著者
藤田 義嗣 大野 仁 酒本 貞昭 和田 瑞隆 花岡 雅秀
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.723-727, 2009-09-28
被引用文献数
1

症例は58歳,男性.51歳時,糖尿病を指摘され内服加療を開始,54歳時,糖尿病性腎症による慢性腎不全のため血液透析導入.2008年5月初旬,陰茎先端の疼痛,潰瘍を生じ,徐々に症状増悪,虚血性変化の進行を認めたため同年7月9日当科紹介入院.入院時,陰茎に強い疼痛,圧痛を認め,潰瘍を形成した亀頭部は黒色に変化していた.疼痛,虚血性変化が強度であり保存的治療が困難と判断し,陰茎壊死の診断で同年7月17日陰茎部分切断術を施行した.術後,創哆開,感染を生じたがデブリードマン処置により治癒し,疼痛は消失した.病理所見にて悪性所見は認めず,血流障害による陰茎壊死および二次感染と診断した.糖尿病透析患者では下肢領域に壊死が好発するが,陰茎に壊死が発生することはまれで本邦では18例の報告があるに過ぎない.
著者
中井 滋 鈴木 一之 政金 生人 和田 篤志 伊丹 儀友 尾形 聡 木全 直樹 重松 隆 篠田 俊雄 庄司 哲雄 谷口 正智 土田 健司 中元 秀友 西 慎一 西 裕志 橋本 整司 長谷川 毅 花房 規男 濱野 高行 藤井 直彦 丸林 誠二 守田 治 山縣 邦弘 若井 建志 渡邊 有三 井関 邦敏 椿原 美治
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-31, 2003-01-28
被引用文献数
34 5

2008年末の統計調査は全国の4,124施設を対象に実施され,4,081施設(99.0%)から回答を回収した.2008年末のわが国の透析人口は283,421人であり,昨年末に比べて8,179名(3.0%)の増加であった.人口100万人あたりの患者数は2,220人である.2007年末から2008年末までの1年間の粗死亡率は9.8%であった.透析導入症例の平均年齢は67.2歳,透析人口全体の平均年齢は65.3歳であった.透析導入症例の原疾患ごとのパーセンテージでは,糖尿病性腎症が43.3%,慢性糸球体腎炎は22.8%であった.2008年に透析液細菌数測定を行った施設の52.0%において透析液細菌数測定のための透析液サンプル量は10 mL以上確保されていた.施設血液透析患者の治療条件では,全体の95.4%は週3回治療を受けており,1回治療時間の平均は3.92(±0.53;s.d.以下略)時間であった.血流量の平均値は197(±31)mL/分,透析液流量の平均値は487(±33)mL/分であった.ダイアライザではpolysulfone(PS)膜使用患者が50.7%と最も多く,膜面積平均は1.63(±0.35)m<SUP>2</SUP>であった.ダイアライザ機能分類ではIV型ダイアライザを使用している患者が80.3%と最も多かった.体外循環を用いた血液浄化療法を施行されている患者の治療前各種電解質濃度平均値は以下のようであった;血清ナトリウム濃度138.8(±3.3)mEq/L,血清カリウム濃度4.96(±0.81)mEq/L,血清クロール濃度102.1(±3.1)mEq/L,pH 7.35(±0.05),HCO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP>濃度20.7(±3.0)mEq/L.施設血液透析患者のバスキュラーアクセス種類では,自己血管動静脈瘻が89.7%,人工血管動静脈瘻は7.1%を占めていた.2007年1年間のHCV抗体陽性化率は1.04%であり,透析歴20年以上の患者のHCV抗体陽性化率は極めて高かった.また,透析前血清クレアチニン濃度,血清アルブミン濃度,血清総コレステロール濃度,かつまたは,body mass indexが低い患者でHCV抗体陽性化リスクは高かった.
著者
渡邉 早苗 菅野 義彦 吉沢 守 北村 雄大 松村 康男 松本 郷 雑賀 慶二 鈴木 洋通
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.1187-1190, 2006-06-28
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

