著者
沼澤 理絵 中尾 康夫 久木田 和丘 米川 元樹 川村 明夫
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.351-359, 2007-04-28

慢性腎不全による透析患者数の増加に伴い, 手術を受ける症例も増加傾向にある. 透析患者は麻酔のリスクも高いとされる一方で, 透析患者のみを対象とした麻酔関連偶発症の調査報告はない. 当院麻酔科管理で手術を施行した慢性腎不全で透析療法中の998症例において手術室における危機的偶発症 (心停止および心停止寸前の高度低血圧, 高度低酸素, 高度徐脈) の発生率, 転帰, 原因を調査した. 症例をASA-PS別に分類すると, クラス3, 3E, 4, 4Eの順に895例 (89.7%), 72例 (7.2%), 13例 (1.3%), 18例 (1.8%) であった. 全体の3%に相当する30例に手術室内で危機的偶発症が発生しており, 1.1%に相当する11例が術当日または術後7日以内に死亡転帰をたどった. 麻酔科管理1,000症例あたりの偶発症の発生率および死亡率は30, 11であった. 心停止は3例で発生し, 発生率は1,000症例あたり3であった. 偶発症の主因としては23例 (76.7%) が術前合併症, 7例 (23.3%) が麻酔管理であった. 術前合併症としては心不全が最も多く, 敗血症がこれに次いだ. 麻酔管理の問題点としては, 区域麻酔 (脊椎麻酔や硬膜外麻酔) に関するものが最多であった. 偶発症の発生率 (1,000症例あたり) はASA-PS4, 4EではASA-PS3, 3Eより高かった. ASA-PSで評価される術前状態が偶発症の発生率に関与していることが透析患者でも示された. 透析療法を受けている慢性腎不全患者の麻酔リスクは高いと認識すべきであり, 安全な麻酔管理には術前評価, 麻酔計画が特に重要と考えられた.