS 単独の訓練効果を示した文献はなかった。また、術後のIS 訓練の介入を報告した文献のうち、腹部手術あるいは低リスク患者では横隔膜呼吸とIS 訓練との比較を、心臓血管手術や胸部手術、高リスク患者では呼吸理学療法を基本したIS 訓練の追加介入を比較し同等の効果であるとの結果であった。以上のことから、IS 訓練は、手術侵襲の程度によって選択することが望ましく、腹部手術程度であれば横隔膜呼吸あるいはIS訓練を、心臓血管手術では呼吸理学療法がよいことが示唆された。
著者
鈴木 貴美子 長江 美代子
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.133-144, 2012

統合的文献検討により友人関係のとり方とアイデンティティ確立の関係性について考察した。アイデンティティの確立がみられる青年は、他者への基本的信頼や関係調整能力が高く、友人に自己を表現するという共通点がみられるが、友人と密着している青年と、友人と関わることが少ない青年に分かれた。アイデンティティが確立できていない青年は、他者への基本的信頼感が低いことが共通で、他者からの評価懸念は低く友人との関わりが希薄である青年と、他者からの評価懸念や賞賛欲求が強く、表面的な形だけの友人関係を求めている青年に分かれた。自我の確立には自己の内面を表現することが重要であり、友人との関係の持ち方が表面的な青年は、本音で深く交流できる青年と比較すると、自己斉一性・連続性をもった主観的な自分と社会から見た自分との同一化の感覚が未熟である。この感覚は、表現することで自己を形づくり、友人の視線で自分を確かめながら確立されていく。
著者
高田 みなみ 長江 美代子
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.121-131, 2012-03-31

統合的文献研究により、非接触文化である日本の看護の臨床場面において、成人患者に対するタッチングが有効に働く要因を探求した。選択基準に合致した20 の文献を分析した結果、タッチングの効果が有効に働く以下の5 つの要因が示唆された:1)人には生来接触欲求があり、自分が所属する社会に受け入れられる方法で満たしている、2)心理的不安が高い人ほどタッチングが有効に働いている、3)生来持っている依存傾向や対人不安が高いと身体接触をポジティブに受け入れる傾向がある、4)タッチングの部位とその効果を高めるための併存行動によって効果に差がある。患者は身体接触のニードを持っており、個々のニードを把握し、目的に合わせたタッチングを実施することがその効果につながる。
著者
端谷 毅
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.59-63, 2012-03-31

筆者は、看護学生に形態機能学を教えている教員であるが、以前は愛知県保健所長の行政職に就いていた。また、精神科クリニックにおいて、アスペルガーやADHD などの発達障害を専門分野とした診療を行っている。外来で診察を待つ子供たちの中には、障害の特性もあり、静かに順番を待つことができず、親の注意も耳に入らない様子で待合室のソファーを飛び回り、気の向くままに行動し、動き回っている患児も少なくない。そのような光景を目にするたびに、『もしもこの地域に災害が発生し、避難所での生活が始まったとしたら、この子たちはいったいどうなってしまうのだろう。』と考えさせられることがある。また、軽度の認知症を抱える独居の老人宅へ往診に行くたびに、家屋の佇まいからは想像もできないくらい立派な電化製品が次々と増えていく様を見て、ゆとりのある生活をイメージしていたのだが、ケースカンファレンスでの情報によると、悪質業者によって騙されて購入したものであることが分かった。このような事例から、医師として、また元行政関係者という立場から災害発生時における要援護者へのサポートについて、災害時要援護者対策の歴史的視点から考えてみたい。
著者
東野 督子 神谷 和人 藤井 徹也
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.135-140, 2015