血液透析患者に対する食事療法の一環として, 日常の精白米をリン含有量が少ないBG無洗米に変更した. 15名の透析患者 (男性8名, 女性7名, 平均年齢: 54.1歳, 平均透析年数: 10.1年, 原疾患: 慢性糸球体腎炎10名, 糖尿病性腎症5名) に対して1か月使用したところ, 血清リン値は7.2±0.2mg/dLから6.3±0.4mg/dLへ有意に減少した (p=0.0014). 15例中12例 (80%) で減少を認め, うち9例 (60%) では10%以上の減少を認めた. 食味の低下を訴える例もなく, 使用に際し大きな問題は認めなかった. また, 使用前の血清リン値, 透析歴と血清リン値の減少率には関連がみられなかった. 経済的な負担も大きくないため, リンの摂取量をコントロールする上で有用であると考えられた.
著者
蔦谷 知佳子 對馬 惠 寺山 百合子 山谷 金光 齋藤 久夫 舟生 富寿
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.633-640, 2010-08-28
被引用文献数
3

ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)は一般住民において心機能マーカーとして有用とされている.しかし,NT-proBNPは,主に腎臓で代謝されるため,血液透析(HD)患者では高値を示し,その基準値は必ずしも明らかでない.著者らはHD患者におけるNT-proBNP濃度の基準値を求め,心不全の予後予測因子としての有用性について検討した.対象はHD患者85例である.血清中のNT-proBNP濃度は電気化学発光法(エクルーシスproBNP,ロシュ・ダイアグノスティックス)で測定し,心電図からはV5のR波振幅+V1のS波振幅(RV5+SV1),RV5,QRS間隔,QTc間隔およびQRS軸を読んだ.HD患者のNT-proBNP濃度(676~127,172 pg/mL)は健常人(9~144 pg/mL)にくらべ有意に高値であった.NT-proBNPは心電図上の左室肥大診断に最もよく用いられるRV5+SV1とr=0.346(p=0.002)の正相関を示した.RV5+SV1≥3.8mVを左室肥大とし,診断特性(ROC)曲線から心機能異常を推定できうるNT-proBNPの基準値を約8,000 pg/mLとした.このNT-proBNP 8,000 pg/mLを基準にHD患者を2群に分け,採血後から1年間の心不全発生率を比較した.NT-proBNP≥8,000 pg/mL群(n=35)の心不全発生率は31.4%であり,NT-proBNP<8,000 pg/mL群(n=50)の心不全発生率0.0%にくらべて有意に高かった(p<0.0001).以上より,NT-proBNPはHD患者においても心不全の予後予測因子として有用であり,その基準値は8,000 pg/mLが適当と考えられた.
著者
沼澤 理絵 中尾 康夫 久木田 和丘 米川 元樹 川村 明夫
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.351-359, 2007-04-28

慢性腎不全による透析患者数の増加に伴い, 手術を受ける症例も増加傾向にある. 透析患者は麻酔のリスクも高いとされる一方で, 透析患者のみを対象とした麻酔関連偶発症の調査報告はない. 当院麻酔科管理で手術を施行した慢性腎不全で透析療法中の998症例において手術室における危機的偶発症 (心停止および心停止寸前の高度低血圧, 高度低酸素, 高度徐脈) の発生率, 転帰, 原因を調査した. 症例をASA-PS別に分類すると, クラス3, 3E, 4, 4Eの順に895例 (89.7%), 72例 (7.2%), 13例 (1.3%), 18例 (1.8%) であった. 全体の3%に相当する30例に手術室内で危機的偶発症が発生しており, 1.1%に相当する11例が術当日または術後7日以内に死亡転帰をたどった. 麻酔科管理1,000症例あたりの偶発症の発生率および死亡率は30, 11であった. 心停止は3例で発生し, 発生率は1,000症例あたり3であった. 偶発症の主因としては23例 (76.7%) が術前合併症, 7例 (23.3%) が麻酔管理であった. 術前合併症としては心不全が最も多く, 敗血症がこれに次いだ. 麻酔管理の問題点としては, 区域麻酔 (脊椎麻酔や硬膜外麻酔) に関するものが最多であった. 偶発症の発生率 (1,000症例あたり) はASA-PS4, 4EではASA-PS3, 3Eより高かった. ASA-PSで評価される術前状態が偶発症の発生率に関与していることが透析患者でも示された. 透析療法を受けている慢性腎不全患者の麻酔リスクは高いと認識すべきであり, 安全な麻酔管理には術前評価, 麻酔計画が特に重要と考えられた.
著者
平澤 由平 鈴木 正司 伊丹 儀友 大平 整爾 水野 紹夫 米良 健太郎 芳賀 良春 河合 弘進 真下 啓一 小原 功裕 黒澤 範夫 中本 安 沼澤 和夫 古橋 三義 丸山 行孝 三木 隆治 小池 茂文 勢納 八郎 川原 弘久 小林 裕之 小野 利彦 奥野 仙二 金 昌雄 宮崎 良一 雑賀 保至 本宮 善恢 谷合 一陽 碓井 公治 重本 憲一郎 水口 隆 川島 周 湯浅 健司 大田 和道 佐藤 隆 福成 健一 木村 祐三 高橋 尚 由宇 宏貴
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1265-1272, 2003-07-28
被引用文献数
2 12 4

遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤 (rHuEPO) が6か月以上継続投与されている慢性維持血液透析患者 (血液透析導入後6か月以上経過例) 2,654例を対象に, 維持Ht値と生命予後との関係をretrospectiveに調査, 検討した. Cox回帰分析による1年死亡リスクは, 平均Ht値27%以上30%未満の群を対照 [Relative Risk (RR): 1.000] とした場合にHt 30%以上33%未満の群でRR: 0.447 [95%信頼区間 (95% CI): 0.290-0.689 p=0.0003] と有意に良好であったが, Ht 33%以上36%未満の群ではRR: 0.605 [95% CI: 0.320-1.146 p=0.1231] と有意差を認めなかった. 一方, Ht 27%未満の群ではRR: 1.657 [95% CI: 1.161-2.367 p=0.0054] と有意に予後不良であった. また, 3年死亡リスクも1年死亡リスクと同様, Ht 30%以上33%未満の群ではRR: 0.677 [95% CI: 0.537-0.855 p=0.0010] と有意に良好であったが, Ht 33%以上36%未満の群ではRR: 1.111 [95% CI: 0.816-1.514 p=0.5036] と有意差を認めず, Ht 27%未満の群ではRR: 1.604 [95% CI: 1.275-2.019 p<0.0001] と有意に不良であった.<br>これらの調査結果より, 1年および3年死亡リスクはともにHt値30%以上33%未満の群で有意に低値であり, 生命予後の観点からみた血液透析患者のrHuEPO治療における至適維持目標Ht値はこの範囲にあると考えられた. ただし, 1年死亡リスクは, 例数が少ないもののHt値33%以上の群についても低値であったことから, このレベルについては今後再検討の余地があると考えられた.
著者
福井 真二 鳥本 一匡 影林 頼明 森本 勝彦 山口 惣一 濱野 一將 三馬 省二
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.865-869, 2009-11-28
参考文献数
11

症例は76歳,男性.1995年4月に右腎細胞癌に対して右腎摘除術を受けた後,徐々に腎機能が低下し,2006年2月に血液透析が導入された.前医で維持透析中,右副腎腫瘍およびエリスロポエチン抵抗性貧血が出現し,2008年5月に当科へ紹介された.副腎腫瘍は転移性と考えられた.また,MRI T2強調像で肝は著明な低信号を示し,肝ヘモクロマトーシスが疑われた.血清フェリチン値は2,314ng/mLと高値で,前医での輸血および鉄剤投与による鉄過剰症が考えられた.右副腎腫瘍摘除術(病理所見:腎細胞癌の転移)後,骨髄生検が行われた.所見は骨髄異形成症候群で,環状鉄芽球の割合が20%であったことから,鉄芽球性不応性貧血と診断された.高齢かつ複数の重篤な合併症のため,免疫抑制療法より輸血療法の安全性が高いと判断し,2008年6月より鉄芽球性不応性貧血による貧血に対しては赤血球濃厚液2単位/週の輸血,鉄過剰症に対しては経口鉄キレート剤(デフェラシロクス:エクジェイド<SUP>&reg;</SUP>)投与を開始した.デフェラシロクスは500 mg/日から,血清フェリチン値が減少傾向を示すまで徐々に増量し,血清フェリチンが1,000 ng/mL未満となった時点で減量した.副作用は下痢のみで,整腸剤投与により緩和された.投与開始9か月後の2009年2月には,血清フェリチン値が467 ng/mLまで低下したため,デフェラシロクス投与を中止した.本邦では透析患者への本剤投与の報告はないが,自験例では重篤な副作用もなく9か月以上投与可能であった.透析症例における鉄過剰症に対して,経口鉄キレート剤投与は積極的に試みるべき治療法になると考えられた.
著者
楢村 友隆 佐藤 和弘 堀内 賢一 吉田 周理 井出 孝夫
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.85-90, 2009-01-28
参考文献数
17
被引用文献数
1

