著者
春日 喬 坂元 章
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

申請者たちは、インターネットの利用方法の1つであるMUD(MultiUser Dungeon)の中で社交的に行動することが、現実場面における人々の対人不安傾向を軽減するかを検討している。昨年度の研究では、シャイネス傾向者がMUDの中で社交的に行動した後には、現実場面での他者に対する行動が積極的になり、対人不安傾向が低くなることが確認された。しかし、この実験では、被験者はMUDを30分しか使っておらず、また、現実場面での積極性がMUD使用の直後に観察されており、短期的な影響しか検討されていない。さらに、シャイネス傾向の低いヒトは被験者となっていない。そこで、本年度の実験では、被験者に合計して9時間(1日に1〜3時間)にわたってMUDを使わせ、さらに、他者に対する積極性の測定を別の日に行った。また、シャイネス傾向の日とも被験者とした。具体的にはまず、予備調査によって、シャイネス傾向が高いと判定された10名の女子大生と、それが低かった10名を、使用群と統制群に半々に分けた。使用群は、MUDの中で「社交的な人物を演じる」ように教示され、9時間、MUDの1つである「The Palace」の一部のサイトを使用した。一方、統制群の被験者は、同じ時間、中立的な映像を視聴した。これらのメディア接触の後、別の日に、待合室テクニックを使って、被験者の対人的積極性を調べた。被験者は、見ず知らずの人物(サクラ)と、2人きりにされ、その人物に対して、被験者がどれだけ積極的に行動したか(話しかけたか、など)を調べた。この結果、シャイネス傾向の低い被験者の場合で、使用群のほうが、統制群よりも、他者に対して積極的に行動するという有意な結果が得られた。このように、一応の有意な結果は得られたが、本実験は、実施に非常に時間がかかるため、被験者の数はまだ多くない。現在も、継続してデータを追加している。
著者
飯塚 哲 高橋 好徳 畠山 力三 佐藤 徳芳
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では空気のオゾナイザー放電により生成されたオゾン処理空気を水槽に流し、実際に金魚を飼育して、その成長に及ぼす効果について明らかにした。実験では、(1)オゾン生成部、(2)処理空気の輸送部、(3)水中での成分測定、及び(4)金魚の成長を観察した。(1)ではオゾナオザー放電の発光スペクトルを測定した結果、300〜400nmの紫外線が強く発光し、原子状酸素の存在が確認された。オゾンの紫外線吸収帯(254nm)以下の紫外線の発光は微量であった。(2)オゾナイザーを通過した空気の成分を調べるために気体の吸光度を測定した結果、254nmを中心に半値幅が約20nmの吸収帯が観測された。これはオゾンによるものであり、その他の窒素酸化物などによる吸収はほとんど観測されなかった。(3)この処理空気を蒸留水に瀑気して水の吸光度を測定した。その結果、波長が230nm以下の領域での吸光度が、瀑気日数と共に上昇していくことが分かった。通常の空気瀑気ではほとんど吸光度の変化は見られなかった。これは重要な知見である。さらに、オゾンと水との反応による過酸化水素の検出をしたところ、オゾン瀑気水に0.013ppm程度のわずかな量が見られた。過酸化水素水中で金魚の飼育を試みたが顕著な成長は見られず、過酸化水素の生体活性度はなかった。また、各種の水中負イオンの分析を行った。金魚を入れたオゾン処理水の硝酸負イオン濃度は空気瀑気水の17%であり、顕著な差異が認められた。水中オゾン濃度は検出限界以下であった。(4)オゾン処理水中の金魚は活発に運動し、餌をよく食べ、成長は空気瀑気通常水の体長で約2倍、体重で約4倍の差が見られた。以上の測定結果から、空気酸素の放電による生成オゾンが水と反応し、イオン濃度等を変化させ、金魚の成長と関連していることが確認された。
著者
勝沼 信彦 犬伏 知子 遠藤 晃市
出版者
