著者
狩野 繁之 河津 信一郎 畑生 俊光
出版者
国立国際医療センター(研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.リアルタイムPCR法を用いたマラリア原虫ゲノム解析システムの構築(1)熱帯熱マラリア原虫(Pf)のクロロキン(CQ)耐性関連遺伝子pfcrt上の単塩基置換の定量的検出を試みた結果、サンプル中に混在する感受性型(FCR-3株)と耐性型(K1株)遺伝子の混合比に一致した定量値を、リアルタイムPCRの測定値から推定することができた。しかし、FCR-3株:K1株を8:2の比率で混合した場合では、in vitroではCQ感受性を示し、fcrt遺伝子のDirect SequenceではK1型が検出された。(2)FCR-3株とK1株を混合して低CQ濃度(〜80nM)下で培養すると、混合時のK1株の比率が低くても、やがてK1株が優勢になった。本成果は、定量リアルタイムPCR法の有用性を示し、薬剤耐性原虫の選択のメカニズムをin vitroの系で再現したといえる。2.海外調査研究で得られた分子疫学的知見(1)フィリピン・パラワン島のPf13検体の内6検体で、pfcrt耐性型と感受性型の両型の遺伝子が検出された。感受性型:耐性型の遺伝子量の比率(%)は8.7:91.3から44.5:55.5であった。患者血液中には、複数の原虫クローンが混合寄生していることが証明できた。また、タイ・ミャンマー国境での39分離株は、すべてK76Tの耐性型変異を有す一方、ベトナム南部の株では、CQ感受性型(K76)の頻度が69%と多く、CQ耐性型(K76T)の頻度が26%と少ない点が特徴的であった。(2)ベトナム株のPfCRTの72-76番目のアミノ酸配列を調べると、CVMNK(感受性型)が最も多かった。一方CQ耐性型では、CVIET、CVIDT、CVMDTの3種類が観察された。CVIETはタイK1株と同じであった。(3)ところが、pfcrt遺伝子近傍のマイクロサテライト(MS)DNAマーカー-3座位の解析を行ったところ、CVIETを示すベトナム株のMS DNAパターンは、タイK1株のそれとは異なっていた。本研究結果は、アジアの耐性株の起源はタイをその発祥として拡散していったという定説を一部覆すもので、原虫genotypeの疫学研究成果として新しい知見である。今後その証拠を固める新たな研究が必要である。