著者
郡山 貴子 飯島 久美子 小西 史子 佐藤 瑶子 香西 みどり
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.174-181, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
32
被引用文献数
5

多収穫を特徴とするムクナ属マメは,L-DOPAを乾燥種子中に3-9%と多く含有するため,食品としての利用は限られている。ムクナ豆の利用として味噌に着目し,種々の条件の組み合わせによる4種類:米麹辛口,米麹甘口,麦麹甘口,および米麹甘味噌を調製し,発酵中の外観及び成分変化を測定した。比較のため同じく4種類の大豆味噌を調製した。pH,酸度Ⅰ・Ⅱ,たんぱく質溶解度,および色測の値より,ムクナ豆味噌はいずれの種類においても大豆味噌と同様な熟成過程を経て味噌になった。ムクナ豆味噌のL-DOPA量は仕込み直後には味噌湿重量 100 g中 0.14-0.26 g残存していたが,発酵開始後は直線的に低下し,味噌完成時には検出されなくなった。官能評価の結果,ムクナ豆味噌の総合評価は大豆味噌に比べて高い傾向を示し,中でも米麹を用いた甘口味噌の評価が高い傾向がみられた。ムクナ豆米麹甘口味噌の抗酸化能は大豆米麹甘口味噌よりも有意に高く,DPPH法では1.7倍,ORAC法では4.5倍高値を示した。これらのことより,ムクナ豆を主原料とした味噌は発酵過程でL-DOPAが消失し,嗜好性が良好で,抗酸化能にも優れることが示された。
著者
渋沢 ひかり 大石 恭子 大田原 美保 佐藤 瑶子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 2021年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.16, 2021 (Released:2021-09-07)

【目的】玄米の糠層は疎水性成分が多いため精白米と比べて炊飯過程での吸水,糊化が進みにくく,食味改善として長時間浸漬や加圧炊飯,加工玄米の利用等の工夫がなされている。約300年前に秋田県で発祥した「びっくり炊き」は加熱途中のさし水添加で玄米の吸水を促す特殊炊飯法であるが,本法に関する科学的研究は皆無である。本研究では炊飯時のさし水添加が玄米の吸水,飯の物性に与える影響を実験的に解明することを目的とした。【方法】平成30年度宮城県産のひとめぼれを玄米試料とした。文献調査および予備実験により,総加水比2.3とし,米の1.2倍の水で加熱を始め,10分後に沸騰,沸騰継続10分後に米の1.1倍のさし水(水温0,20,98℃)を加え,再沸騰後20分間加熱,消火,蒸らしを行った。加熱過程で採取した米の吸水率,溶出固形物量の測定を行い,色素添加炊飯液を用いて外皮破裂に伴う胚乳露出面積率を画像解析により求めた。飯の物性測定(テクスチャーアナライザー,一粒法)および糊化度測定(BAP法)も行った。【結果】0,20,98℃のさし水添加直後の炊飯液は,それぞれ約52℃,63℃,98℃であり,再沸騰後の米粒の吸水率,胚乳露出面積率および液中の溶出固形物量は0℃,20℃条件が98℃条件よりも有意に増加した。さらに0℃条件の飯のみ,98℃条件よりも有意に軟らかくて粘り,糊化度が高い傾向があった。以上より,さし水添加による急激な温度低下は玄米外皮の破裂を促し,胚乳への吸水およびデンプンの糊化と溶出を増大させ,飯の物性を改善した。経験的に行われている「びっくり炊き」が玄米の低吸水性を克服できる手軽で実用的な方法であることが実験的に確認できた。
著者
佐藤 瑶子 入山 明日香 香西 みどり
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.165-172, 2018 (Released:2018-06-22)
参考文献数
14

湿式加熱における品質制御の視点から,蒸し加熱及びゆで加熱の軟化の速度定数を測定し,試料内部の温度及び硬さの変化を予測し,官能評価を行った。軟化の速度定数は,85℃付近ではゆで加熱が,100℃付近では蒸し加熱の方が大きかった。しかし,蒸し加熱とゆで加熱の硬さの平均値から求めた軟化速度を用いて加熱時間を予測し,実際に試料を加熱して官能評価を行ったところ,加熱法によって硬さの評価に有意な差は認められなかった。よって,硬さの測定結果より,蒸し加熱とゆで加熱では温度域によって軟化速度にわずかな差はあるものの,加熱時間を同じとしても,ほぼ同程度の硬さに仕上がることを官能評価の結果から確認した。
著者
金城 みなみ 佐藤 瑶子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成26年度(一社)日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.74, 2014 (Released:2014-10-02)

