著者
小池 吉子 浦田 芳重 小池 正彦
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ヒトピルビン酸脱水素酵素(PDH)は、ピルビン酸の異化分解に与るピルビン酸脱水素酵素複合体の成分酵素の一つで、その初段階の酸化的脱炭酸反応を触媒する代表的なチアミン酵素で、α及びβサブユニット(鎖)から成りα_2β_2の四量体である。慢性酸血症を呈する代謝異常症の病因の一つに本酵素欠損症があげられているので、本酵素遺伝子の構造を明らかにし、欠損症の本体の解明を意図した。ヒトPDHα,β鎖cDNAをプロ-ブとして、白血球ゲノムライブラリ-からPDHα,β鎖遺伝子をクロ-ニングし、特性を調べた。1.ヒトPDHα鎖遺伝子ー全長17kbに及ぶ2個のクロ-ンを得、全塩基配列を決定した。本遺伝子は11のエクソンから成り、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従ってした。転写開始点は翻訳開始コドンより124bp上流のチミンと推定した。5'上流域にはCAATbox,TATA様box,2つのSpI結合領域が認められた。2.ヒトDPHβ鎖遺伝子ー18kbの1個のクロ-ンを単離し、その全塩基配列を決定した。本遺伝子は10のエクソンからなり、イントロン/エクソン境界は全てGT/AG則に従っており、転写開始点は翻訳開始コドンより129bp上流のアデニンと推定した。プロモ-タ-領域にCAATboxのみを認め、TATAbox及びSpI結合領域は認められなかった。Coding領域は3'側の9kbに存在していたが、α遺伝子との接合部は見出せなかった。3.制限酵素消化パタ-ンーPDHα及びβ鎖遺伝子の制限酵素消化パタ-ンに多型性は認められたが、本酵素欠損症患者DNAに特有なパタ-ンは認められず、本法をPDH欠損症の診断に応用することはできなかった。4.PDH欠損症患者遺伝子ーPDHα,β鎖遺伝子の各エクソン領域を患者遺伝子をテンプレ-トとし、PCR法で増幅し塩基配列を調べ、変異部位を解析中である。