透析液の製造工程管理において,細菌の汚染状態を把握し対策を講じることが,透析患者への悪影響を防ぐために重要である.細菌検出の手段として,高感度に細菌の汚染状態を把握するためにはメンブレンフィルター法(以下,MF法)を用いて検査することが必要である.今回われわれは,MF法製品である日本ポール社製37mmクオリティモニターおよびマイクロファンネルを,R2A/TGE寒天および液体培地使用下にて用いた.標準菌2菌種(<I>Pseudomonas fluorescence, Methylobacterium extorquens</I>)と臨床現場の透析液中から単離された1菌種(Wild type)のそれぞれを透析液中に播種した試験液を用いて,各種MF法における細菌の測定精度を,細菌コロニー数の計測結果を基にして,平板塗抹法(R2A寒天培地)と比較した.その結果,今回用いたMF法製品と培養方法との組み合わせの全てが,基準となるR2A寒天培地上のコロニー数(<I>Pseudomonas fluorescence</I>(59.3cfu/枚),<I>Methylobacterium extorquens</I>(62.5cfu/枚),Wild type(38.6cfu/枚))に対して,細菌回収率に必要な70%以上を上回っており,良好な回収率を得ることが可能であった.今回評価したMF法製品は,各工程の細菌管理に有効なツールとして十分に活用できるものと考えられた.
著者
高原 健 難波 倫子 高橋 篤史 畑中 雅喜 山本 毅士 竹治 正展 山内 淳
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.371-376, 2008-06-28
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎におけるびまん性肺出血合併例の予後は一般的に不良である.強力な免疫抑制療法が推奨されているが,感染症による死亡が多くみられることから,免疫抑制の程度についてはなお明確な基準はない.肺出血合併ANCA関連血管炎に対し,免疫抑制薬を使用することなく,ステロイド治療に血漿交換(PE)を併用し,その有用性について検討した.【方法】過去10年間に当院で経験したMPO-ANCA型急速進行性腎炎22例中,肺出血を合併した7例(男性2例)を対象とした.全例にPEを施行し,肺出血が改善するまで継続した.全例にステロイドパルスおよび後療法としてステロイド内服治療を行った.【結果】平均年齢は72&plusmn;9歳,入院時MPO-ANCA titer 569&plusmn;581EU,血清Cr 5.7&plusmn;3.3mg/dL,観察期間は34&plusmn;22か月であった.肺出血の初期症状として全例に血痰があり,低酸素血症を伴う強い呼吸困難,急激な貧血の進行,胸部CTにてびまん性間質影を認めた.3例に人工呼吸管理を要した.血痰出現から血漿交換開始までの期間は2.9&plusmn;2.0日,平均3.5&plusmn;1.3回のPEを行った.肺出血は全例治癒し,退院時に人工呼吸や酸素吸入を要する例はなかった.入院時全例に腎機能障害を認め,腎生検を施行した2例はpauci-immune半月体形成性腎炎で,5例が透析を必要とした.そのうち3例は維持透析に移行したが,ほかの例では腎機能の改善を認めた.重篤な感染症は認めず,16か月後に誤嚥性肺炎で失った1例を除き全例生存中である.【まとめ】肺出血合併ANCA関連血管炎は予後不良とされているが,早期診断の上,PEとステロイドの併用療法により予後を改善させ得ると考えられる.
著者
宗像 昭子 鈴木 利昭 新井 浩之 横井 真由美 深澤 篤 逢坂 公一 松崎 竜児 三浦 明 渡辺 香 森薗 靖子 権 京子 金澤 久美子 宮内 郁枝 鈴木 恵子 久保 和雄 尾澤 勝良 前田 弘美 小篠 榮
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1525-1533, 2001-12-01
参考文献数
14
被引用文献数
1