【目的】煮物調理のおいしさを決定する上で味付けの状態は重要な要因であり、品質一定の調理品を得るには調味料成分の拡散過程の予測が必要である。本研究では調味の中でも甘味と塩味に着目し、両者の変化を同時にシミュレーションすることで実際の加熱調理における両者の関係を把握することとし、予測に必要なショ糖の拡散係数の測定も行った。 【方法】20、50、70℃の0.15 M(5.13%)ショ糖溶液に浸漬した2cm角ダイコンのショ糖濃度の経時変化をフェノール硫酸法により測定した値を用い、三次元拡散方程式に基づくプログラム計算より各温度における拡散係数を求めた。試料を1mm3の体積要素の集合体とみなし、試料中の各体積要素のショ糖濃度を得られた拡散係数を用いて予測し、全ての体積要素の平均値を試料全体平均ショ糖濃度の予測値とした。2cm角ダイコンを0.15Mショ糖水溶液で室温から99.5℃で1時間加熱後のショ糖濃度の予測値と実測値を比較した。ショ糖及び食塩1)の拡散係数を用い、20種以上の料理書等のレシピを参考にし、実際の調理におけるダイコン中のショ糖及び食塩の拡散過程を予測した。 【結果】ダイコン中のショ糖の拡散係数は、20℃:0.38×10-5 cm2/s、50℃:0.73×10-5 cm2/s、70℃:1.48×10-5 cm2/sであり、それらの温度依存性をアレニウスの式で表した。温度変化を伴う調理におけるショ糖濃度の経時変化の予測値と実測値は概ね一致した。料理書等の煮物調理における調理過程をシミュレーションした結果、調味液中のショ糖濃度が4~6%、食塩濃度が1~5%の時、ダイコン中の食塩濃度は0.6±0.1%とほぼ適度であり、この時のショ糖濃度は2~4%であった。 1)遠藤ら,日調科誌,46,8-14(2013)
著者
吉田 里緒 佐藤 瑶子 飯島 久美子 辻 ひろみ 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成28年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.53, 2016 (Released:2016-08-28)

【目的】スチームコンベクションオーブン(以下、スチコン)は、大量調理施設等で広く利用され、ゆでる、蒸す等の調理も可能である。加熱時には温度、時間、蒸気量の設定が必要であるが、これらを考慮した根菜類の加熱時間の設定に関する報告は見られない。そこで本研究では、スチコンでジャガイモを蒸し又はゆで加熱する際の中心温度及び硬さの予測から試料が適度な硬さになるまでの最適加熱時間を算出し、実験により検証した。【方法】スチコン(tanico,TSC-10GB)を用いて、設定温度100℃、設定蒸気量100%で試料を加熱した。試料は2cm角ジャガイモとし、加熱中の庫内温度、水温、試料中心温度を測定した。蒸し加熱は穴あきホテルパンを使用し、ゆで加熱はホテルパンに水と試料を合計3kg(重量比1:1)入れた。蒸し加熱では庫内温度、ゆで加熱では水温に基づき、試料中心温度及び硬さの変化をプログラム計算により予測し、適度な硬さになるまでの最適加熱時間を算出した。実際に試料を加熱し、硬さの測定(テクスチャーアナライザー)及び官能評価(5段階評点法)を行った。【結果】スチコンでの蒸し及びゆで加熱中の試料中心温度の実測値は予測値と概ね一致した。2cm角ジャガイモの最適加熱時間は、蒸し加熱で10.2分だった。ゆで加熱は16.2分であり、その内訳は水温上昇11.4分、沸騰継続4.8分だった。実際に加熱した試料は官能評価によりいずれも適度な硬さと評価された。ゆで加熱では、ホテルパンの枚数が多くなるほど水温上昇が緩慢になり、水温が99℃になるまでの時間はホテルパンの枚数と直線関係が認められた。そのため、最適加熱時間もホテルパンの枚数が増えるほど長くなり、ホテルパンを10枚使用したときは1枚使用したときよりも加熱時間を9.2分延長する必要があった。