医療施設において耐性菌で最も多く分離されるmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA )は、材質によっては30 日以上の生存が確認され、殺菌効果があるとされる銅や真鍮においても牛胎児血清が加わるとS. aureus の15日以上の生存が示された(東野・神谷、2011、2012)。本研究では、療養環境に生存する病原微生物を除去できる住宅用洗剤の使用に関する検討を行う。 方法は、EN 13697(European Norm:欧州標準規格)を踏まえて、日本石鹸洗剤工業界の方法を参考にして、牛胎児血清が加わったMRSA などの疑似汚染における水拭き清掃と環境消毒剤含有の環境用合成洗剤を使用した細菌の生菌数の減少率を比較した。試験菌の付着片作成法:非耐性株であるmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus〔MSSA( ATCC29213 株)〕、及びMRSA であるATCC43300 株を用いた。試験菌の付着片は、ステンレス片を2cm× 2cm 大にカットし滅菌した後に牛胎児性血清を含む菌液を滴下しデシケーター中で乾燥させ作成した。試験菌の回収は、供試薬剤100μℓ を1 分間作用させた後、消毒効果を止めるための中和剤の使用の有無の比較で行った。 四級アンモニウム塩の効果は1 分以上の作用を必要とする。四級アンモニウム塩を含む環境用合成洗剤であっても、1 分より短い接触時間で乾燥する程度の使用量では、四級アンモニウム塩配合の効果を期待できない。 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA), the most frequently isolated resistant bacterium in medical institutions, has been demonstrated to survive for over 30 days, depending on the materials on which they grow. S. aureus has been shown to have the ability to survive for over 15 days even on copper and brass, which are said to be bactericidal, in the presence of fetal bovine serum (FBS) (Higashino and Kamiya,2011,2012). In this study, the efficacy of environmental detergents in eliminating pathogenic microbes surviving in medical treatment environments was evaluated. Based on EN 13697 (European Norm), taking into account the method recommended by the Japan Soap and Detergent Association, the rates of decrease of the viable bacteria were compared between wiping with water alone and wiping with a environmental detergent containing an environmental disinfectant for pseudo contamination, such as MRSA growing in FBS. Method of preparation of the small pieces of material carrying the test bacteria: Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA [ATCC29213]), which is non-resistant strain, and the MRSA strain, ATCC43300, were used. Small pieces carrying the test bacteria were prepared by cutting a stainless steel plate into 2 cm × 2 cm pieces, sterilizing the pieces, dropping bacterial solution containing FBS on them, and then drying the pieces in a desiccator. The test bacteria were recovered after applying 100 μℓ of the test detergent to the pieces for one minute and then using a neutralizing agent. Environmental detergents containing quaternary ammonium salt were bactericidal only when the application time was longer than one minute. Bactericidal effects cannot be expected of environmental detergents, even when they contain quaternary ammonium salt, if the contents of these compounds are so small as to cause drying of the detergent within one minute of application.
著者
林 和枝 中島 佳緒里 高見 精一郎 端谷毅
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.47-53, 2011-03-31
被引用文献数
1

本研究は、食育推進授業を計画するための基礎資料を作成することを目的とし、女子中学生を対象に骨量・身体測定ならびに生活習慣に関して調査をしたものである。対象は、B 公立中学校に在籍する1 から3 年生の380 名である。骨量の測定は、超音波骨密度測定器を使用し、右踵にて測定した。調査項目は、身長、体重、生活習慣、運動習慣、月経状況である。その結果、3 年生以外で骨量平均値とBMI に有意な相関を認めた。月経の有無と骨量平均値では、3 学年全体と1 年生で有意差がみられた。食生活では、3 年生のみ、偏食のある生徒の骨量平均値が低い傾向を示した。運動習慣は、運動部や学校以外の運動サークルに所属している生徒、小学生の時に運動部に所属していた生徒で、骨量平均値が有意に高い結果が得られた。以上より、女子中学生の骨量増加には、バランスのとれた食事を促すことと、学童期の運動習慣の獲得とその継続の重要性が再確認された。
著者
安藤 恒三郎
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.7-12, 2013