徳島文理大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ビタミンB6の活性助酵素型ピリドキサール燐酸(PALP)がシステインプロテアーゼ群を阻害することは全く新しい発見である。その阻害はカテプシン群の活性基-SIIとPALPの活性アルデヒドが結合しておこることを明らかにした。ビタミンB6誘導体の中で生理的助酵素型であるPALPが一番阻害が強いことは大切で意義が深い。勝沼らはカテプシンBのX線結晶回折からカテプシンBの立体構造のコンピューターグラフィックを使用して、カテプシンBとPALPは親和性が強く結合するが、燐酸のないPALは結合が非常に弱いことを説明できた。抗原のプロセッシングプロテアーゼであるカテプシンBを強く阻害できることからこのビタミンB6誘導体のinvivoでのカテプシンBの阻害及び免疫・アレルギー発現抑制が、生理的に関与しているか、または治療薬理学的に意味があるのかを明らかにした。そのことにより(1)食餌ビタミン量と免疫・アレルギー発現の間に関係があるのか。(2)薬物量のビタミンB6投与により免疫抑制及びアレルギー発現の抑制が可能であることを明らかにした。すなわち、卵白アルブミンで感作した場合に産生されるIgElとIgGl量がビタミンB6誘導体PALとPIN投与で著明に抑制されることが証明できた。更にこれらの抑制はサイトカイン類、Il-4,IL-2等の産生抑制を介して起こっている。すなわち、ビタミンB6により抗原のプロセッシングが抑制されることにより、サイトカイン類の産生に影響を与えて、その結果としてインムノグロブリン産生に影響を与えるという事がわかった。この原理により、アレルギー発現に対してビタミンB6は予防や治療薬として使用可能であるのかを明らかにした。
著者
吉岡 亮衛
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は、俳句データベースに蓄積されたデータと、エキスパート(選者)の評価基準を駆使して、新たな俳句が既存の俳句に類似している度合いを自動判定するシステムを開発することが最終目的である。そのため、(1)既存の俳句をデータベース化するためのデータベース構造を究明し、入手可能なできるだけ多くの俳句をデータベース化すること、(2)個々の俳句の特徴(たとえば季語)に照らしての分類や真贋判定する選者(エキスパート)の知識をルール化すること、及び(3)それらを一体化したシステムを開発することを目指している。本年度は次のように研究を進めた。1.季語データベースによる俳句の季語の特定季語データベースに登録された季語により適当に選んだ俳句の季語をどれくらいの割合で特定できるか、実際にマッチングテストを行った。マッチング方法の検討からはじめ、2つの歳時記に共通の季語1,542語で448句のサンプル俳句の訳65%の季語を特定できるという結果を得た。同時に、季語が特定できた時にどのような研究が可能となるか、一例として、俳句選者による季節及び事項の嗜好に関する分析結果を示した。2.季語データベースの増補次に、季語データベースを用いて俳句の季語を特定する場合の、特定率の向上について、季語を追加することによる特定率の変化を調べた。その結果、季語を増やせば、俳句の季語の特定率が上昇することを明らかにできた。ただし、約10,000語で90%の俳句を特定できた後、季語数の増加は特定率の向上にそれほど寄与しないであろうことを見いだした。つまり、特定率を90%で十分とするならば、1万語以上の季語データベースは必要ないという結論を得た。以上の一連の研究については、情報処理学会の人文科学とコンピュータ研究会において発表した。
著者
荒島 康友 加藤 公敏 熊坂 一成 河野 均也 古屋 由美子 池田 忠生
出版者
日本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

1.東京地区の大学病院におけるCoxiella bumetti(Cb)感染の状況の把握について:慢性疲労症候群(CFS)の患者138名について、Coxiella burnetti(Cb)DNAの検出をnested PCR法により行った。その結果、30例(21.7%)が陽性となった。健康人対照52例では5例(9.6%)が陽性となり、CFSで陽性率が有意に高かった(P=0.027)。また、CFSの基準に満たない、発熱、倦怠感等の不定愁訴を示した患者48名中20例(41.7%)がCb抗体価陽性となった。2.Q熱患者における抗生剤の投与方法や投与期間など治療法の検討:この20例に対し、MINOを中心とした抗生物質で治療を行ったところ効果の発現まで1〜3ヶ月と、個人差は有ったものの、20例の全ての患者に解熱、倦怠感の改善が認められた。3.登校拒否児についての検討:登校拒否児の症例は、研究協力者が転勤となったために、積極的な協力が得られず、4症例ではあった。しかし、1例が抗体価が陽性となりMINOの投与により症状が改善した。4.患者飼育ペットの検討:3症例の患者のペット(イヌ3頭)の検査を行ったところ、2頭がPCR陽性となった。また、1頭はMINOによりPCR陰性となった。5.学会発表:以上のCFSについては、第7回慢性疲労症候群研究会において発表を行った。また、3月の日本内科学会で発表予定である。さらに、招請講演において、今回のQ熱に付いて広く理解を得るべく説明を行っている。6.論文発表:現在、今回の内容でCIDに投稿中である。7.マスコミ報道:NHK2002年3月4日クローズアップ現代、8chアンビリーバボー以上、現在までの研究の概略を述べたが、予定の約80%には達していると考えている。
