著者
湯山 英子
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.227-240, 2020-01-17

本稿では,戦後ベトナムからの「引揚げ」と「残留」に関する調査で得られた,関連資料の所在を提示し,それら資料の検討を行うものである。本研究の大きな目的は,第2次世界大戦後ベトナム(場合によっては,仏印と記する)からの「日本人」引揚げの過程および全体像を解明することにある。そのため,次の4つにそって,調査・研究を進めている。①可能な限り数量的に確認することで全体像の把握をする。②個別体験の集約・集積によって,(個々の経験を)全体における位置づけをする。これによって③戦前,戦時期の再検討と④「人の移動」の通史を構築することが可能になる。初段階として,上記①と②を明らかにするにあたり,どういった関連資料があるのか,最近のアーカイブス公開状況を踏まえて,その部分をまずは示しておきたい。
著者
阿部 智和 山口 裕之 大原 亨
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.171, pp.1-26, 2019-03

セイコーマートは、2000年代前半に、事業の拠点としてきた北海道にターゲット市場を絞り、価値提案を当該市場に適したもの (プライベート・ブランドの展開、店内調理の導入など) へと変化させていく。さらに、この動きに併せて、取扱品目の生産・物流部門の内部化 (垂直統合) を進めていく。本稿の目的は、この動向を追跡することにある。具体的には、当時の競争環境について概観したうえで、同社の物流活動、販売活動、生産・調達活動を記述する。最後にこれらの活動間のシナジー効果を示す。
著者
阿部 智和 山口 裕之 大原 亨
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.170, pp.1-37, 2019-03

セコマのビジネスモデルは、2000年代後半以降、高い差別性を有するものへと変化を遂げていく。コンビニエンス・ストアを運営するリテール事業だけでなく、物流・サービス、および原料・製造事業から構成される3事業体制が確立されていく。本稿の目的は、この動向を追跡することにある。具体的には、この期間のセコマの概要とおよび当時の競争状況について確認したうえで、物流・サービス事業、生産・調達事業、販売事業のそれぞれの動向を整理していく。
著者
園 信太郎
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-4, 2018-06-14

「Radical Bayesian は実際にはBayesianにはならない」という逆説的見解。主観確率の深淵を窮める。
著者
櫻田 譲
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.1-16, 2023-12-07
著者
青木 芳将 金盛 直茂 土居 潤子
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.77-90, 2020-01-17

天然資源の発見は,国内の所得格差にどのような影響を及ぼすのであろうか。本稿では,天然資源の発見が,民族間の資源獲得競争(レントシーキング活動)を引き起こすことにより,短期的には,民族間の所得格差を縮小させるが,長期的にはそれを拡大させることを示した。これは,民族が大きく2つに大別される国において天然資源が多いほど所得格差が広がるという Fum and Hodler (2010) の実証結果によって支持されるものである。
著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.5-13, 2017-06-13

企業事故・不祥事の発生原因については,倫理制度の不備や安全文化の欠如など多くの要因が指摘されている。その中で,実務家を中心にしばしば指摘される要因として形骸化があげられる。そこで,本稿は,企業事故・不祥事の発生原因の1つである「規則の形骸化」を引き起こす要因を探索することを目的とする。具体的には,①規則の形骸化に影響を与える要因は何か,②その要因はどのように規則の形骸化に影響を与えるのかという問いを設定し,規則の形骸化の発生プロセスに,不正のトライアングル理論(Fraud Triangle Theory)を適用し,分析を試みる。まず,規則の形骸化の内容と特徴を検討し,規則の形骸化を①規則の形式的な遵守と②規則の暗黙的な不遵守に分類した。次に,不正のトライアングル理論(FTT)を規則の形骸化の発生プロセスに適用し,検討を行なった。検討の結果,(1)認識された圧力は,規則の形骸化の動機として位置づけられること,(2)認識された機会は,形式的な遵守と暗黙的な不遵守の選択要因として位置づけられること,(3)合理化は規則の形骸化の決定要因であること,を明らかにした。
著者
阿部 智和 宇田 忠司
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.109-146, 2017-06-13

本稿の目的は,質問票調査にもとづき,国内の共有・共創型ワークスペースの実態を明らかにすることにある。まず,ウェブ調査を実施し,国内で稼働している施設の全数に近い(2016年9月30日時点)と考えられる750スペースのうち,308スペースから回答を得た。ついで,収集したデータのうち268スペースの回答を分析し,①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果,という6つの包括的視点から相関分析の結果を示した。そのうえで,本調査にもとづく共有・共創型ワークスペースの実態に関する知見を提示した。
著者
松尾 睦
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.156, pp.1-17, 2017-12

