著者
津川 恵子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.322-338, 1977
被引用文献数
2 2

著者は, 歯牙酸蝕症を初期に発見することによって予防対策, 職場転換等の適切な処置に対処することのできることを目的として某バッテリー工場における酸蒸気の発生する部門に従事する従業員を対象として4年間にわたり肉眼的方法 (著者らの教室で定めたもの) 及び林の方法によるレプリカ法での光学顕微鏡所見とを観察し, 更にそのなかから4年間にわたって検しえた同一人について年次的な推移を比較検討した。また肉眼的方法による診断とレプリカ法による所見との関係について観察した。<BR>対象作業部門の空気中酸量は, 平均0.475mg/klであり許容濃度1mg/klに比してかなり低い濃度であった。<BR>結果<BR>1) 従業員の自覚症状は, 約半数が何らかの症状を訴え, 前歯に冷たい空気がしみる, 時々前歯に嫌な感じがする, 作業中に前歯がしみる等が多くみられた。<BR>2) 罹患者は, 年齢別には20歳代に多く, 職齢では6~10年に多くみられた。<BR>3) 罹患歯率は上顎に比し下顎に多く, 歯別では下顎中切歯に多く, 上顎切歯に少ない。逐年的に罹患歯率は, 増加を示した。<BR>4) レプリカ所見では, 林の程度分数 (R<SUB>0</SUB>-R<SUB>4</SUB>) のうちR<SUB>2・3</SUB>が1年度で77.5%と高率を示したが, R<SUB>2</SUB>は逐年的に減少し, R<SUB>3</SUB>は増加した。<BR>5) 同一被検者についての4ヵ年間の推移では, 経年的に罹患率を増し, 罹患歯率では直線的な増加を示した。許容濃度以下の空気中酸量にあっても長期間にわたって作業に従事することによって, 次第に侵蝕の状況が進んでゆく状況をみることができる。レプリカ法においてもR<SUB>0・1</SUB>からR<SUB>3</SUB>へと進行する状況をみることができた。<BR>6) 肉眼的診断とレプリカ所見との関係では, E<SUB>0</SUB> (肉眼的に正常のもの) から48~65%に, F<SUB>±</SUB> (凝問型) においても70~80%にR<SUB>2・3</SUB>をみとめた。<BR>7) 歯牙酸蝕症の初期変化は, レプリカ法を用いて鏡検することによって早期に発見が可能であるので, その時点, あるいは進行度によって職場転換や予防のための処置を実施することが可能となる。