著者
中村 忠博 松永 典子 樋口 則英 北原 隆志 佐々木 均
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.3-9, 2013 (Released:2018-04-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1

慢性腎臓病(CKD)患者の多くは高齢者であり、腸の運動機能低下などにより、便秘を有する患者が多い。わが国では便秘の治療に、習慣性のない緩下剤として酸化マグネシウム(MgO)製剤が広く使用され長期投与されていることも多い。MgO製剤は、わが国だけでなく、欧米においても腎機能低下患者では慎重投与であり、使用する際には高Mg血症への注意が必要である。平成20年11月には医薬品医療機器等安全性情報により、MgO製剤の長期投与における「高マグネシウム(Mg)血症」についての注意喚起が図られている。腎機能低下患者に対するMgO製剤の腎機能とMgO製剤の用量に関するエビデンスはほとんど見当たらない。そこで、腎機能と高Mg血症の発現リスクおよびMgO製剤の用量と血清Mg値への影響を検討した。2010年4月1日〜2012年2月29日の期間にMgO製剤を使用し、血清Mg値および血清クレアチニン(Cr)値の検査を実施した患者を抽出した。その中でCKD診療ガイド2009において、病期ステージ3以上に分類されるeGFR<60 mL/min/1.73m2であり、血清Mg値および血清Cr値の検査時にMgO製剤を服用していた87例を対象とした。その結果、eGFRと血清Mg値に有意な相関関係が得られた。45≦eGFR<60の患者では、投与量と血清Mg値に有意な相関関係は認められなかった。eGFR<45の患者では投与量と血清Mg値に有意な相関が認められ、eGFR<15では、平均血清Mg値が正常範囲外まで上昇した。また、CKD病期ステージ5(eGFR<15)の患者では、血清Mg値が6 mg/dL以上がMgO製剤1000mg/日以上で認められ、eGFR<15の患者では1000mg/日以上の投与量では高Mg血症への厳重な注意が必要と考えられた。今回の研究結果より、eGFR≧45の患者では、eGFR<45の患者よりもMgO製剤は比較的安全に使用できることが示唆された。さらに、eGFR<45の患者も、血清Mg値の測定を行い、腎機能に応じた投与量を設定することで、MgOを安全に使用することが可能であることが示唆された。
著者
大谷 知子 賀勢 泰子 國友 一史 下岡 和美 川添 和義 佐藤 陽一 山内 あい子
出版者
The Japanese Society of Nephrology and Pharmacotherapy
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-12, 2018 (Released:2018-07-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

寝たきり高齢患者のための有効で安全な薬物療法を行うためには、加齢が薬物体内動態に影響を及ぼすため、腎機能の正確な評価が必要である。日本では、酵素法により測定された血清クレアチニン(SCr)値を基にした日本人向け推算糸球体濾過量(eGFR)やCockcroft-Gault(CG)式により算出した推定クレアチニンクリアランス(eCCr)が患者の腎機能の指標として使用されている。しかし、eGFRやeCCrを高齢患者にそのまま使用するにはいくつかの問題があり、CG式は、外国人母集団のデータを基に作成された式であること、Jaffe法により比色法で測定されたSCr値を用いていることである。これらの問題点に対処するため、これまでSCr値に対する様々な補正プロトコールが提案されている。本研究の目的は、寝たきり高齢患者を対象に、24時間蓄尿法による実測CCr(mCCr)と比較して、eCCrを算出する最も精度の高いSCr補正方法を決定することである。2014年8月から2015年5月に鳴門山上病院入院中の65歳以上の患者を対象に、mCCrを測定した。次の(a)~(e)の方法で求めたSCr値を基にCG式からeCCrを算出し、mCCrと比較した。(a)酵素法で測定したSCr値、(b)+0.2補正法:酵素法SCr値に0.2 mg/dLを加えてJaffe法の値に換算したSCr値、(c)Dooley法:SCr値<0.06 mmol/Lの場合0.06 mmol/Lに補正、(d)Smythe法:SCr値<1.0 mg/dLの場合1.0 mg/dLに補正、(e)古久保法:男性はSCr値<0.8 mg/dLの場合0.8 mg/dLに、女性はSCr値<0.6 mg/dLの場合0.6 mg/dLに補正した。mCCr(対照群)と各群のeCCrをDunnett検定により比較した結果、(a)群と(d)群においてmCCrとの間に各々有意な差(p<0.05)が認められた。Bland-Altman分析を行った結果、(b)群、(c)群および(e)群において、eCCrとmCCrとの間に一致性が認められた。予測精度をmCCrの±30%以内のeCCrを有する患者のパーセンテージとして比較した結果、(b)群で75.6%と最も高く、続いて(c)群で71.1%であった。異なる補正方法によるeCCrとmCCrとを比較した結果、酵素法で測定したSCr値に0.2 mg/dLを加えてJaffe法に近似させたSCr値を使った方が、eCCrとmCCrとの一致性がより高いことが明らかとなった。
著者
内海 紗良 前田 圭介 久保田 丈太 中谷 咲良 原田 義彦 成田 勇樹 猿渡 淳二 近藤 悠希 石塚 洋一 入江 徹美 門脇 大介 平田 純生
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-10, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
21

