著者
浅妻 章如
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.30-56, 2023 (Released:2023-08-24)
参考文献数
71

国際租税法における企業課税をめぐり,伝統的には生産地基準で所得の地理的割当を観念してきた。そこでいう生産地基準とは,人,機械,工場等の有形の生産要素の稼働が from what の意味での所得源泉であり,その場所が from where の意味での所得源泉である,という考え方である。所得の地理的割当と,移転価格税制で独立当事者間原則により導かれる所得の人的帰属とは,異なる。しかし,21世紀に入り,独立当事者間原則を微修正し,有形の生産要素の稼働を重視する傾向が生まれつつある。他方,国家間課税権配分に需要地基準を取り入れようとする議論が,1990年代以降学界で,2018年以降は政府代表者レベルで,論じられるようになってきた。生産要素に着目して課税関係を決めることへの懐疑といえる。 個人に関する最適課税論は,地理的な視点を含まない点で国際租税法と異なる。しかし,生産要素に着目する伝統的な考え方に対し,事後的な結果も考慮に入れる考え方の意義が論じられるようになってきた,という点で,共通点がある。また,国際租税法における需要地基準への期待の高まりも,個人の最適課税論における事後的な結果の重視の姿勢も,GAFAのような勝者総取り的な企業の所得や,個人に関するスーパースター効果のような勝者総取り的な所得への対応という観点から,正当化しうる。