著者
堀井 郁夫 浜田 悦昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.463-467, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
3

医薬品の開発を進めるに際しては開発ステージに応じた非臨床安全性試験の実施が求められており,その基本となっているのが,単回投与毒性試験と反復投与毒性試験,いわゆる一般毒性試験である.単回投与毒性試験は単回投与によって概略の致死量(げっ歯類)や毒性兆候が発現する用量(非げっ歯類)を明らかにすること,反復投与毒性試験は繰り返し投与によって誘起される毒作用を明確にし,毒作用を誘起する用量と毒作用の認められない用量(無毒性量)を明らかにすることを目的としている.実験方法や実施時期はICHの合意に基づいたガイドラインで規定され,詳細について記載した解説書も発行されている.両試験とも試験で認められた種々の変化のどれが毒作用か,認められた毒作用はcriticalか否か,暴露状態と毒作用の関係等を考慮し,慎重に結果を解釈する必要がある.更に,毒作用の発現機序,発現の程度,回復性,治療係数,臨床試験上の対処手段等の観点から総合的に安全性評価を行うことが,適切な臨床開発を進めるためには不可欠である.
著者
田原 誠 柴田 篤 山口 志津代 浜田 悦昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.215-226, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
44
被引用文献数
1

スニチニブリンゴ酸塩(以下スニチニブと記す)は腫瘍の細胞増殖,血管新生および転移の制御に関与する様々な受容体型チロシンキナーゼ(RTK)におけるシグナル伝達を選択的に遮断する,マルチターゲットの経口チロシンキナーゼ阻害薬である.スニチニブおよび主要代謝物(脱エチル体,SU012662)は酵素レベルまたは細胞レベルのin vitroアッセイにおいてVEGFR-1,-2および-3,PDGFR-αおよび-β,KIT,CSF-1R,FLT-3ならびにRETのチロシンキナーゼ活性を強く阻害した.またスニチニブはin vitroで内皮細胞の増殖および発芽を阻害し,その作用機序として血管新生阻害活性が重要であることが示された.さらに,上記の標的RTKを発現するGISTを含む各種腫瘍細胞の増殖を阻害した.スニチニブはin vivo試験においても標的RTKリン酸化,VEGF誘導性の血管透過性亢進および血管新生を阻害し,種々の異種移植腫瘍モデルに対し,抗腫瘍効果(増殖阻害および腫瘍退縮)を示した.これらの試験の用量反応相関およびPK/PD解析の結果から,スニチニブの有効血漿中濃度は50 ng/mLと推定され,この結果は臨床試験における目標血漿中濃度の設定にも用いられた.臨床試験では,イマチニブに治療抵抗性または不忍容の消化管間質腫瘍(GIST)患者および腎細胞癌患者におけるスニチニブの有効性および安全性が国内外で検討され,いずれの疾患においても,日本人患者における治療成績は外国人患者における成績と同様に優れた有効性を示した.また,日本人患者におけるスニチニブによる有害事象発現の頻度は外国第III相試験より高かったが,概して可逆的で,減量や休薬により管理可能であった.これらの非臨床および臨床試験成績よりスニチニブの有用性が明らかとなり,本邦ではイマチニブ抵抗性のGISTおよび根治切除不能または転移性の腎細胞癌の治療薬として2008年4月に承認された.