日本では、血清クレアチニン(SCr)値を用いたCockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランス(eCCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFRcr)によって腎機能が推算されるが、筋肉量の減少に伴うSCr値の低下により腎機能が過大評価されてしまう恐れがある。これを防ぐため臨床現場ではSCr値が0.6 mg/dL未満の患者に、SCr=0.6 mg/dLを代入して補正するround up法が汎用される。ところが、このround up法により腎機能推算の予測性が向上したといった報告は少なく、科学的根拠は乏しい状況である。本研究では、SCr=0.6 mg/dLへのround up法の妥当性を評価した。2017年5月から2017年8月に玉名地域医療保健センターに入院していた65歳以上でSCr値が 0.6 mg/dL未満のサルコペニア患者11名を対象に、後ろ向き解析を行った。酵素法により測定したSCr値を用いたeCCrおよびeGFRcrと、SCr=0.6 mg/dLにround upしたeCCr(round up)およびeGFRcr(round up)のそれぞれの値を、24時間蓄尿法で求めたCCr(mCCr)およびmCCr×0.715で換算したmodified GFRを基準値として比較した。相関・回帰分析、Bland-Altman分析および誤差指標から、eCCr(round up)値はeCCr値よりも腎機能を過小評価する傾向があった。eGFRcr値は腎機能を顕著に過大評価し、eGFRcr(round up)値は過大評価が軽減されるが、依然として過大評価傾向にあった。今回の検討からは、eCCr値およびeGFRcr値のどちらの推算式においてもround upの妥当性は示されなかった。このことから筋肉量が減少したサルコペニア患者においては、SCr値をround upすることは適切ではなく、むやみにround upを行うことは避けるべきである。
著者
平田 純生 柴田 啓智 宮村 重幸 門脇 大介
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.3-18, 2016 (Released:2018-04-02)
参考文献数
54

腎機能は糸球体濾過量(GFR)で表され、イヌリンクリアランスは最も正確なgold standardであるが、測定手技が煩雑であるため、実臨床ではあまり用いられない。多くは血清クレアチニン(Cr)値を基にした腎機能推算式であるCockcroft-Gault(CG)式による推算クレアチニンクリアランス(CCr)や日本人向け推算糸球体濾過量(eGFR)が用いられるが血清Cr値は男女差、筋肉量による差があり、併用薬による影響を受けることなどを理解しておく必要がある。腎排泄型薬物の投与設計には正確な腎機能の見積もりが必須であるが、標準体型男性以外ではeGFR(mL/min/1.73m2)ではなく体表面積未補正値(mL/min)を用いる必要がある。ただし抗菌薬・抗がん薬など投与量がmg/kgやmg/m2となっている際には体表面積補正値(mL/min/1.73m2)を使う。またCG式は肥満患者では腎機能を過大評価するため理想体重を用いる必要がある。添付文書にCCrによって投与量を定めている場合、そのほとんどが海外治験データによるため血清Cr値をJaffe法で測定されており、Jaffe法によるCCrはGFRに近似する。そのため添付文書上はCCrで表記されていても患者の腎機能には実測GFR、推算GFRまたは実測CCr×0.715を用いる。海外と日本の添付文書が同じCCrの記載であっても、ハイリスク薬では酵素法で測定したCCrで投与設計するとJaffe法と酵素法のわずかな差が過剰投与による重篤な副作用リスクにつながる恐れがある。痩せた高齢者で筋肉量が少ないためeGFRが高く推算される場合には、正確に腎機能を評価するには実測CCr×0.715あるいはシスタチンCによる体表面積未補正eGFR(mL/min)を用いる。若年者で血管作動薬・輸液の投与を受けている全身炎症の患者においては過大腎クリアランスにより腎機能が正常以上に高くなることがある。
著者
小林 豊 飯干 茜 渡邉 博文 井出 和希 堀内 祐希 手島 麻美子 中川 喜文 山口 安乃 小林 伸一郎 谷口 幹太 関 泰 榊間 昌哲 鈴木 豊秀
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.347-355, 2021 (Released:2021-12-29)
参考文献数
12

