著者
中山 裕司 高橋 浩二 宇山 理紗 平野 薫 深澤 美樹 南雲 正男
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.163-174, 2006-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
23
被引用文献数
2

音響特性による嚥下障害診断の重要な手掛かりとなる嚥下音について, その産生部位や部位に対応した音響特性は明らかとされていない.そこで嚥下音の産生部位と音響特性を明らかにする目的で, 画像・音響分析プログラムを新たに構築し, 健常者を対象として嚥下音産生時の造影画像と嚥下音音響信号データの同期解析を行った.対象は健常成人12名で, 各被験者8嚥下ずっ計96嚥下にっいて食塊通過時間の測定, 食塊通過音の識別と出現頻度の解析, および最大ピーク周波数の評価を行った.食塊通過時間は喉頭蓋通過時間 (121.7±92.4msec), 舌根部通過時間 (184.8±70.6msec), 食道入口部通過時間 (342.9±61.1msec) の順で長くなり, 舌根部通過音, 喉頭蓋通過音, 食道入口部通過開始音, 食道入口部通過途中音および食道入口部通過終了音が識別された.このうち喉頭蓋通過音が最も出現頻度が高く (96嚥下中94嚥下), 嚥下ごとの通過音の出現状況では舌根部通過音, 喉頭蓋通過音, 食道入口部通過開始音, 食道入口部通過途中音の4音が出現するパターンが96嚥下中22嚥下 (22.9%) と最も多くみられた.また最大ピーク周波数の平均値の比較では食道入口部通過開始音 (370.7±222.2Hz) が最も高く, 続いて食道入口部通過途中音 (349.1±205.4Hz), 舌根部通過音 (341.2±191.3Hz), 喉頭蓋通過音 (258.6±208.2Hz), 食道入口部通過終了音 (231.2±149.8Hz) の順であった.本研究により嚥下音の産生部位と産生喜附に対応した音響特性が明らかとなった.
著者
高田 嘉尚 高橋 浩二 中山 裕司 宇山 理紗 平野 薫 深澤 美樹 南雲 正男
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.68-74, 2006-03-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
11

本研究は嚥下音と呼気音の音響特性を利用して嚥下障害を客観的に鑑別することを目的として企画されたものである.対象は嚥下障害を有する頭頚部腫瘍患者26名である.VF検査中嚥下音ならびに嚥下直後に意識的に産生した呼気音をわれわれの方法によって採取し, 嚥下と呼気産生時の動態のVF画像とともにデジタルビデオレコーダーに記録した.嚥下音と呼気音の音響信号はわれわれの音響解析コンピュータシステムによって分析を行い, 嚥下音については持続時間を計測し, 呼気音については1/3オクターブバンド分析により, 中心周波数63Hzから200Hzまでの6帯域の平均補正音圧レベルを求めた.嚥下音と嚥下後に意識的に産生した呼気音92サンプルずつについて, これらの分析が行われ, VF所見との比較が行われた.その結果, 嚥下音の持続時間では, Abnorma1群 (誤嚥あるいは喉頭侵入のVF所見を示した群) はSafety群 (前記のVF所見のない群) に比べ, 持続時間が延長する傾向がみられ, 呼気音の補正音圧レベルでは, Abnorma1群はSafety群に比べ, 音圧レベルが大きい傾向を示した.次に嚥下障害を鑑別するために嚥下音の音響信号の持続時間の臨界値として0.88秒を設定し, 同様に呼気音の音響信号の補正音圧レベルの臨界値として17.2dBを設定した.嚥下音と呼気音の分析値の両者がともにこれらの臨界値を超えた場合, そのときの嚥下は障害があると評価した.これらの評価とVF所見との判定一致率は感度82.6% (38/46), 特異度100% (46/46), 陽性反応的中度100% (38/38), 陰性反応的中度85.2% (46/54), 判定-致率91.3% (84/92) となった.以上の結果より嚥下音の持続時間と呼気音の補正音圧レベルは嚥下障害を検出するために利用できることが示唆された.