著者
平原 裕行 川橋 正昭
出版者
埼玉大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本年度は,人の動きを各地で取材して,動きのパターンを区分し,最適な解析手法について検討した.取材は,大宮駅改札前,および東京都,新宿交差点付近を対象にしている.取材の結果は,個別の対象物体の動きに変化が大きく,動画像解析においては,集団運動の解析は,非常に困難で,物体個別の解析が必要であることが明らかとなった.これとは,並行して,人の流れのモデル化をより一般的に調べるため,魚の動きを捉えて,その座標位置の時間的変化から,数密度,速度の時間的変動を調べた.魚としてはメダカを取り上げ,メダカの光に対する逆光性と個々のメダカの位置取りが平面的であることを利用して,二次元の生物流の観察を行なった.実験に際しては,既存の大型水槽を改良して,中央流路が狭くなっている流路を用い,一方から,他方へ移動する群れの様子を,ビデオカメラで撮影し,これをPC上で解析した.運動解析は,各時刻のメダカの重心位置をトレースする方法を用いた.解析の結果,メダカの運動は,かなり変動が大きいものの,流路が狭まると,速度が減少し,密度が増加する傾向が見られた.これは,通常,言われているように,生物の流れが基本的には超音速流れに類似していることを示している.しかしながら,狭まり部から先の運動に関しては,必ずしも超音速流れとの類似点は見られなかった.以上より,運動力学上の重要なデータが得られた.更に,数値シミュレーションでは,単純な粒子運動モデルを作成し,粒子分子ポテンシャルと,運動ポテンシャルを与えて,シミュレーションを行ない,単一流路幅での運動で,ランダムウォークを示すシミュレーション結果が得られ,シミュレーションの基本スキームを確立した.
著者
藤 義博 岡田 二郎
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は自由行動中のオオスズメバチの脳の活動を埋め込み電極で記録することと、これをFM無線で転送し、その行動の神経生理学的基礎を直接解析することの2点を目的とした。本研究では予備実験として、オオスズメバチの視覚行動、学習過程、脳の構造を調べた。オオスズメバチの脳のサイズは現在まで報告されている昆虫の中では最大で、慢性埋め込み電極を用いいる研究に最適であることが明らかになった。まず第一の目的である特に埋め込み電極の有用性を検討した。スズメバチの脳に直径20μmの被覆銅線を埋め込み、飛翔時の脳の活動が可能であるかを調べた。飛翔中のスズメバチは前方で動く物体に顕著な攻撃行動をする。本研究では、この攻撃行動に関わるとみられる脳の活動変化が記録された。さらに、視覚中枢である視葉でも、動きの検出に関与するニューロンの応答が記録された。以上の結果は、慢性埋め込み電極でも、従来のガラス微小電極がに匹敵する記録が長時間可能であることを示した。第二の目的である、無線による活動電位の記録は困難な課題であるとの結論に達した。行動中の昆虫の筋電図(筋肉の活動電位)を無線で送る実験は報告されている。オオスズメバチはトランスミッターを背負っても飛翔することは出来る。このような実験はオオスズメバチ以外では不可能である。他の大型昆虫にもトランスミッターを負荷し、歩行可能な種はいるが、飛翔することは出来ない。従って、オオスズメバチから飛翔中の筋電図を記録することは可能であった。これは、飛翔の視覚コントロールの研究の有効な手段となりうる。しかしながら、脳の活動の記録は困難であった。筋電位がミリボルト単位の電位変化であるのに対し、脳の活動電位はマイクロボルトと非常に微弱でノイズレベルでから区別出来なかった。現在、これらの困難を克服するため、電極を工夫しノイズの低い記録方法を追求し、シグナルとノイズの分離法を検討している。
著者
園田 立信 永延 清和 長谷川 信美 御手洗 正文
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