CKDシールは、腎機能情報共有により患者に有効かつ安全な薬物療法を提供することを目的に各地で検討されている。CKDシールに対する病院・薬局薬剤師のニーズに関する調査は存在するものの、患者が腎機能情報共有の必要性をどのように理解しているかは不明である。静岡県富士宮市でCKDシール貼付システムを構築するとともに、富士宮市立病院でシールを貼付した患者のニーズと、同地域における腎機能情報共有の現状と課題を調査した。2019年7月10日からの3か月間にお薬手帳にCKDシールの貼付を提案した228名の患者全員より同意を得た。医師と作成したプロトコルに基づく貼付を行った患者は62名(27%)であった。アンケートは入院患者、腎臓病教室受講患者、維持透析患者74名中67名(G3b/G4/G5/G5D=7/12/11/37、回答率91%)及び、腎臓病薬物療法の研修会に参加した薬局薬剤師20名中19名(回答率95%)から回答を得た。保険薬局で薬を貰った経験は患者51名(76%)が有したが、51名のうち腎機能を伝えた患者は10名(20%)のみであり、薬局薬剤師から腎機能を聞かれた患者は15名(29%)のみであった。一方、薬局薬剤師16名(84%)は検査値を入手できた時にのみ腎機能を確認していた。腎機能により薬を調節することへの患者の認知度は29名(43%)と低く、CKDシール貼付開始を全ての患者と薬局薬剤師が期待すると回答した。薬局薬剤師のCKDシール活用方法は用法用量等の確認だけでなく、患者とのコミュニケーションや生活指導が挙げられた。患者は薬局薬剤師に腎機能情報が必要との認識が低く、腎機能の共有はされていなかった。CKDシールが薬物療法適正化につながるだけでなく、腎機能情報共有の意義を患者に説明し理解を得ることで、CKDシールが貼られたお薬手帳の活用と薬剤師による腎臓病療養指導につながる可能性が示唆された。
著者
森住 誠 本間 暢 石原 美加 松田 光弘 浦田 元樹 辻本 雅之
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.363-370, 2020 (Released:2021-02-13)
参考文献数
13

スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠 (ST合剤)は、ニューモシスチス肺炎 (PCP)予防の第一選択薬である。ST合剤は、尿細管上皮細胞のトランスポーターを阻害し、Scr値および血清カリウム (K)値を上昇させることが知られている。しかしながら、これらの検査値が、腎機能低下患者において、どのように変動するかを調査した報告はない。そこで、本研究では、腎機能低下患者へのST合剤予防投与による有害事象評価の基準を明らかにすることを目的として、PCP予防目的のST合剤投与後のScr値および血清K値の変動と投与開始時の腎機能との関連性について検討した。2016年4月から2018年3月に、ステロイド治療におけるPCP予防目的でST合剤が開始された患者をeGFR(mL/min/1.73m2)により、腎機能正常群(eGFR≧60, n=34)、中等度腎機能低下群(30≦eGFR<60, n=23)、高度腎機能低下群(eGFR<30, n=9)に群分けし、投与開始日(day1)と13-15日目 (day14)のScr値および血清K値の変化量を調査した。さらに、重回帰分析により、それぞれの変化量に影響する因子を検討した。ST合剤の予防投与は、腎機能正常群でScr値および血清K値を有意に上昇させたが、高度腎機能低下群では有意な変動を示さなかった。また、ST合剤投与によるScr値の変化量は投与前のeGFR(mL/min/1.73m2)に正の影響を受け、血清K値の変化量はeGFRに影響を受けなかった。さらに、重回帰分析により、Scr値変化量に対してeGFR(β=0.16)、ST合剤の週あたりの投与量 (β=0.24)、並びにレニン—アンジオテンシン—アルドステロン系(RAAS)阻害薬の併用 (β=0.12)が、血清K値変化量に対しては腎疾患 (β=0.20)並びにRAAS阻害薬の併用 (β=0.23)がそれぞれ有意な因子として検出された。以上の結果から、Scr値の上昇は、腎機能低下患者において極めて軽微(むしろ低下傾向)であることが示された。ただし、Scr値や血清K値の変動は、ST合剤の投与量、原疾患や併用薬の複合的要因に大きく影響されるため、ST合剤の予防投与時は腎機能によらず腎障害や高K血症の出現に留意する必要があると考えられた。
著者
菱田 啓介 中島 里菜 松井 治幸 植 優衣 田村 友香 倉田 裕美 岡田 悠子
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.23-28, 2022 (Released:2022-04-09)
参考文献数
15

低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬は、慢性腎臓病の合併症である腎性貧血を治療する新しい選択肢であり、実臨床での使用が増加すると考えられるが、副作用についてのデータ集積は十分とはいえない。ロキサデュスタットでは甲状腺刺激ホルモン(TSH)減少が報告されているが、ダプロデュスタットでは甲状腺機能低下症が報告されており、HIF-PH阻害薬の使用による甲状腺機能への影響については明らかではない。そこで本研究では、ロキサデュスタット及びダプロデュスタットによるTSH減少作用について検討を行った。2021年2月から2021年7月に洛和会音羽記念病院でロキサデュスタットまたはダプロデュスタットを開始された維持血液透析患者のうち、開始前210日以内のTSH測定で基準値内かつ開始後もTSHが測定された者を対象として、後ろ向き解析を行った。ロキサデュスタット群9名のうち8名、ダプロデュスタット群12名のうち1名で基準値未満へのTSH減少が観察された。投与前後のTSH変化量はそれぞれ、-2.009 μIU/mL(95% CI = -3.181 to -0.837 μIU/mL; P = 0.004)及び+ 0.086 μIU/mL(95% CI = -0.560 to 0.732 μIU/mL; P = 0.775)であった。また、ロキサデュスタット群ではTSHが基準値下限の10分の1未満となるTSH著減も2名観察された。ロキサデュスタット投与により基準値未満へのTSH減少が認められた患者のうち2名がダプロデュスタットに変更となり、それぞれ13日後・15日後にTSHが基準値内へ改善した。HIF-PH阻害薬であるロキサデュスタットでは高率にTSH減少が発現することが明らかとなり、基準値下限10分の1未満まで著減する患者も観察されたため定期的な甲状腺関連の検査値モニタリングが必要と考えられた。TSH減少は薬剤固有の作用であることが示唆され、HIF-PH阻害薬間での変更によって腎性貧血治療の継続が可能であると考えられた。
著者
大野 能之 樋坂 章博 山田 麻衣子 山本 武人 鈴木 洋史
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.119-130, 2012 (Released:2018-04-02)
参考文献数
29

