著者
河村 次郎
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.97-103, 1998-03-31 (Released:2010-01-20)
参考文献数
18

精神分裂病と躁うつ病に代表される内因性の精神疾患が, 心の病気なのか身体 (脳) の病気なのかは, 前世紀における精神医学の誕生以来繰り返し論じられてきたことである。心理派の精神医学は内因性精神病の心因論を主張するのに対して, 身体派は身体 (器質) 因論を主張してきた。しかし両派とも対立意見に無頓着でいられなかったことも事実である。そしてそれは, 外因性でも心因性でもないこの疾患の成因が物質的な身体次元や心理・社会的次元に単一的に還元されえず, 常に心身統一的な観点を要請してきたことに起因する。ところで心理派の精神医学の代表は精神分析であり, 身体派は生物学的精神医学と総称される。とはいえ, この両陣営への分裂は, あくまで心か脳かへの重点の配分を反映したものにすぎず, 実際の臨床行為においては両派の距離はかなり緩和される。問題は心身統合の方法論の不備にある。そして, この点で, 当初から分裂を危惧し, 中道派を自負していた現存在分析が注目される。そこで我々は本論文において現存在分析の観点から内因性の精神病の成因に関する心身統一的理解を基礎づけうるような科学基礎論的考察を試みたいと思う。そしてそれをもって, 現在, 精神医学界焦眉の問題とされている精神病理学 (精神医学の心理学, 症状学部門) と生物学的精神医学 (身体病理学) の接点の解明への一寄与としたい。