今回我々は, 当院で維持血液透析を施行している安定した慢性腎不全患者59名を対象患者として, ベッドサイドにて簡便に使用できるアイスタット・コーポレーション社製ポータブル血液分析器i-STATを用いて, 透析前後で全血イオン化Ca (i-Ca) 濃度を測定し, 血清T-Ca濃度との関係について検討し, 以下の結果を得た.<br>1) 透析前後における血清T-Ca濃度, 全血i-Ca濃度は, それぞれ9.43±0.90→10.54±0.70mg/d<i>l</i> (p<0.05), 1.26±0.10→1.30±0.07mmol/<i>l</i> (p<0.0001) と, いづれも有意な増加を示した. 2) Caイオン化率は, 53.43±0.03→49.55±0.04% (p<0.001) へと透析後有意に低下した. この原因として, 血液pHの変化の影響が考えられ, 血液pHとCaイオン化率との間には明らかな負の関係が認められた. 3) 透析前後における, 血清T-Ca濃度と全血i-Ca濃度の関係について検討したところ, 透析前ではy=7.507x+0.015 (r=0.839; p<0.001) と強い正の相関が認められたが, 透析後においては, 全く相関が認められなかった. この点について, pHならびにAlbを含めた重回帰分析法を用いて検討したところ, T-Ca=3.369×i-Ca+5.117×pH-32.070 (r=0.436, p=0.0052) と良好な結果が得られた. 4) 透析前後の全血i-Ca濃度の測定結果から, 容易に血清T-Ca濃度を換算できるノモグラムならびに換算表を作成した.<br>以上の結果より, ポータブル血液分析器i-STATを用いた, ベッドサイド ("point-of-care") での全血i-Ca濃度の測定とノモグラムの利用は, 透析室においてみられるCa代謝異常に対して, 非常に有用であると考えられる.
著者
春山 直樹 柳田 太平 西田 英一 安永 親生 原 由紀子 安達 武基 椛島 成利 田村 雅仁 柴田 英治 合屋 忠信
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.329-333, 2010-03-28
参考文献数
23

症例は37歳,女性.平成11年9月にIgA腎症からCAPDを導入された.平成17年3月より挙児希望から近医で体外受精―胚細胞移植(IVF-ET)を始め,同年9月より週1回血液透析を併用した.平成19年3月に3回目のIVF-ETで妊娠6週を確認することができた.その後,血液透析を週2回5時間併用として貧血,透析量の管理を行っていたが,妊娠14週より週3回各5時間の血液透析へ完全に移行し,徐々に透析量を増やした.妊娠17週に切迫早産と診断されて,近医大学病院に入院した.妊娠32週で胎児は生下に十分耐えうる大きさとなり,帝王切開で2,284 gの健康な女児を出産した.その後母体,出生児ともに合併症なく,妊娠36週で退院となった.その後血液透析を継続していたが,母親は育児のためにCAPDの再開を希望した.腹腔洗浄を試みたが,カテーテルは子宮の圧排で上腹部へと転位し注排液不可能だった.そこで腹腔鏡下にカテーテルの整復術を行い,CAPDを再開することができた.CAPDの妊娠は,透析液による腹腔内の高浸透圧環境が卵子の着床に不適であるとされており,体外受精―胚細胞移植がより確実かもしれない.また,本症例のように腹膜透析導入後7年経過し,残存腎機能のない症例においては,妊娠早期より血液透析を併用,ないし一時的な移行が必要と思われた.
著者
林 一美
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.339-345, 2007-04-28
参考文献数
18
被引用文献数
1

石川県の透析センターにおける要介護透析患者の実態を把握することを目的とする実態調査を行った. 県内の透析センター36施設に勤務する透析看護責任者を対象に質問紙を配布し, 回答結果より, 透析看護について検討した. 要介護透析患者の30.0~42.6%は要支援・要介護1の軽症者であり, 23.7~40.7%の者が要介護2~5の, 身の回りの世話全般にわたり, なんらかの介護を要する者であった. 透析患者総人数の11.4~19.1%は移動障害があった. また透析患者で認知症状・意思疎通障害者は, 5~10%前後であった. 透析患者の81.0~90.5%が自宅通院者であった. 他施設・他病院から外来通院している患者は, 2%前後と少なかった. 以上のことから, 石川県においては, 透析患者の施設入所や他病院の受け入れは難しい状況にあり, 要介護透析患者や機能障害者は, 在宅サービス活用と家族の支援によって, できるだけ透析療養を継続していくことが必要であると明らかになった. 今後は要介護透析患者の看護において, 透析療養における在宅サービス活用と, 家族ケアの重要性に着目していくことが示唆された.
著者
大橋 宏重 小田 寛 大野 道也 渡辺 佐知朗 琴尾 泰典 松野 由紀彦 平野 高弘 石黒 源之 大熊 俊男 伊藤 裕康 澤田 重樹 荒木 肇 横山 仁美
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1017-1023, 1998-06-28
参考文献数
24
被引用文献数
2

