著者
坂口 孝司 中島 暉 鶴田 猛彦 平田 豊
出版者
宮崎医科大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

世界的にエネルギ-資源の枯渇が予想される現在,ウラン,トリウムなどの未利用核燃料資源の開発利用は,われわれ人類に課せられた重要な研究課題である。一方,核燃料資源の精錬,加工に伴って排出されるウランなどの放射性核種は人類の生存に大きな脅威を与えている。当研究グル-プは,タンニンなどのポリヒドロキシフェニル基を多数もっている生体系物質が優れたウラン吸着能をもっていることを見出し,これらの基礎的知見にもとずいて,柿渋などのタンニン系化合物を基材とする新規のウラン吸着剤を開発した。なかでも柿渋タンニン系吸着剤(固定化柿渋)は極めて優れたウラン吸着能を示し,1gの吸着剤当りに1.7gのウランを吸着することができる。平成元年度から動力炉・核燃料開発事業団人形峠事業所の協力を得て,ウラン含有廃水からのウラン回収の現地テストを行い,次の成果を得た。(1)該吸着剤は10〜15ppbレベル,数十ppmレベルの廃水中のウランを効率的に回収除去することができる。(2)該吸着剤に吸着されたウランは0.1N程度の希酸によって容易に脱着することができ,吸脱着操作を繰り返し行うことができる。含ウラン廃水からのウラン吸脱着を17回繰り返しても該吸着剤のウラン吸着能の劣化はほとんど認められない。(3)該吸着剤はpH5〜8の広い範囲でウランを吸着することができる。これらの基礎的知見にもとずいて,本法の実用化のための基礎条件を解析した。その結果,該吸着剤は,バッチ法,カラム法によるウランの回収除去に適用できること,ベット多段処理方式,軟質ゲル固液処理方式などの方式で固定化柿渋吸着剤と含ウラン廃水との固液接触を容易にすることにより,極めて効率的にウランを回収できることが明らかになった。以上の研究により,固定化柿渋は含ウラン廃水の処理に実用化できることが示唆された。
著者
美原 恒 杉木 雅彦 吉田 悦男 丸山 真杉 津島 弘文
出版者
宮崎医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

前年度の研究により、みみず(Lumbricus rubellus)の乾燥粉末中に線溶活性作用をもつ新しい酵素が存在すること、さらにラット、イヌにこの乾燥粉末を経口投与すると、血中線溶活性の亢進、血管内血栓の溶解がおこることから、本年度はヒトへのみみず乾燥粉末の経口投与実験を施行した。実験はVoiunteer7人に腸溶カプセルにみみず乾燥粉末200mgを封入し、1日3回食後1カプセルづつ、計3カプセルを17日間経口投与した。投与前、投与後、毎日一定時間に採血し、その線溶活性、フィブリン分解産物(FDP)、組織性プラスミノ-ゲン・アクチベ-タ-(tーPA)抗原量をそれぞれ測定した。その結果、血液性状の変化で最も著明であったことは、みみず粉末投与24時間後FDPが明らかに増加しており、このFDPがフィブリン分解産物であることを確認する目的で行なったDーD dimerの測定によっても、FDPの上昇とDーD dimerの上昇は平行していた。この結果は、明らかにみみず乾燥粉末の経口投与により、血管内フィブリンの溶解がおこっていることを示すものであると確信された。さらに、投与前には殆ど認められなかったtーPA抗原量が、投与後次第に増加し、実験終了時にはかなり高いtーPA抗原量が測定された。この事実は、このみみず乾燥粉末により生体内の内因性tーPAが放出されることを意味するものと思われた。さらに、みみず乾燥粉末中の血小板凝集抑制物質について追究した結果、血小板凝集抑制活性をもつ2つの分画が得られた。その物質の一つは既に血小板凝集作用をもつことが知られているアデノシンであったが、もう一方の分画は全く未知の物質であった。この未知物質につき種々の方法により物質の同定を行ない、分子量282、化学式C_<12>H_<19>O_4SNaであるフラン化合物と同定された。さらに、この物質は血管拡張作用をも有していた。以上の結果よりみみず乾燥粉末が血栓症治療剤として有用であることが明らかとなった。
著者
坂口 孝司 中島 暉 鶴田 猛彦
出版者
宮崎医科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