「家畜は夜作られる」という諺が昔は語られていた。これは、十分な急速によって、エネルギーのロスを少なくすれば、それだけ、家畜の健康を保証し、成長や生産を促進できるという科学的な常識であった。本研究グループは、上記の考えは理論的には間違っていないと考えるが、昨今の近代的、すなわち集約的な使用管理下の家畜での行動などの実態をみていると、現状では全く異なっているのではないかと発想し、下記のような調査を行った。本研究では、草地での放牧、コンクリート床のペン、ケージ(鉄枠)の3種の飼育管理条件を設定し、それらの生理的・行動的状態を、心電図、脳波、および暗視ビデオカメラを用いて調査した。なお、5分毎に睡眠の程度を、身体の動き、心電図、および脳波で評価し、5点満点で評価した。なお、豚の睡眠時脳波については、ヒト脳波の分類に近似させることを試みたが、出現波形の違いと出現頻度の特徴から6種類に分類し、他の生理的指標をあわせた。その結果、豚のおかれた飼育環境によって、睡眠の状態は著しく異なることが明らかとなった。すなわち、ケージ飼育では、見た目では"睡眠"下にあるが、脳波はα波がもっとも多く、深い睡眠を示す脳波は殆ど出現しなかった。この場合、心拍数は少なくなることはなく、多いままであった。従って、拘束下の豚は、行動面では横臥・伏臥しているが、エネルギー消耗の多い状態であることが明らかとなった。逆に、放牧された豚の脳波と心拍数を観察すると、横臥時の脳波は周期的に深いものとなり、心拍数も明らかに少ないことが観察された。従って、この豚ではエネルギー消耗の少ない休息を行っていることが明白であった。コンクリート床のペンで飼育した豚の休息時の生理的指標は、上記のケージ拘束と放牧との中間にあった。以上より、通常の集約的養豚システムでの豚では休息時もエネルギー消耗が多く、「寝る子は育つ」という諺はあてはまらないことが確認された。
著者
清水 克彦
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本年度は、研究の最終年度として、次のことを行った。1)数量的なリテラシーを育成するために役立つソフトウエアの開発イスラエルの数学教育学者であるイェルシェルミーが開発し、世界的に定評のあるソフトウエアであるCalculus Unlimitedに着目し、その日本語化を行うこととした。このソフトウエアは、代数・関数・微積分の統合的な学習環境であるとともに、現実現象とグラフ化による数学的な解析を可能にしたものであり、高等学校における数量的なリテラシーの育成にとって有効であると思われた。そこで、研究協力者として、垣花京子(東京家政学院筑波女子大)、福田千枝子(白鵬大学)を依頼し、共同のもとに、日本語化を進めた。それは次のように行った。(1)イェルシェルミーに日本における版権放棄の交渉:これによって、日本では基本的にローヤリティーのない開発が可能となった。(2)実際のソフトウエアの日本語化:中山良一(高千穂商科大学情報メディアセンター)の協力を得て、日本語化を完成させた。(3)実際の授業開発:福田千枝子が中心となって、実際に高等学校で使用し、日本での使用方法について検討を行った。(4)マニュアルの作成:使用法のみならず授業例を挙げたマニュアルを完成させた。(5)頒布:21世紀教育研究所の協力を得え、手数料のみで教員に配布を開始した。2)研究成果の発表垣花、福田、中山の3名と清水が連名で、アジア数学テクノロジー会議で発表した。
著者
広田 純一 八巻 一成 藤さき 浩幸 土屋 俊幸
出版者
岩手大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、都市住民の中山間地域の農山村を舞台とした滞在型レクリエーション(=グリーンツーリズム)へのニーズに応えるとともに、中山間地域の活性化、およびそれを通じた農山村地域の環境保全を図るために、中山間地域の地域資源(自然、歴史文化、人材)をトータルに演出して観光資源として活用する方策を検討することである。最終年度である本年度は、中山間地域の滞在型レクリエーションの成功事例を比較検討し、その成功要因とともに、地域資源の観光資源としての生かし方のノウハウを探った。その結果、多くの事例は行政主導型であるが、その後の成功の如何は、主として地域住民の主体的参加および地域外の常連客(リピーター)づくりをいかに実現するかにかかっていること、その意味で、観光資源づくりの技術的なノウハウよりは、行政による住民のモチベーションの引き出し方、そして行政と住民の連携による受け入れ体制作りが重要であることが明らかになった。また、各種の施設づくり(宿泊施設、交流体験施設、直売所、農産物加工施設、飲食施設、地域の自然・歴史文化の展示施設等)やふるさと体験ツアーなどは、企画・計画策定段階から地域住民の参画を求めることによって、住民の参加意欲を引き出すことができるので、滞在型レクリエーションの受け入れ体制づくりの手段としても有効であることがわかった。さらに、持続的な滞在型レクリエーションを成立させるためには、宿泊、飲食、体験インストラクションなどについて、地域内の有機的な分業体制を敷くことが重要であることもわかり、成功事例の地域も含めて、今後の課題と言える。
