著者
中原 知美 清野 透
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.57-66, 2014-06-25 (Released:2015-03-10)
参考文献数
44
被引用文献数
1 3

高リスク型ヒトパピローマウイルス群(high-risk human papillomaviruses: HR-HPVs)感染を要因とするがんは,子宮頸がんをはじめ世界の全がんの約5%,女性では約11%を占める.HPVは子宮粘膜等の重層扁平上皮組織に感染し,基底細胞において持続感染を成立させる.この持続感染は,時に数十年持続することが知られており子宮頸がん発症の背景となっている.HPVの生活環は,重層扁平上皮組織の細胞分化と密接に連動しており,ウイルスゲノムの複製やウイルス遺伝子の発現は,感染細胞の分化に応じて厳密に制御されている.HPVゲノムは,感染直後に一過的に増加した後,基底細胞では一定コピー数に維持される.一方で,感染細胞が分化を始めると爆発的に増加する.HPVゲノム複製がその生活環において3段階に制御される分子機構については長らく不明であった.近年,HPVゲノム複製の制御に,宿主のDNA損傷修復系との相互作用が深く関わることが明らかとなりつつある.本稿では,HPVゲノム複製とDNA損傷修復系との相互作用について解説する.
著者
温川 恭至 清野 透
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.141-154, 2008-12-24 (Released:2009-08-13)
参考文献数
84
被引用文献数
9 8

今から25年前Harald zur Hausen博士らによって子宮頸がんから16型ならびに18型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus: HPV)のDNAが発見され,その因果関係が初めて示唆された.その後の疫学的・分子生物学的研究から,子宮頸がんはHPV感染によって発症することに疑いの余地はなくなり,HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして確定している.90%以上の子宮頸がんでは16型を始めとする一群のHPVがコードするE6とE7が必ず発現しており,それぞれp53,pRBがん抑制遺伝子産物を不活化することが明らかになっている.E6はテロメラーゼを活性化する機能も有しており,E6とE7は共同してヒト初代上皮細胞を高率に不死化することができる.これらの機能は本来,分裂能を失い最終分化に向かう細胞をウイルス増殖に利用するために備わっていると考えられる.E6とE7の発現のみでは細胞はがん化しないが,E6,E7は細胞の不死化からがん化に至る多くの過程に関与していることが明らかになってきた.実際,実験的にはE6とE7の発現に加えH-rasの変異さえあれば正常子宮頸部角化細胞に造腫瘍性が付与されることも示された.HPV感染と子宮頸がん発生との因果関係が確定的なものであることから,HPV感染予防ワクチンが対がん戦略として有効なものであることが推測される.しかしながら,HPV感染は性交渉開始後の大多数の女性で見られるほど蔓延しており,第一世代HPVワクチンの現プロトコールでの長期間に渡る有効性やHPV型特異性について課題を残している.また,既感染者には無効である.従って,HPV感染の自然史やウイルス蛋白の機能に関する分子基盤を解明していくことは,HPVワクチンを用いた感染予防のみならず新たな治療法の開発にとって不可欠である.本稿では,最近明らかになったE6,E7の機能を紹介するとともに,HPV感染から子宮頸がんへ至る機構について概説したい.