世界的にエネルギー資源の枯渇が予想される現在,ウラン,トリウム等の未利用核燃料資源の開発利用は,われわれ人類に課せられた重要な研究課題である。一方,核燃料の採鉱,製精錬,加工に伴って排出されるウラン等の放射性核種による自然環境の汚染は,人間の生存に大きな脅威を与えている。申請者は,ここ十数年来,ウランの生体濃縮について総合的解析を行い,放射菌,糸状菌などの微生物が優れたウラン濃縮能を持っていることを見出した。これらの微生物の中には,キレート樹脂に匹敵するか,それ以上の濃縮能を持っているものが存在する。本調査研究では,これらの知見をもとにして,世界の主要ウラン生産国であるアメリカ,カナダのウラン鉱山地域,及び,温泉,砂漠,湿地などの特殊環境地域に分布している高性能ウラン濃縮菌を広く検索し,これらの微生物を利用するウランのバイオプロセッシングについて総合的に解析し,未利用ウラン資源の総合開発を図ることを目的とする。以上の目的を遂行するため,平成5〜7年度にかけて,カナダ,米国のタイプの違ったウラン鉱床帯,及び,温泉,砂漠,湿地などの特殊環境地域に棲息している微生物について,そのウラン濃縮能を解析した。800種以上の分離菌について,ウラン濃縮能のスクリーニングテストを行った結果,これらの微生物のなかには,ウラン濃縮能の低い菌種から高い菌種まで,幅広く分布していることがわかった。カナダ,米国のウラン鉱床地域で分離した数百種の微生物から,Arthro-bacter属,Bacillus属に属する細菌も含めて、高性能ウラン濃縮菌数種を分離することができた。これらの高性能ウラン濃縮菌の1種,Arthrobactersp.は,極めて優れたウラン濃縮能を持っており,菌体1g当りに,600mgにも及ぶ多量のウランを濃縮することができる。この菌のウラン濃縮容量は,5mEg/gを示し,このウラン濃縮能は,実に,市販キレート樹脂の2倍にも達する。北アメリカのウラン鉱床で新たに発見したArthrobacter sp.は,極めて優れたウラン濃縮能を持っているが,該菌のウラン取り込みが細胞のどの部分で行われるかを,高性能ウラン濃縮菌の1種であるBacillus subtilisと対比しながら,電子顕微鏡で解析してみた。その結果,Bacillus subtilisにおいては,ウラン細胞の表面に濃縮されているが,これと対照的に,Arthrobacter sp.では,ウランは細胞内部に強く濃縮されていることが明らかになった。また,Arthrobacter sp.は,ウランのみならず,トリウムに対しても優れた濃縮能を示す。15mgの該菌体は,4×10^<-5>Mトリカム溶液(pH3.5)100mlから,定量的にトリウムを濃縮することができる。また,該菌(15mg)は,ウランとトリカムの等モル混合溶液(各イオン4×10^<-5>M,pH3.5)100mlから,40%のウラン,100%のトリウムを,それぞれ濃縮することができる。このように,該菌は,pH3.5では,ウランよりもトリウムに対して高い選択濃縮能を示す。また一方、Arthrobacter sp.菌体を,ポリアクリルアミドゲルで包括固定した菌体も,ウランをよく吸着することができる。固定化菌体に吸着されたウランは,0.1M炭酸ナトリウム溶液で,容易に脱着することができるので,この溶液を脱着剤として,ウランの吸脱着操作を繰り返し行うことができる。吸脱着を数回繰り返しても,固定化菌体のウラン吸着能は劣化しない。北アメリカのウラン鉱床地帯で新たに発見したArthrobacter sp.Bacillus sp.などの細菌は,ウラン,トリウムなどの核燃料元素に対して極めて高い濃縮能を示すが,これらの菌体を利用して,ウラン精錬廃水などの含核燃料廃水から,ウランなどの核種を,極めて効率的に回収することができた.以上のように,本研究で分離したArthrobacter sp.などの微生物は,キレート樹脂の2倍以上のウラン濃縮能を持っている。該菌のウラン吸着特性を種々の角度から詳しく解析した結果,これらの高性能ウラン濃縮菌は,ウランの採鉱,製錬,加工などのバイオプロセッシングに適用できることが実証された。
著者
名和 行文 丸山 治彦 大橋 真 阿部 達也 緒方 克己 今井 淳一
出版者
宮崎医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