本研究は、中堅社員(課長級管理職に昇進する前の20 代後半から30 代の社員)のマネジメント能力(業務スキル、対人スキル、意思決定スキル等)を高めるために、管理職がどのように仕事をアサインすべきか(任せるべきか)を明らかにすることを目的としている。日 本企業に勤務する部課長級管理職および中堅社員を対象とした質問紙調査データを分析し、次の点を検討した。すなわち、①与えやすく、かつ中堅社員の能力を高めるのに有効な業務、②業務と中堅社員の能力との関係、③業務を創り出す方法、④管理職が中堅社員の業務遂行を支援する方法である。 分析の結果、以下の点が明らかになった。与えやすく有効性の高い業務としては、「他部門との調整が必要な業務」「他部門を巻き込みながら進める業務」「自部門内の戦略・構想を策定する業務」「部門内の業務を改善・変革する業務」「高い目標を達成する業務」「新しい業務の提案や遂行を伴う業務」「顧客や取引先と打ち合わせ・交渉する業務」「協力企業や取引企業との協働」「新人・経験不足のメンバーの指導」「本人が経験したことがない業務」などが挙げられた。特に、権限が及ばない状況での業務、変革に関わる業務、高い責任の業務、幅広い仕事に携わる業務が中堅社員の能力向上に好影響を与えていた。 業務の創り方に関して、管理職は「役割を見直す」「新たな役割を創出する」「部門内の問題に対応する」「他部門と連携する」「外部組織からの要望やクレームに対応する」ことによって業務を創出し、部下に与えていた。また、高い業績を上げている管理職ほど、上位者や自身が担っていた業務を中堅社員に任せ、他部門との連携の機会を自ら創りだしていた。 中堅社員が業務を遂行する際、管理職は「業務の意義・重要性の明確化」→「事前に必要な手配・段取り」→「業務の要所・急所に関する指導」→「実行段階での側面支援・後方支援」→「進捗確認とフィードバック」という順序で部下を支援していた。このうち、本人の 成長やキャリアにおける意味や期待、部門内のフォロー体制、実施段階での側面・後方支援、事後の振り返りが不足している点が明らかになった。 最後に、予備調査(自由記述調査)から、優れたジョブアサインメントを実施していると思われる8つの事例を紹介した。
著者
佐野 博之
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.19-49, 2020-01-17

アリンガムとサンドモによる脱税のモデルは多くの実証研究を誘発し,それらは理論分析の結果のいくつかが現実と乖離していることを明らかにした。特に,理論分析により予測される社会の平均脱税額は現実をはるかに上回ることから,納税者は金銭的動機だけで脱税額を決定していない可能性が示唆された。これに対して,理論モデルは非金銭的動機をもたらす心理費用を納税者の効用関数に組み込んで分析することで現実との乖離を説明しようとし,実験室実験を中心とした実証研究は心理費用が納税者の行動に影響していることを強く示唆してきた。本稿ではまず,アリンガムとサンドモ以降の脱税研究を,理論と実証の両面からサーベイする。最近の脱税研究は,他の納税者の行動の観察を通じて心理費用が変化するような社会的納税者に注目している。このような社会的納税者が存在すると,税情報公開が脱税抑止のための有効な手段になる可能性があるため,税情報公開の効果を調べた実験室実験が数多く行われている。本稿では,これまでの脱税研究とそれらの実験室実験の結果を基に理論モデルを構築し,税情報公開の効果を分析する。さらに,このような理論分析の限界を示す。
著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.11-18, 2022-06-09

不可分財を人数に比例して配分する問題は,衆議院や下院で 議員定数を地域人口に比例して配分する定数配分の問題が その典型である。 本稿ではアメリカ下院議員の州への配分で用いられた最大剰余方式 や除数法の代表的な方式に関して,その方法や理論的背景を 述べていく。特に,よく使われる d'Hondt 方式が除数法の Jefferson 方式であることを示した。 日本では衆議院小選挙区の議員定数を各都道府県に配分する 定数配分の問題が有るが,「一票の格差」をできるだけ小さく する目標が有り,2016年の選挙改革法では,早晩 Adams 方式 を使うことが決まっている。2021年10月末の第49回衆議院議員 総選挙に関して,実際の配分,Adams 方式の配分,Hill 方式 の配分を比べ,それぞれの「一票の格差」を計算した。
著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.25-33, 2018-06-14

