著者
美原 恒 杉木 雅彦 吉田 悦男 丸山 真杉 津島 弘文
出版者
宮崎医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

前年度の研究により、みみず(Lumbricus rubellus)の乾燥粉末中に線溶活性作用をもつ新しい酵素が存在すること、さらにラット、イヌにこの乾燥粉末を経口投与すると、血中線溶活性の亢進、血管内血栓の溶解がおこることから、本年度はヒトへのみみず乾燥粉末の経口投与実験を施行した。実験はVoiunteer7人に腸溶カプセルにみみず乾燥粉末200mgを封入し、1日3回食後1カプセルづつ、計3カプセルを17日間経口投与した。投与前、投与後、毎日一定時間に採血し、その線溶活性、フィブリン分解産物(FDP)、組織性プラスミノ-ゲン・アクチベ-タ-(tーPA)抗原量をそれぞれ測定した。その結果、血液性状の変化で最も著明であったことは、みみず粉末投与24時間後FDPが明らかに増加しており、このFDPがフィブリン分解産物であることを確認する目的で行なったDーD dimerの測定によっても、FDPの上昇とDーD dimerの上昇は平行していた。この結果は、明らかにみみず乾燥粉末の経口投与により、血管内フィブリンの溶解がおこっていることを示すものであると確信された。さらに、投与前には殆ど認められなかったtーPA抗原量が、投与後次第に増加し、実験終了時にはかなり高いtーPA抗原量が測定された。この事実は、このみみず乾燥粉末により生体内の内因性tーPAが放出されることを意味するものと思われた。さらに、みみず乾燥粉末中の血小板凝集抑制物質について追究した結果、血小板凝集抑制活性をもつ2つの分画が得られた。その物質の一つは既に血小板凝集作用をもつことが知られているアデノシンであったが、もう一方の分画は全く未知の物質であった。この未知物質につき種々の方法により物質の同定を行ない、分子量282、化学式C_<12>H_<19>O_4SNaであるフラン化合物と同定された。さらに、この物質は血管拡張作用をも有していた。以上の結果よりみみず乾燥粉末が血栓症治療剤として有用であることが明らかとなった。