日本赤十字社は、東日本大震災における石巻医療圏の被害状況の把握と復興支援事業のニーズ調査を行い、調査結果に基づき石巻医療圏の復興支援事業計画を海外救援金ドナー会議に提言し承認された。石巻赤十字病院敷地内に、合同救護チームなどの活動拠点となるプレハブの仮設災害救護本部及び看護実習棟と、宮城県地域医療復興検討会議の提言に基づき、二次医療のための仮設病棟を壊滅した市立病院の代替施設として整備した。石巻市と石巻赤十字病院との合意に基づき、市立病院の医師・看護師が仮設病棟へ出向して診療に当たることになり、市立病院の再建に向けた医療従事者の散逸防止も達成することができた。また、石巻市・石巻市医師会を中核とした一次医療体制(仮設石巻市夜間急患センター)の整備、石巻赤十字病院を中核とした、三次医療体制の復興および災害拠点病院としての機能強化(救命救急センターの機能拡張、災害医療および災害看護にかかる人材育成拠点の設置)などの事業を支援することになった。
著者
神谷 潤子
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.189-196, 2015

インドのコルカタには、マザー・テレサが貧しい中の最も貧しい人々のために設立した多くの施設がある。それらの施設の活動は、マザー・テレサの死後も「神の愛の宣教者会」の修道女・修道士、世界各国から集まったボランティアによって維持され、今もなおスラムの人々の受け皿となっている。著者は2002 年と2011 年に、マザー・テレサの活動の原点であり、スラムの路上で瀕死の状態にある貧しい人々を温かく看取るための施設「死を待つ人の家」と、障害児を養育する「ダヤ・ダン」のそれぞれでボランティア活動を行った。本稿ではマザー・テレサの施設とコルカタの現状、そこで行われているボランティア活動を紹介する。そして、マザー・テレサの施設で行われていた「その人に関心を向ける温もりのあるケア」に患者の生命力を支える看護の原点を感じたこと、などの学びを報告する。
著者
河合 利修
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.13-20, 2005-03

国際人道法の一条約である第1追加議定書の第59条には戦時における無防備地区の設置が定められている。この条項をもとに、無防備地区宣言を行う条例を自治体に採択するよう働きかける「無防備地域宣言運動」が我が国では盛んになっている。第1追加議定書の解釈を検討すると、無防備地区の宣言を行える主体に地方自治体も含まれるが、地方自治体に関しては極めて例外的な主体であり、国際的に地方自治体が広く主体として受け入れられているかは疑問である。さらに、議定書が採択された1977年以降、無防備地区が宣言された例はない。「無防備地域宣言運動」は平和運動の一環として政治的な運動でもあるが、国際人道法は戦争という現実のなかでの犠牲者保護を定めた現実的かつ政治中立的な法である。また国際人道法は人道の原則と軍事的必要性の原則の均衡をとる役割を果たしており、平和運動の一環としての「無防備地域宣言運動」とは性格を異にする。
著者
水谷 聖子 加藤 章子 大橋 裕子 丹羽 さゆり 岡部 千恵子 水谷 勇
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.33-41, 2005-03

性感染症、人工妊娠中絶件数の増加など思春期における性の現状は、適切な性教育が展開されていない火急の課題である。思春期における性教育の一方法としてピア(仲間)による方法の有効性は言われているが、B県ではピアによる性教育は実施されていなかった。ピアによる性教育の現状をふまえ、ピア・サポーターを養成しピア・サポーターによる生や性の教育を市民講座に設定して実施した。講座には、事例、グループワークやワンポイントリレー講義を導入した。受講生にとって事例を用いたグループワークは事例を通して客観的に話し合うことができ、その体験を自分自身の価値観と重ねて考える機会になっていた。また、アンケート結果からはグループで話し合うことで価値観の多様性に気づき、話し合いの過程においてわからなかったことや知りたいことが明確になり、ワンポイントリレー講義を通して知りたかった新たな知識を習得していた。ピアによる性教育が効果的に実施されるためには、地域社会で性に関する問題を共有していく基盤が不可欠であることはいうまでもないが、今後は、ピア・サポーターの養成やピア・サポーターによる教育の効果測定など一般化に向けての検証や修正をしていく必要がある。
著者
東野 督子
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.33-39, 2010-03