著者
藤本 憲一
出版者
武庫川女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

◎本年度研究報告本年度は、最終年度にあたり、大容量のDVDメディアを標準としたデータベース作成を試みた。年頭の計画書に記したとおり、成果の集約をはかった。1)ネットワーク家族の現在形として、「モバイル(携帯)」メディアの使用実態に関するフィールドワークを実施した。また、「携帯電話」と「携帯食(モバイル食・中食)」と呼ばれる、通信と食の領域に関するアンケート調査を実施した。そのなかで抽出された特異なサンプルについては、とくに再度ヒアリングをおこない、生活史的調査をおこなった。2)調査結果に基づき、以上のような考察をえた。・血縁家族を単位とした、家と家との結びつきは、家庭機能の外部化や、冠婚葬祭等コミュニティ行事・イベントの減少に比例して、質量ともにネットワーク力を低下させている。生活史調査によれば、家庭だけでなく、学校や職場等「準-家族的集団」も、ネットワーク力を低下させている。・家族成員は、それぞれ「携帯電話」と「携帯食(モバイル食・中食)」を通じて、家庭外での新しい非血縁コミュニティを形成しつつある。それは、友人というよりも家族に代わる親密な集団、いわば「ネットワーク家族」として機能しつつある。・空間距離学的にいえば、家族という物理的に近い同居集団よりも、「ネットワーク家族」という物理的には離れて暮らす非同居集団のほうが、「リアル」な親密性を獲得し、心理的な距離を縮めつつある。
著者
坂口 末廣 宮本 勉 片峰 茂
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

プリオン病の病原体は感染型プリオン蛋白からのみ構成されるというプリオン説が、広く受け入れられている。しかし、我々はプリオン病感染マウス脾臓と唾液腺において感染型プリオン蛋白と感染価に乖離が認められることを報告した。そして、プリオン蛋白欠損マウスに感染実験を行ったところ、感染後29週の欠損マウスの脳内にわずかながら感染価を検出した。これらのことはプリオン説に反し、プリオン病の病原体が感染型プリオン蛋白で構成されていない可能性を示唆した。このことをさらに確認するために、感染後50週、56週、58週、94週、100週、112週にプリオン蛋白欠損マウス脳を摘出し、それぞれの脳乳剤を正常マウス(ddY)に接種して感染性の検討を行った。50週後の脳は12匹のマウスに、56週後の脳は10匹のマウスに、58週後の脳は11匹のマウスに接種したが、すべてのマウスは発症しなかった。しかし、94週後の脳を接種した9匹のマウスのうち1匹が139日後に、100週後の脳を接種した15匹のマウスのうち13匹が182〜426日後に発症し、112週後の脳を接種した17匹のマウスのうち10匹が193〜378日後に発症した。そして、これらの発症したマウスの脳内には感染型プリオン蛋白が認められた。これらの実験結果は、プリオン病の病原体が感染型プリオン蛋白で構成されていない可能性をさらに強く示唆した。しかし、10 ^5LD_<50>くらいの感染価を含む脳乳剤を接種したにもかかわらず、94週、100週、112週後の脳内に認められた感染価は10 ^3LD_<50>以下であった。50週、56週、58週後の脳内には全く感染性が検出できなかったことは、94週、100週、112週後の脳内に認められた感染価がはじめに接種した脳乳剤からのものではないことを示している。
著者
伊藤 公平
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

半導体用シリコン(Si)は人類が作製した単結晶として最も純度が高く、最も結晶性の優れた材料と言っても過言ではない。それゆえに、現在の超高集積回路が実現された。しかし、地球上に存在するすべてのSi中には^<28>Si、^<29>Si、^<30>Siの3種類の安定同位体が存在し、それぞれの組成比は92.2%(^<28>Si)、4.7%(^<29>Si)、3.1%(^<30>Si)と常に一定である。異なる同位体が同一結晶内に存在するということは、結晶を構成する原子の質量にばらつきがあることを意味し、また、核スピン(^<29>Si同位体のみが核スピンを有する)の分布にもばらつきがあることを意味する。従来、シリコン中の同位体組成を変化させて「質量分布」や「核スピン分布」を制御した例はほとんどなかった。