著者
浪花 彰彦
出版者
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション
雑誌
北方森林保全技術 (ISSN:13445855)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.29-37, 2017-02-17

我が国では、外来種であるアライグマが野生化し、農業等被害の増大や生態系への影響、人に対する衛生被害等が懸念されている。報告者は以前、2011年から2013年の無積雪期3シーズンにわたって、中川研究林におけるアライグマの生息情報を収集し、「アライグマ生息情報地図」を作成した(図1)。それによれば、中川研究林内を流れる天塩川の支流沿いで多くのアライグマの存在が確認されており、少なくとも無積雪期においては、研究林の河川流域の多くがアライグマの活動域になっている可能性が高い(浪花 2015)。今回は、GPSテレメトリー法を用いて、より詳細にアライグマの活動状況を調査したので、その結果を報告する。調査では、特に越冬状況に注目した。アライグマの効果的な駆除を考える場合、越冬環境の把握が重要であると考えたからである。北海道が策定した「北海道アライグマ対策基本方針」(北海道 2003)では、北海道におけるアライグマ対策の最終的な目標として「野外からの排除」を掲げているが、そのための効果的な方法は未だ確立されていない。アライグマが生息する森林の周辺には、農家や廃屋等が存在している場合が多いが、もしアライグマがそれらの人工構造物に依存して越冬しているのであれば、積雪期に集中的な捕獲を行うことで効率的な駆除が可能かもしれない。一方、もしアライグマが森林内で越冬・繁殖しているのであれば、その捕獲は非常に困難であろう。アライグマ対策を考える上で、アライグマの越冬環境に関する基礎データの収集は重要である。
著者
浪花 彰彦
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

報告者は、無積雪地帯におけるニホンジカの誘引方法について研究するため、市販されている融雪剤三種(塩化ナトリウム・塩化カルシウム・塩化マグネシウム)を誘引剤として用いて、カメラトラップ法によって撮影した写真から、誘引効果が認められるかどうか検証する実験を行った。実験は、和歌山県東牟婁郡古座川町にある、北海道大学和歌山研究林の林内で行った。誘引地点を林内3箇所に設定し、それぞれの地点において、給塩ポイントとして、三種類の融雪剤を2.5kgずつ入れた桶を25m間隔で設置した。またそれぞれの誘引地点に隣接するように、給塩なしの対照ポイントを設定した。それぞれの給塩ポイントおよび対照ポイントには、自動撮影可能な赤外線センサー付デジタルカメラ(Stealth Cam Rogue IR Digital Video Game Scouting Camera)を設置し、撮影範囲に出現する野生動物の撮影を行った。2009年12月から2010年1月にかけて1ヶ月にわたって実施した給塩実験の期間中、センサーカメラを常時作動し、連続撮影を行った。1ヶ月の給塩実験期間中に撮影されたニホンジカの頭数は、延べ185頭であった。対照ポイントでの撮影頭数27頭に対して、三種類の融雪剤を給塩したポイントでの撮影頭数は、塩化ナトリウム(Na),が92頭、 塩化カルシウム(Ca)が21頭、塩化マグネシウム(Mg)が45頭であった。対照ポイントにおける撮影頭数との比を取ると、Na=3.4、Ca=0.8、Mg=1.7となった。さらにNa給塩ポイントで撮影された写真からは、シカが桶から塩を舐め取っていると思われる様子が頻繁に観察された。以上の実験結果から、塩化ナトリウムが、ニホンジカに対して高い誘引性を示すことが明らかになった。市販されている融雪剤三種のうち、最も単価が安いものは塩化ナトリウムであるため、費用対効果の観点からも、塩化ナトリウムがシカの誘引剤としては優れた効果を持つことがわかった。