企業事故・不祥事の発生原因については,倫理制度の不備,倫理風土の欠如など多くの要因が指摘されている。その中で,企業事故・不祥事発生の直接的な原因として指摘される要因が規則違反である。そこで,本稿は,インタビュー調査を基に,規則違反行動に至るプロセスについて探索を行なうことを目的とする。まず,規則の定義と類型,そして,規則違反の要因についての先行研究の整理を行った。先行研究においては,規則違反行動の要因として,個人的要因,組織的要因,ハードウェアの要因,規則に関連する要因が指摘されていた。次に,「これまで遵守してきた規則を違反する際の要因」に関して半構造化インタビューによる調査を行った。インタビュー調査の結果,これまで遵守してきた規則を違反するプロセスを構成する要因として,①解決困難な課題(解決が困難で,組織にとって重要だと認識されている課題),②上司の姿勢(上司による問題解決のプロセスに関する無関心の表明),③合理化(規則違反行動の正当化)という3つの要因が抽出された。
著者
海 大汎 海 大汎 海 大汎
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.153-175, 2020-01-17

本稿は,商品交換の成立根拠を原理的に解明するものである。宇野学派の原理論では一般に,価値関係は,私的所有を体現する個別主体の主観性(私的欲望および交換要請)によって形成されるとされる。しかしながら,こうした想定は,商品交換の成立根拠を論じるにあたって負の側面を残してしまっているようにみえる。というのは,そこでは,価値関係が私的所有といかに結びついているかについての考察を原理的に進めているとは限らないからである。その結果,商品交換は,所有商品の物理的な位置移動にとどまらざるをえない。これは,所有主体の先在性に起因するものといってよい。ところが,所有主体は,価値関係に先立って存在することができるだろうか。この論稿ではまず,その点を相対化し,所有主体が商品対貨幣という対極的な立場から反照された理論上の仮構であることを論証した。その上で,売り手と買い手との間の物象化された関係から私的所有の再帰性を確かめた。そうして,商品交換が,所有主体の変更をめぐって行われる権利の獲得と義務の履行との過程であることを明らかにした。最後に,以上の検討を踏まえて,信用売買についての従来の理解を再考した。
著者
阿部 智和 山口 裕之 大原 亨
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.179, pp.1-23, 2020-03

セイコーマートは大手コンビニエンス・チェーンの攻勢にさらされながらも、北海道において最多の店舗数を保持し続けている。コンビニエンス・ストアの合併などが進んだ現在では、地方企業がトップ・シェアを有する都道府県は北海道のみである。コンビニエンス・ストア業界内で激しい競争が展開されていくなか、セイコーマートはいかにして北海道市場における競争優位を確立し、維持できたのだろうか。本稿では、創業から2000年頃までの同社の出店戦略、物流システム、情報システム、商品力強化および販売活動に関する動向を整理することで、同社の競争優位の背景を探っていく。
著者
白木澤 涼子
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.93-122, 2021-12-14

1940年制定の「部落会町内会等整備要領」(内務省訓令第一七号)により,新たに部落会・町内会が創設された。筆者はかつて,これらは行政法上,法制化ではなく訓令という形を採らざるを得ず,それが法制化なき明治地方自治体制の変容をもたらしたとした。しかし,1942年に部落会・町内会の法制化が俎上に上る。「部落会町内会ノ法制化ヲ必要トスル理由」(「部落会町内会等ニ関スル訓令通知綴」[1942](「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A20040043500,表紙・目次(国立公文書館)」,画像36-48)では,「市町村自治ノ部落会町内会ヘノ実質的移行トニ伴ヒ」,部落会・町内会を「嘗ツテ市町村ヲ法制化シタルト同一ノ理由ニ依リ之ヲ法制化」するという。「自治ノ移行」とは何かを解き明かすことが,明治地方自治体制の「自治」を明らかにすることとなるのではないだろうか。本稿では,当時の内務省が「自治」をどのように捉え,どのように改変しようとしていたのかを「部落会町内会ノ法制化ヲ必要トスル理由」を中心に考察した。その結果,1943年市制町村制中改正法で,部落会・町内会が市制町村制と同じ「法人化」ではなく,曖昧な形で「法制化」され,同時に明治地方自治体制が再編されたことを論じた。