- 著者
-
温川 恭至
清野 透
- 出版者
- 日本ウイルス学会
- 雑誌
- ウイルス (ISSN:00426857)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.2, pp.141-154, 2008-12-24 (Released:2009-08-13)
- 参考文献数
- 84
- 被引用文献数
-
9
8
今から25年前Harald zur Hausen博士らによって子宮頸がんから16型ならびに18型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus: HPV)のDNAが発見され,その因果関係が初めて示唆された.その後の疫学的・分子生物学的研究から,子宮頸がんはHPV感染によって発症することに疑いの余地はなくなり,HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして確定している.90%以上の子宮頸がんでは16型を始めとする一群のHPVがコードするE6とE7が必ず発現しており,それぞれp53,pRBがん抑制遺伝子産物を不活化することが明らかになっている.E6はテロメラーゼを活性化する機能も有しており,E6とE7は共同してヒト初代上皮細胞を高率に不死化することができる.これらの機能は本来,分裂能を失い最終分化に向かう細胞をウイルス増殖に利用するために備わっていると考えられる.E6とE7の発現のみでは細胞はがん化しないが,E6,E7は細胞の不死化からがん化に至る多くの過程に関与していることが明らかになってきた.実際,実験的にはE6とE7の発現に加えH-rasの変異さえあれば正常子宮頸部角化細胞に造腫瘍性が付与されることも示された.HPV感染と子宮頸がん発生との因果関係が確定的なものであることから,HPV感染予防ワクチンが対がん戦略として有効なものであることが推測される.しかしながら,HPV感染は性交渉開始後の大多数の女性で見られるほど蔓延しており,第一世代HPVワクチンの現プロトコールでの長期間に渡る有効性やHPV型特異性について課題を残している.また,既感染者には無効である.従って,HPV感染の自然史やウイルス蛋白の機能に関する分子基盤を解明していくことは,HPVワクチンを用いた感染予防のみならず新たな治療法の開発にとって不可欠である.本稿では,最近明らかになったE6,E7の機能を紹介するとともに,HPV感染から子宮頸がんへ至る機構について概説したい.