本研究では^<28>Si安定同位体純度を99.92%まで高めた半導体シリコン(Si)バルク単結晶の成長に世界に先駆け成功した。^<28>Siバルク単結晶の熱伝導度は、通常のSiの熱伝導度と比較して室温で60%、100℃で40%向上することが確認され、将来のLSI基板材料として大きな期待が寄せられている。また、^<28>Siバルク単結晶は、量子コンピュータを実現する材料、アボガドロ定数を精確に決定する世界アボガドロ定数標準、ビッグバン理論の検証に関する宇宙物理学研究用センサー、無重力空間における溶融実験に大きな進歩を及ぼす材料として期待されている。本研究で成長された結晶は上記各方面の研究・開発に利用されることになる。
著者
中島 健介
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

積雲による励起の季節変化・日変化についての検討励起源と見られる積雲対流の指標(降水量・雲量)について衛星観測から客観解析されたデータを入手して、検討してみた。残念ながら、日変化については信頼できる直接の観測は得られていないことがわかった。しかし、積雲の活動が活発な地域の季節的変動と、典型的な積雲日変化の特性を組み合わせると、日変化の季節変動が推定できる。これと、常時励起振幅の日変化の季節変動の特性とは、かなり一致していることがわかった。このことは、本研究の核心すなわち積雲が常時励起の主体であることを、強く支持するものである。木星における枇曇対流と自由振動の関係についての考察ガリレオなどによる探査の結果、木星大気でも積雲対流が生じていることが分かっている。この積雲対流が木星全体の自由振動を常時励起することが考えられるので、予備的な考察を行った。地球の場合には、積雲が存在する大気と自由振動する固体部分との間には明確な境界があり、力学的性質も非常に異なるので、両者を区別して取り扱うことが適当であった。しかし、木星の場合には「大気」と「内部」は連続しており、地球の手法をそのまま用いることが出来ない。それでも、過去に行われた木星自由振動の理論をレビューした結果では、常時自由振動は積雲によって比較的高い効率で励起されるように思える。ただし、木星の場合には、観測によって常時励起を検出できるかどうかが大きな問題である。しかし、もし観測出来れぱ惑星内部構造を制約する有力な情報を提供できるので、今後とも検討していく予定である。
著者
黒川 信 桑沢 清明 矢沢 徹
出版者
東京都立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

甲殻類では、脳内物質のリアルタイム分析はおろか、血液中の物質変動の解析すら試みられていない。無拘束甲殻類でマイクロダイアリシス法により血液中のセロトニン、ドーパミンなどの生体アミン、グルタミン酸、GABAなどのアミノ酸の高感度HPLC分析を行った。アメリカザリガニとアメリカンロブスターを用い、氷麻酔下の個体および外的刺激による闘争ないし威嚇行動発現中の個体の各種神経ホルモン、伝達物質の血中濃度を分析し、行動との関係を解析した。アメリカザリガニでセロトニンが、アメリカンロブスターでドーパミンが、威嚇ないし闘争行動にともなって血中濃度が増大することが明らかになった。アメリカザリガニでは、セロトニンが氷麻酔時5.3±1.0、興奮時17.3±3.0、その代謝産物5-HIAAが氷麻酔時71.1±14.5、興奮時29.8±14.1であった(単位pg/10ul)。一方モノアミン、アミノ酸の血中濃度は麻酔時と興奮時で有意差が認められなかった。アメリカンロブスターでは、全個体で興奮時のドーパミン血中濃度が麻酔時のドーパミンより有意に増加した。セロトニンおよび5-HIAAは測定限界を下回った。従来の研究では、動物の行動、心理状態を考慮するどころか、in vivoでの神経伝達物質の血中濃度そのものが十分調べられていなかった。本研究では多くの神経ホルモン伝達物質について平均的な体内濃度を明らかにできたばかりでなく、行動にともなう物質変動を捉えることができた。アメリカザリガニではセロトニンレベルの上昇がセロトニン代謝産物の5-HIAAレベルの下降をともなった。一方アメリカンロブスターではドーパミンレベルの上昇が、ドーパミン代謝産物HVAの上昇をともなわなかった。今後これらの物質の放出器官や代謝経路の検討を含めて、薬理学的、組織化学的手法も取り入れて研究を進める。
著者
山田 源
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

