著者
渋山 昌雄
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.144-150, 2005-09-19 (Released:2017-04-27)
参考文献数
18

「人間中心主義から生命中心主義へ」というスローガンが、動物解放論をはじめ、生命平等論、生態系中心主義などの環境思想・環境倫理の領野からの提言として言われてきた。しかし、「人間を中心におく」という人間の主体的表現を現代の私たちは本当に放棄しなければならないのだろうか。人間であることは本当に重要ではないのだろうか。本稿は本来の「人間中心主義」を復権すべく「人間であることの重要性」を確認しようとしている。まず最初に哲学的人間学の試みを検証する。彼らは、伝統的人間観を変質させようとした当時の自然科学的知見に対して、危機感をもちながらも人間の位置付けを新たに試みざるを得なかった。彼らの置かれていた状況は、科学技術がもたらした環境問題の深刻さによって再び人間の位置付けが間われている現代の状況とあまりにも類似している。次に人間中心主義の復権の可能性の手がかりとしてR.ノージックの議論を確認する。彼の議論は「帰属性」と「卓越性」という極めて共有しやすい事実を起点にしている。それだけにいっそう説得力に富む提案となっている。