腎機能障害時には、各薬剤の腎排泄寄与率を正しく把握しておく必要がある。腎排泄寄与率とは、全身クリアランスに対する腎のクリアランスの割合を指す。この時重要なのが、基本的には未変化体の尿中排泄率である。不活性の代謝物を含めた腎排泄率が高くても、活性本体の未変化体の排泄が少なければ、腎機能の低下は薬効にさほど影響しない。ただし、内服薬の場合は、投与された薬剤が全身循環する割合、すなわちバイオアベイラビリティを考慮し、補正しなければならない。その他、腎から排泄される代謝物に薬効や毒性がある場合は、腎機能に応じて投与量を調整する必要がある。また、特に血中濃度半減期が極端に長い薬剤の場合は、体内から排泄が終了するまで、十分時間をとって観察されたデータを用いるべきである。 腎機能障害がある場合に、そうでない場合と同程度の血中濃度を維持する方法としては、一回あたりの投与量の減量と、一回あたりの投与量の減量はせず投与間隔を延長をする方法の2つが考えられる。投与量の調整は比較的簡便である一方、薬剤によっては血中濃度が定常状態に達するまでに時間を要することが懸念される。このような場合、速やかな効果発現を求めるのであれば、治療初期は通常用量で使用し、血中濃度が治療濃度域に達した後に減量するなどの対応が必要になる。 投与間隔を調整する場合には、1 回の用量は変わらないため、血中濃度のピーク値は通常使用時と同程度まで上がり、投与間隔をあける分、トラフ値も同程度となる。しかし、高濃度または低濃度の時間が継続するため、効果や副作用の面から望ましくない場合もある。こうした長所、短所を理解したうえで、個々の薬剤及び患者ごとに適切な投与設計を行うことが重要である。
著者
早川 兼司 三星 知 須藤 晴美 忰田 亮平 成田 一衛
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.173-177, 2022 (Released:2022-08-13)
参考文献数
8

CKD患者に対する腎排泄型薬剤の処方は過量投与による副作用リスクが高く、処方監査時には特に注意を要する。病院と診療所では腎機能に対して過量投与が疑われる薬剤の種類が異なる可能性があり、その特徴について調査した。2018年4月から5月に入院した1,630名の中から、除外基準に該当しなかった1,049名の持参薬について、改定45版腎機能別薬剤投与方法一覧に基づき、推奨される投与量よりも過量だった場合に過量投与疑いありと定義した。過量投与疑いがあった患者は66名(6.3%)、過量投与疑いのあった薬剤数は75剤であった。過量投与疑いあり群はCKDステージ2–3群では病院が34薬剤(58%)、CKDステージ4–5群では診療所が10薬剤(63%)を占め、CKDの進行に伴い診療所での過量投与が増加する傾向を認めた。薬効別ではH2遮断薬が11件、糖尿病治療薬が8件、抗アレルギー薬が8件、高尿酸血症治療薬が8件、抗菌薬が7件と過量投与疑いの件数が多かった。糖尿病治療薬の過量投与疑いは病院が有意に多く(P = 0.03)、抗精神病薬の過量投与疑いは診療所が有意に多かった(P = 0.03)。抗菌薬の過量投与疑いはCKDステージ2–3群において診療所が多い傾向を認めた(P = 0.17)。この結果は処方元医療機関の違いにより、腎機能低下時に注意すべき薬剤が異なる可能性を示した。これらを把握することで病院における持参薬の鑑別や保険薬局における処方監査の質を向上させると考えられる。また、過量投与疑いのあった薬剤は、日常的に処方されるものが多かったことから、処方監査時は薬剤の種類を限定せず腎機能を把握しておく必要がある。CKDシールや、院外処方箋への検査値印字、病院と保険薬局の情報共有による薬薬連携により、腎機能の指標となるデータを処方元医療機関もしくは患者本人から確認し調剤を行うことが、薬剤師業務の質を向上させCKD患者における安全な薬物療法を向上できる可能性がある。
著者
大東 真理子 藤田 大樹 足達 尚美 中川 直人
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.337-345, 2021 (Released:2021-12-29)
参考文献数
15

