著者
宮地 諒 森 健太郎 出口 美由樹 米倉 佐恵 波 拓夢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-140_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 臨床上,自動下肢伸展挙上運動や歩行など種々の課題の中で大腿骨頭の腹側への偏移を有する症例は多く,それに対し股関節安定化運動を実施する場面はしばしばみられる.しかし,副運動の制御についての報告は少なく,股関節安定化運動時の筋活動については明らかにされていない.そのため,本研究は大腿骨頭の腹側方向への負荷に対して股関節安定化運動を行った際の筋厚を測定し,関与する筋を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は下肢や脊柱に関節障害などの既往がなく,日常生活に影響する疼痛がない健常成人男性10名(25.2±4.3歳)とした.測定肢位は背臥位にてベルトで骨盤と大腿骨遠位部を固定した肢位とした.大腿骨頭の腹側方向への負荷は坐骨結節より遠位の大腿部に空気の抜いたボールを挿入し,空気入れでボールに空気を入れた際に10kgfの負荷となるように調節し,負荷を与えた.被験者には負荷が加わった際に負荷に対して負けない程度に保持することを指示した.測定は腸腰筋,小殿筋前部線維,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋を安静時と負荷抵抗時に超音波画像診断装置(LOGIQ e,GE ヘルスケアジャパン社) のBモードにてリニアプローブ(10MHz)を使用し撮像した.腸腰筋は鼠径部中央,小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋は上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の遠位1/3部にて測定した.取得した画像から画像解析プログラムImage Jを使用して各筋の筋厚を計測した.統計解析はSPSSVer.19(日本アイ・ビーエム社)を使用し,安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較は対応のあるt検定,各筋の筋厚変化率(安静時/負荷抵抗時)の比較は反復測定分散分析と下位検定にTukey法を行った.【結果】 安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較では小殿筋前部線維のみ有意に低値(P<0.05)を示したが,その他の筋では有意差を認めなかった.各筋の筋厚変化率の比較では小殿筋前部線維が中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋よりも有意に高値(P<0.05)を示した.【結論】 大腿骨頭の腹側方向への負荷に対する抵抗時には小殿筋前部線維の筋厚変化が腸腰筋,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋と比較して大きい.そのため,大腿骨頭の腹側偏移に対する股関節の安定化には小殿筋の関与が考えられ,小殿筋にも着目したエクササイズの検討が必要であることが示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には事前にヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて研究の意義,方法,不利益等について十分に説明し参加の同意署名を得た上で実施した.