宮崎県下では1988年に我々が世界初のドロレス顎口虫人体感染確定診断例を見いだし、それ以前の7例の類似症例のうち皮膚生検で虫体が確認されていた2例からも、パラフィンブロックから虫体を剖出し、いずれもドロレス顎口虫幼虫であると同定した。それ以後も新規患者の発生が続き、延べ14例(虫体確認例4例)の患者を見つけた。問診上、14例中13例は渓流釣り愛好家あるいはその家族で、渓流魚の生食歴があり、これが感染源として重要であると推測された。また、1例はマムシ生食の既往歴がある。患者への感染源、および流行地域でのドロレス顎口虫の生活環を明らかにする目的で、まず終宿主である野生のイノシシについて調査を実施したところ、宮崎県の中央山地では現在でもほぼ100%の感染率であった。また、雌成虫より虫卵を取り出し、人工孵化して得た第1期幼虫を第1中間宿主である冷水型ケンミジンコに感染させて、第3期幼虫を得ることができた。次に、第2中間宿主や待機宿主について調査をおこなったところ、患者発生と密接な関係のある西都市銀鏡地区に棲息するマムシにはドロレス顎口虫幼虫が濃厚にしかも100%という高率で寄生しており、この幼虫をブタに感染させたところ成虫が回収された。さらに同地区で捕獲されたシマヘビも幼虫を保有していた。聞き取り調査によると野生のイノシシはヘビ類を食するということなので、自然界の生活環のなかでヘビが重要であると推察される。患者への感染を源として、問診では渓流魚が感染源となっている可能性が高い。そこで我々はヤマメについて約200匹を検査したが、これまでのところ幼虫を検出することはできなかった。また、1990年にはブル-ギルを刺身にして食した夫婦が同時に発症したため、一ツ瀬ダムにて捕獲したブル-ギル約200匹についても検査をしたが、幼虫は発見できなかった。したがって今後更に多数の検体についての調査を実施する必要がある。
著者
直井 信久 中馬 秀樹 中崎 秀二 丸岩 太 新井 三樹 中野 徹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本年度の研究は人体で計測した臨床電気生理学的実験とネコ、ニワトリ網膜を用いて行った動物網膜の電気生理学的実験を行った。臨床電気生理学的には正常者と網膜内層の異常があると考えられる緑内障眼において、多局所網膜電図(Sutterら)を測定した。緑内障眼では有意に多局所網膜電図各波の振幅の低下、頂点潜時の延長が認められたが、これが網膜内層の変化を反映しているのか、視細胞など外層の変化を反映しているのかは、来年度以降の基礎実験が必要である。基礎実験の内、M波については薬理学的手法を用いて行った。TTXを用いてナトリウム依存性活動電位を抑制するとM波は変化しないがERGのoff反応は減少した。M波のon反応はAPB投与により極性が反転し、この反転した波はaspartateによって消失した。また網膜電図のSustained negativer responseはAPBによって変化しなかった。この様にM波の臨床的ERGへの関与は小さいが、パターン刺激のように小さい刺激野で刺激する場合などでは関与する可能性が考えられた。Scotopic threshold response(STR)に関しては、微少電極でこの波のdepth profileを調べることができたが、STRは内網状層付近で最大となり、網膜中心付近(60%の深さ)で極性が逆転した。このことは、この点より近位側に電流のsinkが存在することが推定され、電流のsourceはさらに遠位側にあると考えられた。またカリウム選択性電極を用いてカリウム変化を測定した結果ではカリウム濃度の変化と網膜電図の変化に密接な関係がみとめられた。
著者
新井 三樹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

パターン視覚誘発電位(PVEP)は眼科領域では眼底黄斑部や視神経の機能評価に用いられ、病変による機能障害の判定などに利用される。PVEPのうち刺激の反転頻度が早い、8ヘルツ以上のものをsteady-statePVEPという。刺激の空間周波数を変化させるとPVEPの振幅はある空間周波数で最大となり、その空間周波数より高いものでも低いものでも振幅は低下する。この現象を空間周波数特性と呼ぶが、この特性を利用して他覚的に視力を測定することができるようにしたものがスイープPVEPである。この方法で得られた視力(PVEP視力)と通常の視力表を使った自覚的視力検査との違いをみるために正常者の眼前にアクリルフィルターをおき視力を低下させてPVEP視力と通常の視力を測定し比較した。フィルターなしの状態で通常の視力検査での視力が1.0以上のときでもPVEP視力は0.6から0.7を示した。アクリルフィルターの数を増やすと通常の視力検査による視力が低下するよりも早くPVEP視力は低下を示した。通常の視力検査とPVEP視力は0.3で一致したが、1.0から0.3のあいだでも両視力検査の値は1オクターブ以上離れることはなかった。実際の臨床ではどれくらい視力が障害されているのかを評価することに使用するため、視力が良い状態での両視力検査の乖離はあまり問題にならないと思われる。また、各種眼疾患による視力障害をもつ80例に対しても両視力検査を行い相関をみた。通常の視力検査では0.3より良い症例ではPVEP視力は低くなり、反対に通常の視力が0.3以下になるとPVEP視力はよくなる傾向がみられた。両視力検査の間の相関係数は0.66であった。特に黄斑疾患の症例で両者の相関は高かった。乳幼児に対してもPVEP視力測定を行う予定である。