本調査は、イギリスの本学と同規模の看護大学での、成人看護学の教育現状とその中の「感染看護」について『どのような教育がされているのか』の示唆を得る目的で資料を収集した。Oxford Brookes University のAdult Nursing の担当教員へのインタビューや授業見学及び実習病院を見学して資料を収集した。Adult Nursing の実習目標は27 項目あり、この中に感染看護に関連するUniversal Precaution/Infection Control が含まれていた。実習記録のフレームは「実習指導者、単位認定者と学生とのコミュニケーション」、「実習実施の確認記録」、「学生自身が目標達成を計画する」の3 つの効果をねらって作成されていて、学生は「知識」、「技術」、「態度」の視点が示されている27 個の目標を「1.観察、2.監督下の元で看護を提供、3.手助けなく一人で行う」という段階を踏んで3 年間で目標を達成しながら学習する。のように年単位で積み上げていく記録を用いて看護の実践を体験することで、看護職を基盤として生涯にわたる学習をすることに繋がっていくと考える。
著者
中垣 紀子 川井 みつ子 神道 那実
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.35-40, 2007-03

近年、医療技術の進歩や医療機器の開発に伴い、周産期に亡くなる子どもの数は減少し、反面疾患により障害をもちながら成長し、学童期に達する子どもの数が増加している。本研究では、障害をもつ子どもがよりよい学校生活を送るために、養護学校と医療者や地域それぞれの役割と連携のあり方を検討する前段階として、養護学校における医療的ケアについての動向を概観した。その結果、以下の動向が明らかになった。1.かつては、障害をもつ子どもの教育において、就学猶予免除により医療的ケアが必要とされる障害をもつ子どもへの教育が大きく制約されていた。2.1979年、国は養護学校の義務制を実施したが、医療的ケアが必要な子どもを無理に通学させるのは危険であり、訪問教育にすべきであるという考え方が、教育・医療の中心であった。3.1980年代に普及したインクルージョン(共生)の概念は、生活年齢に相応する普通教育の環境を保障することに大きく影響した。4.看護師配置前は、医療的ケアが必要な子どもの通学は可能であるが、そのケアは家族が付き添い、実施することが条件であった。5.2003年以降、文部科学省と厚生労働省が連携して非常勤の看護師を配置するモデル事業を実施し、教育・医療・福祉における協力体制で整備しつつある。
著者
中垣 紀子 豊田 恭徳
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.5-11, 2005-03

本研究は、わが国における神経芽腫マススクリーニングにより、受診者は健康上の利益を得る可能性があるか、さらに得られる利益が損失を上回っているか、利益は費用を正当化できるかの医療経済的評価をすることを目的とした。1990年4月から1999年4月までに神経芽腫マススクリーニングを受診し、その後、首都圏のA小児専門病院を受診し生存している神経芽腫の小児67名とその両親を対象とした。医療費に関連するデータから、直接費、間接費などのパラメータを導入した分析を用い、個々および病期別に医療費を算出した。予後不良とされてはいるが神経芽腫マススクリーニングによって早期発見され治療を受けることにより、生存率が高いとみなされた進行例III期の場合の1人当たりの医療費(III期の小児を1人救命するための医療費)を推計した。この神経芽腫マススクリーニングの費用便益分析は、III期症例が神経芽腫マススクリーニングを受けることによって生存し得られる収入をシミュレーション結果によるサラリーマンの生涯収入合計3.1億円と仮定して分析をした。その結果、III期症例が神経芽腫マススクリーニングを受けることによって生存し得られる便益は、1人当たり1.6億円であった。しかし、この便益は、神経芽腫マススクリーニングをしなかった場合の節減される医療費34億円の経済的損失の上に成立しているとみなされた。