我々は本研究によって、哺乳類の外性器形成の特徴である陰茎および陰核形成メカニズムに迫った。哺乳類は脊権動物の中でも、良く発達した外性器を有している。高等哺乳類の外性器形成過程は、これまで分子発生学的に全く解明されておらず、そもそも如何なるメカニズムで胎生期に外性器原基(一種の突起構造)が伸長するのか、如何にそれが分化して外性器となるか殆ど理解されていない。陰茎および陰核はアダルトにおいてはその形態は大きく異なるものの、胎生期形態は後期に至るまで両性で類似した形を有している。ここでは体幹部から伸長、分化するメカニズムが雌雄で類似しており、さらに胎生末期から生後に到るホルモン影響下の分化の違いが出るという興味ある現象がある。我々は胎生期における陰核および陰茎形成プログラムとして間葉性のFGF遺伝子、および尿道上皮に発現するShh(ソニックヘッジホッグ)遺伝子が近接した状態で(尿道上皮のShhが中央に、両側にFGF10遺伝子が)発現し、それら相互作用が陰茎、陰核形成にとって、最も重要な尿道板/尿道形成に作用していることを世界で初めて見い出した。さらにこうしたShhおよびFGF遺伝子群が陰核、陰茎形態が顕著な哺乳類ばかりでなく、烏類胚(ヒダ状のものから突出した交接器を有するものまである)においてもこれら遺伝子発現が興味ある相関を示している事を見い出した。このようなメカニズムが今後さらに胎生後期から新生児期にホルモンの制御を受けるかに関して、これら細胞増殖因子群の遺伝子発現変化、及び形態変化を今後解析していく予定である。
著者
白木 公康 黒川 昌彦
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

単純ヘルペスウイルス(HSV)は、皮膚・粘膜などのでの急性感染に引き続き脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏感染する。しかし、潜伏感染機構とは対照的に、HSV感染による潜伏感染している感覚細胞機能に関しては知られていない。HSVは、初感染後に感覚神経節神経細胞に潜伏感染し、再活性化により病変を生じる。しかし、このような感覚神経細胞への急性・潜伏HSV感染に伴う感覚異常に関しては知られていない。そこで、この研究の第一歩として、HSV感染に伴う感染部位の痛覚閾値が上昇することを報告した(Neur osci Lett 190:101-104,1995)。そして、この痛覚閾値の上昇と感覚神経節の神経細胞のHSV感染との関係や痛覚閾値の薬剤に関する反応性を検討し、HSV感染に伴う後根神経節の感覚神経細胞の機能に関する評価を行った(Neur osci Res 31:235-240,1998)。そして、本研究ではマウスのHSV皮膚感染モデルを用いて,HSV感染に伴い,感染部位の神経支配領域で,allodyniaとhyper algesiaが認められることを証明した(Pain in press)。このような変化は,後根感覚神経節でHSVゲノムの検出と一致していることから,HSV感染に伴う感覚神経機能の修飾によるものと考えられた。この実験系の開発により,帯状庖疹後に認められる帯状庖疹後神経痛のモデルとして薬効の評価系となりうることが示された。HSVの神経細胞での潜伏感染時にゲノムから特異的に転写されるLatency Associated Transcripts(LAT)のプロモーターを利用して、その下流にβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子を組込み(Neur osci Lett 245:69-72.1998)、このウイルスの末梢および中枢神経系への急性期と潜伏感染時に、組織破壊を認めずに、神経細胞特異的に、β-galを発現する事を示した。そして,このウイルスをラットの右腓腹筋に接種すると5-7日後に両側の脊髄前角神経細胞にβ-galの発現を認め始め,14日頃まで発現領域が拡大し,それ以降182日以上前角神経細胞中でβ-galの発現が持続し,潜伏感染の持続とともに、発現が増強することを確認した。そして,炎症や,神経細胞の破壊を認めず,導入遺伝子を長期にわたり発現できることを確認した。このことは,前角細胞の変性による筋萎縮性脊髄硬化症の疾患モデル及びその治療モデル動物の作成がこのウイルスベクターによって可能であることを示した(Gene Ther apy in press)。
著者
青木 由直 棚橋 真
