著者
渋沢 ひかり 大石 恭子 大田原 美保 佐藤 瑶子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 2021年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.16, 2021 (Released:2021-09-07)

【目的】玄米の糠層は疎水性成分が多いため精白米と比べて炊飯過程での吸水,糊化が進みにくく,食味改善として長時間浸漬や加圧炊飯,加工玄米の利用等の工夫がなされている。約300年前に秋田県で発祥した「びっくり炊き」は加熱途中のさし水添加で玄米の吸水を促す特殊炊飯法であるが,本法に関する科学的研究は皆無である。本研究では炊飯時のさし水添加が玄米の吸水,飯の物性に与える影響を実験的に解明することを目的とした。【方法】平成30年度宮城県産のひとめぼれを玄米試料とした。文献調査および予備実験により,総加水比2.3とし,米の1.2倍の水で加熱を始め,10分後に沸騰,沸騰継続10分後に米の1.1倍のさし水(水温0,20,98℃)を加え,再沸騰後20分間加熱,消火,蒸らしを行った。加熱過程で採取した米の吸水率,溶出固形物量の測定を行い,色素添加炊飯液を用いて外皮破裂に伴う胚乳露出面積率を画像解析により求めた。飯の物性測定(テクスチャーアナライザー,一粒法)および糊化度測定(BAP法)も行った。【結果】0,20,98℃のさし水添加直後の炊飯液は,それぞれ約52℃,63℃,98℃であり,再沸騰後の米粒の吸水率,胚乳露出面積率および液中の溶出固形物量は0℃,20℃条件が98℃条件よりも有意に増加した。さらに0℃条件の飯のみ,98℃条件よりも有意に軟らかくて粘り,糊化度が高い傾向があった。以上より,さし水添加による急激な温度低下は玄米外皮の破裂を促し,胚乳への吸水およびデンプンの糊化と溶出を増大させ,飯の物性を改善した。経験的に行われている「びっくり炊き」が玄米の低吸水性を克服できる手軽で実用的な方法であることが実験的に確認できた。