著者
森住 誠 本間 暢 石原 美加 松田 光弘 浦田 元樹 辻本 雅之
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.363-370, 2020 (Released:2021-02-13)
参考文献数
13

スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠 (ST合剤)は、ニューモシスチス肺炎 (PCP)予防の第一選択薬である。ST合剤は、尿細管上皮細胞のトランスポーターを阻害し、Scr値および血清カリウム (K)値を上昇させることが知られている。しかしながら、これらの検査値が、腎機能低下患者において、どのように変動するかを調査した報告はない。そこで、本研究では、腎機能低下患者へのST合剤予防投与による有害事象評価の基準を明らかにすることを目的として、PCP予防目的のST合剤投与後のScr値および血清K値の変動と投与開始時の腎機能との関連性について検討した。2016年4月から2018年3月に、ステロイド治療におけるPCP予防目的でST合剤が開始された患者をeGFR(mL/min/1.73m2)により、腎機能正常群(eGFR≧60, n=34)、中等度腎機能低下群(30≦eGFR<60, n=23)、高度腎機能低下群(eGFR<30, n=9)に群分けし、投与開始日(day1)と13-15日目 (day14)のScr値および血清K値の変化量を調査した。さらに、重回帰分析により、それぞれの変化量に影響する因子を検討した。ST合剤の予防投与は、腎機能正常群でScr値および血清K値を有意に上昇させたが、高度腎機能低下群では有意な変動を示さなかった。また、ST合剤投与によるScr値の変化量は投与前のeGFR(mL/min/1.73m2)に正の影響を受け、血清K値の変化量はeGFRに影響を受けなかった。さらに、重回帰分析により、Scr値変化量に対してeGFR(β=0.16)、ST合剤の週あたりの投与量 (β=0.24)、並びにレニン—アンジオテンシン—アルドステロン系(RAAS)阻害薬の併用 (β=0.12)が、血清K値変化量に対しては腎疾患 (β=0.20)並びにRAAS阻害薬の併用 (β=0.23)がそれぞれ有意な因子として検出された。以上の結果から、Scr値の上昇は、腎機能低下患者において極めて軽微(むしろ低下傾向)であることが示された。ただし、Scr値や血清K値の変動は、ST合剤の投与量、原疾患や併用薬の複合的要因に大きく影響されるため、ST合剤の予防投与時は腎機能によらず腎障害や高K血症の出現に留意する必要があると考えられた。
著者
坂本 愛 浦田 元樹 岩川 真也 田中 香奈 北村 芳子
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.13-23, 2018 (Released:2018-07-27)
参考文献数
24

高齢者におけるポリファーマシーは、潜在的に不適切な薬物が増加することで、有害事象が増加する危険性がある。慢性腎臓病(CKD)患者は、一般的に服用薬が増加する傾向にあるとされるが、CKD病期に応じた変化や、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用程度については明らかではない。そこで、2016年1~6月に入院した65歳以上の647例を対象として、CKDの糸球体濾過量(GFR)区分で群分けを行い、入院時の常用薬のうち定時服用薬について、服用薬と用法の種類を調査した。服用薬の種類が6種類以上でポリファーマシーと定義した。加えて、高齢者および腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用状況と入院中の中止・他剤への変更状況について調査した。その結果、ポリファーマシーの割合はG1/2群の42.0%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、90.5%と有意に高く、用法の種類もG4群以降にG1/2群に比べ有意な増加が認められた。高齢者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、G1/2群の50.7%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、71.4%と有意に高かったが、腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、各GFR区分において33~50%程度で、有意な差は認められなかった。有害事象の潜在的リスク因子となる薬物は、GFR区分に応じて種類に特徴を認め、入院中に中止・他剤への変更となった割合はG4、G5群が他のGFR区分と比較して明らかに高かった。本検討より、CKDを有する高齢者では病期の進行に伴いポリファーマシーの割合は増加し、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合も増加する傾向にあることが明らかとなった。そして、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物はCKD病期に応じた薬学的管理が重要であると示唆された。