冠動脈疾患 (CAD) などの心血管系合併症の発症頻度が維持血液透析 (HD) 患者で高いことが問題になっている. HD患者の脂質代謝異常が動脈硬化の発症, 進展に大きな役割を演じていることが報告され, 高中性脂肪 (TG) 血症と低HDL-コレステロール (HDL-C) 血症がその特徴と考えられている. 近年, リポプロテイン (a) (Lp(a)) の上昇しているHD患者の多いことが報告されるようになり, 心血管系合併症, なかでもCADとの関連が注目されるようになった. 今回, 我々は5年間経過を観察し, HD患者のLp (a) が心血管系合併症, なかでもCADの独立した危険因子となるか, 検討した.<br>5年間でHD患者268名 (慢性腎炎: CGN212名, 糖尿病性腎症: DN56名) のうち70名が死亡した. 内訳は心血管系合併症, 悪性腫瘍, 感染症の順であった. 心血管系合併症による死亡例は脳血管障害 (CVD) 26名, CAD22名, 胸部大動脈瘤破裂1名の計49名であった. 心血管系合併症で死亡した症例は, 非心血管系合併症で死亡した症例に比較して, Lp (a) が有意に上昇していた. また心血管系合併症のうちCVDに比較してCADでLp (a) はさらに上昇していた.<br>しかしながら, Lp (a) 30mg/d<i>l</i>以上の症例は未満の症例に比較して生存率が低いという結果は得られなかった.<br>CADで死亡した症例はLp (a) のオッズ比4.13 (95%信頼区間1.25-15.0), 相対危険度0.71で, HD患者でLp (a) はCADの独立した危険因子となることが示唆された.<br>以上より5年間の経過観察から, 心血管系合併症で死亡したHD患者のLp (a) は上昇しており, Lp (a) はCADの独立した危険因子となる可能性が高い.
著者
吉田 泉 駒田 敬則 森 穂波 安藤 勝信 安藤 康宏 草野 英二 大河原 晋 鈴木 正幸 古谷 裕章 飯村 修 小原 功裕 高田 大輔 梶谷 雅春 田部井 薫 NIKKNAVI研究会
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.909-917, 2010-11-28
被引用文献数
1

われわれは,透析患者の除水による循環血液量の変化をモニターする機器(Blood Volume Monitoring system:BVM)を日機装社(静岡)と共同開発し,多施設共同研究において臨床的にドライウエイト(DW)が適正と判断された患者の循環血液量の変化(BV%)の予想範囲を設定し,すでに報告した(Ther. Apher. Dial. in press).本論文では,その予想範囲が適正な除水量設定に有用か否かを検討した.維持透析を行っている9施設の144名を対象とし,採血日を含む3回の透析日に,BVM搭載装置を用いて透析を行った.DWが適正と判断された患者のBV%予想範囲は,上限ライン:BV%/BW%後=-0.437t-0.005 下限ライン:BV%/BW%後=-0.245ln(t)-0.645t-0.810.BV%は循環血液量変化率,BW%後は透析による除水量の前体重に対する比率,tは透析時間(h).今回の検討では,DW適正の可否を問わずに144例を抽出し,430データを集積した.プロトコール違反の94データを除外した336データを解析対象症例とした.各施設の判断によりDW適正と判断された230データで,BVMでも適正と判断された適正合致率は167データ(72.6%)であった.臨床的にDWを上げる必要があると判断された45データで,BVMでもDWを上げる必要があると判断されたのは10データ,逆に臨床的にDWを下げる必要があると判断された61データで,BVMでも下げる必要があると判断されたのは37データであった.その結果,BVMによる判定と臨床的判定の適合率は63.7%であった.不適合の原因としては,バスキュラーアクセスの再循環率(VARR),体位変換,体重増加量が1.0kg以下などであった.PWI(Plasma water index)による判定との適正合致率は71.6%で,適合率は58.0%であった.hANPによる判定との適正合致率は68.8%で,適合率は48.7%であった.循環血液量のモニターは,透析患者の除水設定管理の一助になり,われわれが設定したBV%予想範囲は臨床的にも妥当性が高いと考えられた.
著者
牧田 慶久
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.1445-1449, 1999-12-28
被引用文献数
1

