著者
深町 はるか
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

口臭の原因物質としてメチルメルカプタンや硫化水素といった揮発性硫化物が注目されている。これらの揮発性硫化物は口腔内細菌がメチオニンを基質としてメチルメルカプタンを、またシステインを基質として硫化水素を産生することが分かっている。特に、歯周病患者からは歯周ポケットの深さに比例して呼気中から高い濃度の揮発性硫化物が検出される。本研究では歯周病患者の歯肉縁下プラーク中の細菌であるPorphyromonas gingivalis, Fusobacterium nucleatum,およびTreponema denticolaに着目し、揮発性硫化物産生酵素をコードする遺伝子をクローニングし、これらの酵素学的な性質を解析した。現在までに、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaのメチオニン分解酵素、F. nucleatumのシステイン分解酵素を単離精製した。メチオニン分解酵素の性質としては、P.gingivalisとT.denticolaのメチオニン分解酵素のKm値を比較した結果、メチオニンに対する親和性はT.denticolaが極めて高いことが分かった。また、菌体から産生するメチルメルカプタン量をガスクロマトグラフィーで比較した結果、T.denticolaが口腔内に存在する程度の低濃度のメチオニンからメチルメルカプタンを高産生することが分かった。また、揮発性硫化物の発生を抑制するという報告のある塩化亜鉛について、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaの揮発性硫化物産生に対する抑制効果を解析した。まず、全菌体をから産生されるメチルメルカプタン量をガスクロマトグラフィーで測定した結果、産生されるメチルメルカプタン量は塩化亜鉛量に依存して抑制され、P.gingivalis, T.denticolaは10ppm, F.nucleatumは100ppmでメチルメルカプタン産生が完全に抑制された。つぎに、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaの組換えメチオニン分解酵素を用いて塩化亜鉛による酵素活性の抑制をみたところ、すべての酵素ともに、100ppmの塩化亜鉛でメチオニン分解酵素が完全に阻害されることから、塩化亜鉛によるメチオニン分解酵素の阻害がおこりメチルメルカプタンが産生されなくなることが明らかになった。