薬剤師が保険薬局で処方監査を行う際、腎機能評価の指標として体表面積未補正eGFR(個別化eGFR)の使用が推奨されるが、後期高齢者に多いフレイル・サルコペニア症例では、推算クレアチニンクリアランス(推算CCr)を使用すると個別化eGFRよりも過大評価されにくく、予測精度が高くなることがあるという意見がある。しかし院外処方箋には体表面積補正eGFR(標準化eGFR)が記載されることが多く、また処方箋に検査値が全く記載されていない患者では腎機能評価に苦渋することが多い。そこで、後期高齢者の腎排泄型薬剤処方監査時に要注意患者を把握するため、体重・年齢の指標の算出を試みた。2019年3月~8月にあすかい病院の処方箋をすこやか薬局に持参した標準化eGFR:40 mL/min/1.73m2以上の後期高齢者の中で、あすかい病院の診療録調査により血清Cr値・体重が判明した1026名において、推算CCrが40 mL/min未満となる症例(男性42人、女性121人)の体重・年齢の指標をROC曲線を用いて算出したところ、男性51.9 kg以下・83歳以上、女性48.6 kg以下・84歳以上となった。他施設のeGFR:40 mL/min/1.73m2以上の症例にて検証したところ、体重・年齢非該当群の推算CCr(mean±SE(mL/min):男性57.0±2.4、女性66.5±5.4)はすべて40 mL/min以上となり、体重・年齢該当群(mean±SE(mL/min):男性43.9±4.4、女性39.5±3.9)より有意に高かった。よって、本研究で求めた体重・年齢の指標に該当する後期高齢者の推算CCrは40 mL/min未満となる可能性が高く、腎排泄型薬剤の投与量が適正でないと考えられる場合、腎機能が不明であっても疑義照会やトレーシングレポートの活用等何らかのアプローチを行う必要があると考える。
著者
辻本 雅之 峯垣 哲也 西口 工司
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-13, 2012 (Released:2018-04-02)
参考文献数
28

本総説では、末期腎不全患者(CKDグレード5)における肝消失型薬剤の予期せぬ薬物動態変動に対して注意喚起を促すために、末期腎不全患者においてバイオアベイラビリティの増大や肝クリアランスの低下と言った腎外クリアランスの変動を生じる事例について紹介する。 具体的には、末期腎不全患者において、 1. バイオアベイラビリティ増大の可能性について、プロプラノロールおよびプラバスタチンの事例について示す。 2. 肝代謝阻害の可能性について、ロサルタンおよびワルファリンの事例について示す。 3. 肝取り込み阻害の可能性について、エリスロマイシン、フェキソフェナジンおよびジゴキシンの事例について示す。 4. 腎外クリアランスの増大の可能性について、CPT-11の事例について示す。 5. 特異的に生じる薬物間相互作用の可能性について、コルヒチン−クラリスロマイシン間およびジゴキシン−フェキソフェナジン間の事例について示す。 以上の事例から、末期腎不全患者においては、単に腎機能低下に伴う薬物投与設計では不十分な場合があり,薬剤または/および患者によっては、バイオアベイラビリティの増大、肝クリアランスの低下、腎外クリアランスの増大、薬物間相互作用の顕在化などに注意する必要がある。
著者
三宅 瑞穂 古久保 拓 吉田 拓弥 和泉 智 庄司 繁市
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.179-183, 2022 (Released:2022-08-13)
参考文献数
10

低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬であるロキサデュスタット投与中のみ血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低下し、ダプロデュスタット投与中は低下しなかった症例を経験した。90歳代女性、CKD G5の患者、過去に甲状腺機能異常の指摘はなかった。腎性貧血治療にダプロデュスタット、ダルベポエチンアルファ、ロキサデュスタットを順に使用した。ダプロデュスタット投与中はTSH 5.950 μIU/mL、遊離サイロキシン(FT4)0.77 ng/dLであった。HD導入時にダプロデュスタットからダルベポエチンアルファに変更し、投与中のTSH 2.830 μIU/mL、FT4 1.14 ng/dLであった。ヘモグロビン7.9~9.8 g/dLと低値で経過し、ダルベポエチンアルファからロキサデュスタットに変更した。ロキサデュスタット開始4日目頃より倦怠感、開始15日目に希死念慮、HD拒否の抑うつ症状が出現した。その症状と過去の報告より、ロキサデュスタット投与に関連した甲状腺機能低下症が疑われた。ロキサデュスタット開始16日目にTSH 0.051 μIU/mL、FT4 0.77 ng/dLとTSHの著明な低下を認めた。開始21日目にロキサデュスタットを中止した。中止7日目頃に倦怠感は軽減し、中止19日後にTSHは正常化した。ロキサデュスタットはトリヨードサイロニンと類似した化学構造を有し、視床下部と下垂体の甲状腺ホルモン受容体に作用し、TSH分泌を抑制させると考えられている。本症例は、TSH低下がHIF-PH阻害薬に共通の現象でない可能性を示している。ロキサデュスタット開始後は甲状腺関連検査を実施し、甲状腺機能異常に伴う症状をモニターすべきと考えられる。
著者
坂本 愛 浦田 元樹 岩川 真也 田中 香奈 北村 芳子
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.13-23, 2018 (Released:2018-07-27)
参考文献数
24