長期透析患者の副甲状腺機能を検討する目的で, 10年以上観察し得た安定期維持透析患者38例を対象にc-PTHなどを各種パラメーターとして検討した. 透析導入時の年齢とc-PTHとの関係では, 高齢になるにつれてc-PTHが低値となる傾向が認められた (p<0.05). c-PTHが10ng/m<i>l</i>以上を二次性副甲状腺機能元進症として検討すると充進症の頻度は経年的に増加し, 透析開始10年後には38例中17例 (44.7%) が機能亢進症に陥った. 機能亢進症に影響を与える諸因子の検討では, (1) 透析期間中の平均血清Ca値が9.0mg/d<i>l</i>以上の群では9.0mg/d<i>l</i>未満の群に比し, 機能亢進症が有意に低頻度であった (p<0.0005). (2) 活性型ビタミンD (VitD) 投与期間が透析期間の60%以上の群では60%未満の群に比し機能亢進症が有意に低頻度であった (p<0.0005). (3) 活性型VitD投与期間と血清Ca値の間には正相関が認められた (r=0.452, p<0.005). (4) 血清P値と機能亢進症の間には有意な相関を認めなかった.<br>以上から, 血液透析期間が長期化するにつれc-PTHは漸増し重篤な骨合併症を惹起する副甲状腺機能亢進症に陥る危険性が高まることが示唆された. またこれを予防するには活性型VitDを投与し, 血清Ca値を9.0mg/d<i>l</i>以上に保つことが有用と思われた.
著者
岡田 一義 今田 聰雄 海津 嘉蔵 川西 秀樹 菅原 剛太郎 鈴木 正司 石川 勲 佐中 孜 奈倉 勇爾 松本 紘一 高橋 進
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1315-1326, 2003-08-28
被引用文献数
5 7

本邦では, 透析患者の終末期において, 血液透析 (HD) が安定して施行できている患者の自己決定を尊重し, HDを中止することについての生命倫理学的研究は殆どない. 今回, われわれは, 透析医 (552名) を対象として, 安定したHDを受けている悪性腫瘍終末期症例を提示し, いくつかのシナリオに対して, HDを中止するか, 継続するかの意識調査と, advance directives (AD), 尊厳死, 尊厳生についてどのように考えているかの意識調査を全国的規模で行った.<br>434名 (78.6%) から回答が得られたが, 有効回答は427名 (77.4%) であった. ADおよび尊厳死が法的に認められていない現状において, ADの有無で比較すると, (1) 家族がHD中止を申し出た場合, (2) 家族がHD継続を申し出た場合とも, ADがあるとHDを中止する回答は有意に増加した ((1) 48.0%→78.9%, (2) 0.2%→2.6%). さらに延命療法を中止しても法的責任は問われないと仮定すると, ADがあるとさらにHDを中止する回答は増加した ((1) 90.9%, (2) 11.9%). ADと尊厳死を必要であると回答した透析医はそれぞれ74.0%, 83.1%であったが, 法制化も必要と回答した透析医は56.4%, 63.7%に減少した. 尊厳死と尊厳生の比較では, 尊厳生を支持する透析医は, 尊厳死を支持する透析医よりも多かった (47.1%, 15.9%).<br>今回の結果は, 現状でも, 透析医および家族が患者の自己決定を尊重すると, ADによる尊厳死が行われる可能性があることを示唆し, 多くの透析医がADや尊厳死を必要と考えている. 一方, 尊厳生は人間にとって非常に大切なことであり, 尊厳死よりもこの言葉を支持する透析医が多かったと考える. すべての国民は個人として生きる権利を認められており, 本邦では, 終末期にも自分が考える尊厳ある生き方を貫くということから始め, 家族および社会が納得する範囲で, 先ず尊厳生によるADが自己決定のために重要であると認識させる努力をすべきである.