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は遺跡の音響特性を調べることにより、その遺跡が音響的にどのような目的で造られたかを推定する新しい音響考古学の学問分野を開拓する基礎技術として、音場の可視化を行なう技術の開発を目的として行なった。遺跡として残されている岩板が声の反射板であると予想されるので、この反射板からの音の反射を計算し、可視化する方法として、記録した音場データを最大エントロピー(MEM)法により再回折を行なって岩板による音の反射点を計算する方法を開発し、計算機シミュレーションでその妥当性を確かめた。この方法は、音の進行方向に垂直な断面での音場分布を可視化する方法で、これに対して音の伝播の状況の可視化の目的で、音の伝播を音線を用いて追跡し、これを可視化する方法を開発した。この方法では、記録した音場のデータを基に、音場の強度の微分により得られる局所的な空間周波数成分に音線の傾きを対応させて、音線の伝播をCGにおける2次元の光線追跡法と同様にして求め、音の収束していく様子を可視化する方法である。この音線追跡法はMATLABおよびC言語により開発を行ない、3次元空間での音線追跡法にも対応できるようにした。音線の可視化のためのGUI(Graphical User's Interface)の機能を強化してシステムの利用が容易になるよう改良を加えた。開発した音線追跡法によるシミュレーション結果をインターネットで公開する目的で、音線可視化システムをJava言語で記述し、実際にインターネットでの公開実験を行ない、将来的に音響考古学に関するインターネットを利用した仮想実験室の構築に基礎データを得た。計算機シミュレーションを実験と対応させるため、スピーカで造り出される音場の記録データを処理して、これからの音線追跡を行ない、簡単な音源であれば本研究で即発した音線追跡の可視化が行なえることを明らかにした。
著者
稲葉 千晴 清原 瑞彦
出版者
名城大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究では、第二次世界大戦中の日本・北欧協力によってすすめられた対ソ情報収集作戦「ステッラ・ポラーリス(北極星)作戦」についての解明を試みた。しかし、語学の壁もあり、国際的な研究チームを組まないかぎり、研究に着手できない。そこでフィンランド現代史研究のヘルシンキ大学人文学部Antti Kujala助教授の協力を仰ぎ、スウェーデン側の資料については、研究協力者の清原瑞彦北海道東海大学教授に調査を依頼した。そして、両国の既存研究を再検討し、どんな新資料が公開されたか分析した。一方で、日本側既存資料と、外交史料館・防衛研究所図書館の史料を突き合わせて、日本側の新資料発掘に努めた。もちろん、アメリカの資料も取り寄せた。新資料の収集に基づいて、日本・北欧側双方別個に、本作戦の実態に迫った。さらには、第二次大戦の表面に現れない、ソ連情報をめぐる北欧での日米の奇妙な協力関係を解明し、これまでの第二次大戦外交史の枠組みに一石を投じることができた。
著者
川道 武男
出版者
大阪市立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

浅間山中腹の標高1500mのミズナラ林で、240個設置した巣箱に入ったヤマネとヒメネズミにマイクロチップ(以下にチップと略す)を装着し、チップが野外研究にどの程度活用できるかを探った。獲得されたヤマネ75個体、ヒメネズミ25個体の捕獲全個体にチップを装着した。チップはチュープに入れて首輪状に装着するか、首背部に埋め込んだ。どちらの装着方法でも、チップのID番号は、巣箱の外側から容易に読みとれた。従って、巣箱を開けるなどの人為的な影響を与えずに、巣箱利用についてのデータが手に入った。2-3個体が巣箱内で同居している場合でも読み取り機を巣箱の各側壁にそって探査をすると、同居中の複数個体のID番号が読みとれた。首輪状に装着したチップは、チュープを噛んだり、首輪がはずれるなどが生じたので、調査期間後半は直接体内に埋め込んだが,埋め込みによる影響はほとんど認められなかった。この調査により、個体ごとの巣箱を結んだ行動圏が得られ、多くの個体の行動圏が重複していることがわかった。ヤマネでは、同時に同じ巣箱に血縁関係や非血縁関係の2-3個体が同居することも起こった。さらに、繁殖期のオスのヤマネは、ほぼ毎日泊まり場を変え、1つの巣に滞在する平均日数は1.17日であった。このような「風来坊」のような不安定な巣箱利用は、ヤマネがdaily torporするために、巣材という保湿材が不要であるからと推定された。これらの結果から、当初の目的どうりにチップが野外研究に有効であることが実証された。この研究はさらに2年間継続の予定である。研究成果は1997年10月の日本哺乳類学会で「ヤマネの自然巣・巣箱の利用パターンと奇妙な社会関係」、「マイクロチップを利用した小哺乳類の野外調査法」の2題を発表した。