著者
津端 由佳里
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.457-463, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
13

我が国は超高齢化社会となり,がん治療担当医は高齢がん患者の治療に直面する頻度が急増している.高齢がん患者に対する治療方針の検討に際しては,1)機能評価(Geriatric assessment;GA)の実施による患者の能力・脆弱性と介入の必要性の評価,2)予定している治療のリスク評価,3)1)と2)の結果に応じて標準治療をmodifyする必要性の判断,の3つのステップがある.現時点で日本のがん診療においては最初のステップである高齢がん患者の脆弱性のスクリーニングおよびGAの実施も残念なことにまだ一般的ではない.しかしながら,GAを実施することでPSのみでは評価のできない問題点の抽出が可能であり,GAツールの普及とGA結果に基づいた介入方法の実装への取り組みが国内でも始動したところである.GAの実施とその結果に基づく介入は,患者と医療者のコミュニケーションを円滑にし,無益な有害事象を減少させるというGAの有用性に関するエビデンスもそろい始めており,患者個々を多面的に評価したうえで,GA結果を踏まえた治療方針の検討と,介入可能な要素に関して積極的に介入しつつがん診療を行っていくことが高齢者のがん診療では世界的にも標準化されつつある.今後GAの応用がさらに普及し,すべての高齢がん患者にGAを実施しその結果から有害事象や予後予測を行い個々の状態に合わせた治療内容の提示とサポート体制を提供することで,高齢がん患者の個別化医療がさらに推進されることを期待したい.