高齢者におけるポリファーマシーは、潜在的に不適切な薬物が増加することで、有害事象が増加する危険性がある。慢性腎臓病(CKD)患者は、一般的に服用薬が増加する傾向にあるとされるが、CKD病期に応じた変化や、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用程度については明らかではない。そこで、2016年1~6月に入院した65歳以上の647例を対象として、CKDの糸球体濾過量(GFR)区分で群分けを行い、入院時の常用薬のうち定時服用薬について、服用薬と用法の種類を調査した。服用薬の種類が6種類以上でポリファーマシーと定義した。加えて、高齢者および腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用状況と入院中の中止・他剤への変更状況について調査した。その結果、ポリファーマシーの割合はG1/2群の42.0%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、90.5%と有意に高く、用法の種類もG4群以降にG1/2群に比べ有意な増加が認められた。高齢者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、G1/2群の50.7%に比しG4、G5D群ではそれぞれ84.1、71.4%と有意に高かったが、腎機能低下患者において有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合は、各GFR区分において33~50%程度で、有意な差は認められなかった。有害事象の潜在的リスク因子となる薬物は、GFR区分に応じて種類に特徴を認め、入院中に中止・他剤への変更となった割合はG4、G5群が他のGFR区分と比較して明らかに高かった。本検討より、CKDを有する高齢者では病期の進行に伴いポリファーマシーの割合は増加し、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物の服用割合も増加する傾向にあることが明らかとなった。そして、有害事象の潜在的リスク因子となる薬物はCKD病期に応じた薬学的管理が重要であると示唆された。
著者
山本 武人 樋坂 章博 鈴木 洋史
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-19, 2014 (Released:2018-04-02)
参考文献数
24
被引用文献数
3

持続的腎代替療法(CRRT)は、主に急性期病棟において循環動態が不安定な患者に導入されるが、CRRTにより治療上必要な薬物も除去され、血中濃度コントロールに難渋することも多い。そのため、CRRT導入患者に対しては慎重な投与設計が必要であるが、ガイドラインで推奨されている投与量は、限られたCRRT実施条件における検討に基づくものがほとんどである。そのため、施設毎・患者毎に実施条件が異なるCRRT導入患者に対して適切な投与設計を行うためには、CRRTによる薬物のクリアランス(CLCRRT)とCRRT実施条件の関連性を理解し、CRRT導入による全身クリアランス(CLtot)の変化を定量的に評価する必要がある。まず、CRRTによる小分子薬物の除去メカニズムは基本的には濾過と拡散であるが、アルブミンと結合した薬物は透析膜を透過できないことから、血漿中の非結合型薬物のみが除去の対象となる。従って、CLCRRTは薬物のタンパク非結合型分率とCRRT実施条件により理論的に推定可能であり、通常の実施条件(透析液流量と濾過量の合計が10~35 mL/min程度)であればクレアチニンクリアランス(CLcr)として10~35 mL/minに相当する。一方で、CRRT導入時の投与設計を行う上では薬物の未変化体尿中排泄率(Ae)も重要なパラメーターであると考えられる。すなわち、CRRT導入時の投与量としては、各種文献に示されているCLcrが10~50 mL/min相当の投与量を目安とするが、Aeの大きい腎排泄型薬物では、患者の腎機能が廃絶している場合にはCRRT実施条件の個人差がCRRT導入時のCLtotに与える影響が大きく、CRRT実施条件を考慮した投与設計が必要となる可能性がある。さらに、CRRT導入患者であっても初回投与量は腎機能正常者と同量とすること、CRRTは尿細管分泌や再吸収を代替できないため、それらの寄与の大きい薬物では予想外の薬物動態変化を示す可能性があることなどにも注意が必要である。本稿ではCRRT施行時のクリアランスの考え方について理論的背景を紹介した後、抗菌薬を例に臨床における投与設計への応用について解説する。
著者
森 裕也 小谷 遥 伊藤 知行 枦 秀樹 横山 雄太 中村 智徳 太田 哲徳
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-169, 2021 (Released:2021-12-29)
参考文献数
9

