著者
渡辺 明子 渋谷 治男 融 道男 渡辺 明子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

要約:治療抵抗性の気分障害者に抗うつ薬に加えて甲状腺末を併用投与すると抑うつ症状が改善する事をしばしば経験する。これは両薬剤の併用が抗うつ作用を増幅した結果と考えられる。このような抗うつ作用の増幅の機序を明らかにするために、ラットにデスメチルイミブラミン(DMI)とレポチロキシンナトリウム(T_3)を併用投与したときの動物行動、脳内アミンおよびβ受容体、セロトニン(5HT)2A受容体について調べ検討した。対照群、DMI群、T3群、DMI+T3併用群の4群間で比較検討した。薬物の投与は単回(DMI 30mg/kg,T3 1mg/lkg)、反復投与(DMI 10mg/kg,T3 100μg/kg)7日間とした。DMI+T3併用群についての結果は、強制水泳テストで7日間の併用薬投与でのみ有意な無動時間の短縮(59%に減少)を認め、抗うつ作用の増幅作用を裏付けるものであった。その時の脳内アミンの変化は前頭前野皮質(PF)でノルアドレナリン(NE)の有意な増加、ドーパミン(DA)代謝回転の亢進、海馬(HIP)で5HT代謝回転の亢進を示した。反復東予によるβ受容体の変化はDMI群で従来報告されているようにPF,HIP,視床下部(HY)で有意な結合量の減少を示したが、T3群はPFで有意な増加を示し、併用薬群はいずれの部位でもその中間値を示し対照群との差を認めなかった。5HT2A受容体をは7日間の併用薬反復投与群でPFで結合量の減少を示した。この時、T3群も減少を示したが、DMI群では変化なくT3がその効果を高めたと考える。従来の抗うつ作用機序とされるβ受容体、5HT2Aの減少が言われているが、今回の結果は必ずしも一致するものではなかった。アミンおよび受容体の変化を主にPFで認めたことから抗うつ作用の責任部位の一部はPFが担っており、そこではDA,NE,5HTニューロンが相互に係わっている可能性を示唆した。