著者
清水 祐公子 大久保 章
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

デュアルコム分光装置を用い、気体分子の振動回転スペクトル観測により温度計測を行う手法を提案し、研究を進めた。これは、気体分子の回転振動バンドの多数の吸収線の強度分布が、温度の関数となっていることを利用して温度を求める方法であり、我々はこの温度計測法を「Rotational state Distribution Thermometry: RDT」と名付けた。デュアルコム分光によりアセチレン分子の精密なスペクトルを得るとともに、RDT法により不確かさ1 K以下という良好な温度測定結果を得た。その一方で、RDT法において、分子種ごとの高精度な温度測定をおこなうためには、温度決定の不確かさをさらに低減させることが必要であった。そのため本年度は、偏波保持光ファイバーを用いた光コムによるスペクトル変化の抑制と、ガス分子の温度の精密制御を行った。通常は光コムからの出力をファイバアンプで増幅し高非線形ファイバーでスペクトルを拡大して分光に用いるが、偏波保持化により、ファイバーアンプを介さず広帯域化でき、周囲の環境(温度、気圧、振動等)の変化による偏波状態の変動を抑制することができた。また、分子温度の精密な制御をおこなうため、温度安定化モジュールの制作を行い、高精度に温度安定化可能な恒温槽に挿入した。恒温槽は液体循環式であり、- 30 oC~110 oCの温度範囲を約1~5 mKで制御した。直径15 mm、全長10 cmの分子が封入された吸収セルを銅製の均熱ブロックの中に設置し、50 mK程度で温度安定化させた。しかしながら、温度安定化されたセル内の分子から取得した吸収スペクトルのベースラインはまだ不完全であった。この原因は循環式水温層の振動によるものであると考えている。現在、振動の影響を直接受けない光ファイバー型のモジュールを製作している。これにより、1桁以上不確かさを低減させる。