酸化マグネシウム(Mg)は便秘の治療に使用されているが、腎機能低下患者に使用する場合、Mgの排泄量が低下し、血清Mg濃度が上昇することがある。そのため、定期的な血清Mg値の測定が推奨される。しかしながら、急性期病院において、酸化Mgを使用している腎機能低下患者における血清Mg値の測定率と薬剤師の介入の有用性を調査した報告はない。そこで、各腎機能群における酸化Mg錠を使用した患者を対象として、血清Mg値の測定率を調査した。さらに血清Mg値を測定している患者を対象に各腎機能群における高Mg血症発生率や薬剤師の介入の有用性について調査を実施した。東京ベイ・浦安市川医療センターにおいて、2016年4月1日~2017年3月31日の1年間、入院中に酸化Mg錠を使用した患者を対象に、体表面積補正を外した個別の推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate;eGFR)(mL/min)をA群:45≦eGFR<60、B群:30≦eGFR<45、C群:eGFR<30に分けて検討した。対象期間中の酸化Mg錠使用患者数は283人、血清Mg値の測定率は145人(51.2%)であった。薬剤師の介入患者数はB群で1人(1.0%)、C群で6人(7.1%)と計7人(2.5%)であった。各腎機能群における血清Mg値の測定率は、A群(n=33(33.4%))、B群(n=53(51.5%))およびC群(n=59(70.2%))であった。血清Mg値の測定患者における高Mg血症発生率は、27.3%、37.7%および61.0%であり、高Mg血症の発生率に有意な差を認めた(p<0.01)。腎機能低下群ほど血清Mg値の測定率は高く、血清Mg値測定患者においては、腎機能低下群ほど高Mg血症患者の割合も高かった。また、血清Mg値の測定率は51.2%で、検出されていない高Mg血症症例が存在していることが示唆された。特に腎機能低下患者に対して酸化Mg錠を使用する際は、薬剤師が介入し、血清Mg値測定を推進することが、高Mg血症の早期発見に寄与すると考えられた。
著者
中蔵 伊知郎 木原 理絵 阿部 正樹 河合 実 関本 裕美 廣畑 和弘 山内 一恭 小森 勝也
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.11-16, 2013 (Released:2018-04-02)
参考文献数
8

liposomal amphotericin Bは、低カリウム血症の発生が問題となる。L-AMB投与による低カリウム血症の発現頻度が腎機能の程度によって異なるか否かを明らかにすることを目的とし、我々は、L-AMBによる低カリウム血症の発現頻度を腎機能別で確認したので報告する。国立病院機構大阪医療センターにおいて、L-AMBを3日以上投与された成人の入院患者46名を対象とした。今回の検討では、腎機能の程度によらず、低カリウム血症の発現が認められた。また、腎代替療法を施行されている患者においても低カリウム血症が認められた。しかし、腎機能別での発症頻度に差はなかった。このため、L-AMBを使用する際には、腎機能の程度に関係なく、早期から血清カリウム値のモニタリングをすることが望ましい。
著者
小林 豊 吉岡 雅代 稲葉 達也 鈴木 豊秀 榊間 昌哲 井出 和希 川崎 洋平 山田 浩 北村 修 米村 克彦
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.31-38, 2015 (Released:2018-04-02)
参考文献数
19

高リン血症は血管石灰化や生命予後に関連した病態であり、保存期慢性腎臓病(CKD)から血清リン値の管理が重要である。一方、保存期CKDに使用可能なリン吸着薬である沈降炭酸カルシウム(炭酸Ca)は胃酸分泌抑制薬の併用による効果減弱と、カルシウム含有による血管石灰化が懸念される。そこで当院薬剤部は内科医師に対し、これらの情報提供を行い、処方状況の変化に関する調査と、薬剤師による情報提供が医師の処方意識にどのような影響を与えたかについてのアンケート調査を行なった。対象は2014年1月の時点でリン吸着薬の処方を受けている保存期CKD患者のうち、1)炭酸Caと胃酸分泌抑制薬を併用している、2)血清リン値>4.5 mg/dL、を満たす患者の主治医とした。リン吸着薬の処方を受けている保存期CKD患者16名全てが炭酸Caを服用しており、12名が胃酸分泌抑制薬を併用していた。併用患者のうち血清リン値>4.5 mg/dLである患者は7名であった。情報提供により7名中5名においてリン吸着薬の変更や胃酸分泌抑制薬の中止がなされた。処方変更された5名中2名は血清リン値が低下し、2名は上昇し、1名は血液検査実施前に透析導入となった。情報提供対象患者以外においても処方の見直しがなされ、両薬剤の併用率は75%から21%と有意に減少した。アンケート調査の結果、薬物相互作用について6名中4名の医師が「知らなかった」と回答、意識変化では6名全員が「変化あった」と回答した。「今後は血管石灰化の危険性を回避するため可能な限りカルシウム非含有リン吸着薬を使用する」などの意見も得られた。これらのことから、薬剤師による積極的な情報提供は医師の処方意識に影響を与え、処方を見直すきっかけになることが示唆された。今後は他の薬物相互作用についても介入を検討し、有効性と安全性の高い薬物療法の提供により医療の質の向上に寄与していきたい。
著者
平良 知子 曽田 彩夏 坂口 翔一 石松 隆志 園田 昭彦 平山 英雄 成田 勇樹 門脇 大介 平田 純生
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.15-25, 2012 (Released:2018-04-02)
参考文献数
30

