著者
守川 雅雄 廖 梓〓 清水 稔弘 安元 和雄 豊田 静夫 小園 凱夫 佐藤 博信
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州齒科學會雜誌 : Kyushu-Shika-Gakkai-zasshi (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.945-963, 1983-10-25
被引用文献数
4

ニュートラルゾーンテクニックは, ニュートラルゾーン(以後, N・Zと記す)内に適切に人工歯が排列され, さらに義歯床辺縁および研磨面からの周囲組織の動態と緊密に適合することによって, はじめて効果的な義歯の維持安定が確保されるという基本的理論に基づいた術式であり, その成果は術者および患者の両者によって大きく評価されている.しかしながら, N・Zは歯牙の喪失および歯槽骨の吸収によって生じた空隙であるために, それ自体が口腔内で占める領域, 形態は, 一定であろうという既成概念があり, その再現性つまり定形性等について行った根本的な研究は見当らない.この研究では, 同一条件下で, 同一術者が繰返えし記録した場合のN・Zの部位および形態の動向と, さらに条件を変えた場合について, 仮想咬合平面上で検討した.当術式によるN・Z記録の再現性は予期していたよりはるかに小さく, 同一患者におけるN・Z中点の記録間で統計学的に有意差の出る割合いは, 切歯部で55.4%, 臼歯部では66.4%であり, 幅については切歯部では41.8%, 臼歯部では49.1%であった.N・Z記録における頬舌的中央線はほとんどの症例で歯槽頂より唇頬側に位置しており, その平均値は切歯部で4.66mm, 臼歯部で1.87mmであった.また繰返えしによる中点のバラツキは臼歯部より切歯部で大きく, 逆に幅については切歯部より臼歯部が大きかった.切歯部と臼歯部の中点間ならびに幅間には正の相関関係がみられたが, 各それぞれ基準点における中点・幅間には認められなかった.他方, 異った条件下でN・Z記録を採得すると従来のものとの間にかなりの変化がみられたが, 術者が代わっただけの条件の変化では著明な変化はみられなかった.このことはN・Zは主として患者自身の機能運動によって記録されるものであり, ある程度の経験さえあれば術者の巧拙にはよらないということを示唆していると考える.