著者
河村 知恵 田村 咲江 肥後 慶三
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.941-949, 1993-11-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

野菜の妙め調理における火力の相違が軟化に及ぼす影響をしらべ, さらに軟化の機構を解明することを目的として, ニンジン根部の師部柔組織の硬さと組織形態の変化を調べた.(1) 妙め処理後の重量減少率は火力が大で, 妙め時間が長いものほど大であった.破断応力の解析では, 妙め時間で比較すると火力Bで妙めた方が早く軟化した.しかしガス消費エネルギー当たりでは大差はなかった.破断エネルギーは, 妙め処理当初で生よりも大となったが, 妙め時間の経過とともに低下し, 火力Aよりも火力Bで妙めたもので早く低下した.貫入総エネルギー量は, 火力Bの方が早く低下した.(2) 140,160,180及び200℃のホットプレート上での片面連続加熱では, 温度が高いほど早く, また加熱時間が長いほど顕著に軟化した.ホットプレートの温度設定の相違と軟化の程度の関係は, 妙めものの場合の火力の相違と軟化の状態に類似した傾向を示した.(3) 顕微鏡による柔組織の観察結果では, 火力Aよりも火力Bで妙めた試料の方が組織の形態変化が顕著であった.火力Aでは6分間妙めた場合も, 表面部に水分の緩慢な蒸発による細胞の萎縮が生じるのみで, 内部は煮熟した場合のような様相を呈していた.火力Bで妙めたものでは, 高温加熱による急速な水分の移動のために, より短時間にニンジン片の深部にまで組織の萎縮が及んでいることがわかった.火力Bで3分間妙めたものでは, 急激な水分蒸発が生じるため, 表面部の細胞が偏平化して膜様構造を形成し, その内側に巨大な空隙が生じていた.200℃で片面連続加熱した試料においても時間の経過とともにこの現象が顕著に認められた.このことから, 火力の相違は妙めニンジンの軟化に要する時間に関係するばかりでなく, 表面構造に差異をもたらすことがわかった.