著者
細田 昭男 浜 弘司 鈴木 健 安藤 幸夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.83-90, 1993
被引用文献数
1 8

1988∼1990年に広島県立農業技術センター(東広島市八本松町)内にアブラムシ類が移出・入のできない小型ハウスを組み立て,ナズナ,オオイヌノフグリとムクゲの3種の冬寄主植物上で越冬したワタアブラムシ個体群のナスとキュウリの夏寄主植物に対する選好性と各寄主植物上で増殖した個体群のフェニトロチオンに対する感受性を検討した。<br>1) ナズナ,オオイヌノフグリなどの冬寄主植物で越冬した個体群の中には,ナスを選好するタイプとキュウリを選好するタイプが存在し,地域や年次によって,一つのタイプが優占する場合と,二つのタイプが混在する場合が認められた。<br>2) ナスとキュウリに寄生した個体群をそれぞれナズナとオオイヌノフグリ上で越冬させると,翌春にはナス由来の個体群はナスを,キュウリ由来の個体群はキュウリを選好した。<br>3) 卵越冬すると考えられている越冬寄主植物のムクゲに寄生した個体群も,春にはナス由来の個体群はナスに,キュウリ由来の個体群はキュウリに選好性を示した。<br>4) ナス由来とキュウリ由来の個体群をそれぞれナズナ,オオイヌノフグリとムクゲの冬寄主植物で越冬させ,翌春ナスとキュウリ上で増殖した個体群のフェニトロチオンに対する感受性は,ナス個体群では高くキュウリ個体群は低く,両個体群間で薬剤感受性は異なった。<br>5) 以上の結果から,ワタアブラムシの中にはナスとキュウリをそれぞれ選好するタイプが存在し,越冬寄主植物上では二つのタイプが混在していても,春∼秋の間もそれぞれの寄主選好性は維持されることが示唆された。そして,このことがナス科とウリ科作物寄生個体群の有機リン剤感受性の差異を維持している大きな要因と考えられた。