- 著者
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甲田 勝康
河野 比良夫
中村 晴信
奥田 豊子
- 出版者
- 関西医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
「適応能」は生理人類学の中心的概念の一つである。ヒトはその歴史のほとんどを自然環境の中で過ごし、その環境に適応してきた。その結果、様々な生理的多型性が生まれヒトは全世界に分布した。諸民族の問にエネルギー代謝の違いがあることが報告されている。動物性タンパクや脂肪摂取の多いイヌイットは高い代謝水準によって寒さを凌ぎ、食糧事情の悪いアンデス高地の住民は代謝増大をできるだけ抑え断熱型の反応をする。しかし、このような相違が遺伝的要因により決定されるものなのか、もしくは短期的な機能馴化によるものなのかは十分には解明されていない。今回我々は、短期的な絶食および食事制限がエネルギー代謝や他の生理機能にどのような影響をおよぼすかについて検討し、ヒトの環境適応の過程にについて考察した。労働者の健康増進を目的として、軽度肥満者や軽度高脂血症者または健常者に餌や運動指導を行っている企業がある。本研究は、この企業の健康増進活動に参加したものを対象として行われた。対象者を中等度摂取エネルギー制限群および軽度摂取エネルギー制限群の二群に分け、摂取エネルギー以外の健康指導は両群とも同じとした。呼吸商は、エネルギー制限により低下し、エネルギー源が経口の炭水化物から体脂肪に移行していることが示唆された。基礎代謝量も減少し、その程度は中等度制限群において軽度制限群より大きかった。また、この基礎代謝の変化は体重の変化よりも大きかった。このことからエネルギー制限により、基礎代謝は敏速に減少することが確認された。さらに動物を用いた実験系で検証した。その結果、短期の絶食により代謝系を含む生理機能が変化することが観察された。この研究成果は、国内および国際学会で報告し、国内および国際誌上に発表した。以上のごとく、本研究は目的を達成することができた。