血液透析(HD)患者は、カリウム制限による水溶性ビタミン摂取不足、HDによる水溶性ビタミンの除去、酸化ストレス亢進に伴う抗酸化ビタミンの消費亢進などにより一部のビタミンが欠乏するという報告が散見される。そこで、HD患者に至適量のビタミン補給を目的としたチュアブル錠のマルチビタミンサプリメント「ネフビタンKD」(以下、KD-MV)が日本で初めて研究開発され、上市された。本研究ではKD-MV摂取の有用性及び安全性の評価を目的として検討を行った。 対象は維持透析療法を受けているHD患者83人で、二重盲検プラセボ対照無作為化クロスオーバー試験を1年間行った。クロスオーバーは半年経過後に実施し、A群はKD-MVを前半の半年間、B群は後半の半年間摂取した。調査項目は、腎疾患患者用QOL評価尺度であるKDQOL、酸化ストレス指標、その他臨床検査値及び血液生化学検査項目とし、安全性の評価は患者や医療者からの報告の有無で判断した。2ヶ月間の平均服薬率が75%未満、または採血ポイント欠落の患者は解析から除外した。 解析対象者は45人で、クロスオーバー解析の結果、KDQOLでは「症状」「腎不全の日常生活への影響」の項目でKD-MV摂取後に改善傾向を示し、特に筋痙攣やしびれなどの改善が認められた。AST・ALT値はKD-MV摂取後、正常範囲内で有意に上昇したが(⊿AST; 3.4±5.6 IU/L、p<0.001、⊿ALT; 4.2±6.5 IU/L、p<0.001)、他の生化学検査項目・酸化ストレス指標はともに有意な変化は認められなかった。有害事象は、KD-MVと因果関係不明な不定愁訴3件のみであった。 今回、KD-MV服用により主な検査値や酸化ストレスの変動は認められなかったものの、有害事象を示さず、HD患者のQOLを改善する結果が得られた。したがって、今回の知見はHD患者におけるKD-MV摂取の有用性を示唆するものである。
著者
宮村 重幸 柴田 啓智 下石 和樹 浦田 由紀乃 森 直樹 門脇 大介 丸山 徹
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.3-8, 2014 (Released:2018-04-02)
参考文献数
6
被引用文献数
2

薬剤の適正使用を考える上で、腎機能に応じた適正な用量設定を行うことは重要である。そのため、薬剤師は血清クレアチニン値などの腎機能データを入手する必要があるが、保険薬局において、薬剤師が患者の腎機能データを入手する手段は確立していないのが現状である。今回我々は、保険薬局に勤務する薬剤師にアンケート調査を行い、患者の腎機能情報の必要性と入手手段を明らかにした。日常業務において腎機能を①考慮している(9.1%)、②どちらかといえば考慮している(54.5%)、③どちらかといえば考慮していない(27.2%)、④考慮していない(9.1%)という結果であった。腎機能に関する情報源としては、①患者・家族(77.2%)、②処方医(4.5%)、③情報を得る方法なし(9.1%)であった。この結果をふまえ、我々は患者の腎機能情報を病院と保険薬局で共有するために、お薬手帳内にeGFRを記載するシールとお薬手帳の表紙に患者の腎機能が低下していることを示すシールを考案した。そして、本ツールの有用性を検討するために、情報提供を受けた薬剤師を対象にアンケート調査を実施したところ、本ツールが①有用(50.0%)、②どちらかといえば有用(36.3%)であった。今回の調査から、保険薬局において、患者の腎機能に関する情報は必要とされているにもかかわらず、入手できていないことが明らかとなった。そのため、シールを用いて患者の腎機能情報を共有する試みは、保険薬局に勤務する薬剤師に対しても患者の腎機能を考慮した処方設計に対する注意喚起に大変有用であり、腎排泄型薬剤の過量投与を防ぎ、医薬品適正使用に大きく貢献できることが示唆された。
著者
岡本 拓也 朴 鑽欽 瀬井 康雄 川添 和義 横澤 隆子
出版者
The Japanese Society of Nephrology and Pharmacotherapy
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.171-180, 2018 (Released:2019-01-29)
参考文献数
62

冠元顆粒は、多彩な生理活性を有し、かつ毒性や副作用がないことから、多くの報告がなされている。我々は、糖尿病性腎障害モデル実験より、冠元顆粒が糖尿病腎に対する治療の証拠を得たので、ここに報告する。まず、腎近位尿細管由来の上皮細胞株のLLC-PK1細胞を用いた実験において、高グルコースでひき起こされる酸化ストレス状態を、冠元顆粒添加群で改善する知見が得られた。さらに、2型糖尿病モデルのdb/dbマウスに、冠元顆粒を投与した腎組織中の終末糖化産物や線維症関連蛋白が低下していた。酸化ストレスや炎症に関与する蛋白発現も低下し、腎糸球体の肥大を改善し、2型糖尿病マウスの腎に好影響を及ぼしていた。このことから、冠元顆粒は腎保護作用を示し、糖尿病性腎症への進展を抑制する証拠が示され、それらはまた多系統段階で効能を発揮していることが示された。