著者
深澤 あかね
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.87-97, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
14

「日本の祭の最も重要な一つの変り目」は「見物と称する群の発生」であった(柳田 1998: 382)と柳田國男が述べた時代から,祭りは「近代化」が指摘されてきた.そして今日では,「『自己充足的な価値』を追求して『楽しむ』」(松平 1990: 345)ことを目的とした「よさこい祭り」のような,自発的結合に基づく人々の動きが顕著となっている. だが一方で,人々が生業と生活を営んできた旧来の地域社会においても,祭りは営まれ続けている.地域社会を取り巻く状況の変化により,衰退の方向に向かっている祭りも多いが,そのような中でも形を変えながら存続する祭りは,新旧の社会関係を重層的に保持する地域社会のあり方を示している. 本稿では,「商業町の人々にとって祭りとは何か」という問題意識に基づき,商業町を構成する世帯を,商業経営と生活の両方を営む「商家」として捉えながら,近代以降の地方都市で行われてきた祭りの分析を行った.具体的には,東北岩手の商業町花巻を取り上げ,町そのものの変容と祭りの変遷を概観した上で,商店街を構成する一つの町内に焦点をしぼり,そこで行われてきた山車運行の歴史を追った.そして,「近代化」の進展過程として掌握されがちな祭りの歴史は,実際には堆積する新旧の社会関係の表出から成ること,また,商業町の人々にとって祭りは複合的な意味を持つ場であり,人々はそこに今日的な意義をも見出していることを実証した.