著者
海 大汎 海 大汎 海 大汎
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.153-175, 2020-01-17

本稿は,商品交換の成立根拠を原理的に解明するものである。宇野学派の原理論では一般に,価値関係は,私的所有を体現する個別主体の主観性(私的欲望および交換要請)によって形成されるとされる。しかしながら,こうした想定は,商品交換の成立根拠を論じるにあたって負の側面を残してしまっているようにみえる。というのは,そこでは,価値関係が私的所有といかに結びついているかについての考察を原理的に進めているとは限らないからである。その結果,商品交換は,所有商品の物理的な位置移動にとどまらざるをえない。これは,所有主体の先在性に起因するものといってよい。ところが,所有主体は,価値関係に先立って存在することができるだろうか。この論稿ではまず,その点を相対化し,所有主体が商品対貨幣という対極的な立場から反照された理論上の仮構であることを論証した。その上で,売り手と買い手との間の物象化された関係から私的所有の再帰性を確かめた。そうして,商品交換が,所有主体の変更をめぐって行われる権利の獲得と義務の履行との過程であることを明らかにした。最後に,以上の検討を踏まえて,信用売買についての従来の理解を再考した。