著者
岡田 陸 河﨑 雄司
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.267-272, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1

目的:排痰には咳嗽力が関与しており咳嗽力の指標に咳嗽時呼気流量(Cough Peak Flow:CPF)がある.CPFの低下は排痰が困難となることから肺炎のリスクファクターと考えられている.介護老人保健施設入所者を対象にCPFに関連する因子を調べ,さらにCPFと肺炎罹患との関係を検討した.方法:平成30年9月から10月中旬までに介護老人保健施設入所者男性41名を対象に年齢,Body Mass Index(BMI),Performance Status(PS),要介護度,Functional Independence Measure(FIM),脈拍数,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2),握力,チャールソン併存疾患指数,基礎疾患,聴診でのラ音の有無を調べ,同時期に測定したCPFとこれらの因子との関係を単相関分析で求めた.次にCPFの中央値で2群に分け,上記の因子を群間比較した.また,CPF測定後に6カ月,11カ月の観察を行い経過中での肺炎罹患を調べた.結果:CPFには栄養の指標であるBMIと全身の筋力の指標である握力が正に相関していた.CPFの中央値は240 L/minであり,CPF≦240 L/min群(n=21)とCPF>240 L/min群(n=20)の2群に分けたところ,CPF≦240 L/min群において握力とBMIは低値で,ラ音が多いことを認めた.6カ月間では有意差を認めなかったが,11カ月間の経過観察でCPF≦240 L/min群に肺炎罹患も多いことを認めた.結論:CPFが低値であると肺炎罹患が多い可能性が考えられる.介護老人保健施設において肺炎予防を行うためにはCPFの増加を目指した筋力へのリハビリテーションの介入や栄養管理が必要と思われる.