著者
鈴木 雅夫 島田 二郎 村川 雅洋 深田 祐作 鈴木 雅夫
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

マグネシウムは多くの酵素活性や細胞内伝達系において重要な役割を担う生体内で4番目に多い陽イオンである。本研究の目的は、マグネシウムの鎮痛効果とその機序を明らかにすることである。1.種々の予定手術患者を対象に、周術期の血清イオン化マグネシウム濃度を測定し、術式、手術時間、輸液量、出血量、尿量との関連を検討した。血清イオン化マグネシウム濃度は手術時間の経過とともに減少し、手術終了後徐々に回復した。血清イオン化マグネシウム濃度の減少は、体表手術や開頭術に比べて開腹術で大きかった。また、長時間手術、輸液・出血・尿量の多い手術で減少の程度が大きかった。2.帝王切開術後患者と婦人科手術患者を対象に、マグネシウム投与の有無による術後鎮痛薬の必要量の差を検討した。いずれの群においてもマグネシウム投与患者は、非投与患者に比べて、術後鎮痛薬の必要量が少なかった。3.雄性Wistar系ラットを用い、Neurometer CPT/Cによる疼痛閾値に及ぼすマグネシウムの影響を検討した。C線維を介する疼痛閾値はモルヒネ2mg/kgの腹腔内投与によって上昇したが、マグネシウム2mM/kg及び4nM/kg単独投与では変化せず、モルヒネとマグネシウムの相互作用も認められなかった。4.雄性Wistar系ラットを用い、ヒスタミン刺激に腰髄後角のc-fos発現を指標として、マグネシウムの鎮痛機構を検討した。c-fos陽性細胞は、ヒスタミン刺激と同側の脊髄後角側部に多く、I、IIそしてX層に主に観察された。ヒスタミン刺激側脊髄でのc-fos陽性細胞数は、マグネシウム150及び300mg/kg投与によって減少した。以上の結果から、周術期にマグネシウムを投与することは臨床的に鎮痛効果があり、この鎮痛効果は脊髄後角の二次求心性神経の反応抑制によることが示唆された。