著者
馬場 靖憲 渋谷 真人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.33-47, 2000-10-25
参考文献数
14
被引用文献数
5

われわれは日本のTVゲームソフト産業のダイナミズムは産業クラスターの視点からの分析によって可能になると考え, 先行論文で東京ゲームソフト・クラスターを提案した。本論文ではなぜクラスターが併存することになったのかについて実証分析を行なった。産業クラスターの形成要因としては関連教育機関による開発支援環境の有無, マーケティング情報を入手するためのゲームソフト量販店に対する近接度, 加えて, 放送局, 出版社など知的社会インフラによって構成される開発環境の重要性に着目している。興味深いのは, ゲームソフト企業の母体企業がデジタルコンテンツに適した開発環境に立地する場合であり, 多角化企業とベンチャー企業は同一地域に密集して立地する。ここでは, 開発に関係する情報がリアルタイムで密度高く交換され, 高度化した情報環境は開発者のコミュニティの質を向上させる。良好な開発環境においてクラスターの中核が形成されると, 活性化された情報環境はさまざまな企業のクラスターへの集中化を測深しその形成を加速する。本論文では, このような現象が現在, 山手線クラスターにおいて進行中であることを示した。さらに述べれば, 近年, 同南部クラスターの勢いが強くなりつつあるのが現状である。
著者
馬場 靖憲 渋谷 真人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.266-278, 2000-07-31
被引用文献数
3

TVゲームは90年代における日本の代表的イノベーションであり, ハードウェアに加えソフトを大量に輸出するなど, コンテンツ開発においても国際的に健闘している。なぜ, 日本のゲームソフト企業が競争力を持つことになったのであろうか。本研究は予備的な聞き取り調査をもとに, 300社にのぼる企業を対象にデータベースを作成し, 同産業の競争力分析を行なった。そこで浮かび上がったのはゲームソフト開発を促進する既存企業の多角化とベンチャー企業の参入による「東京ゲームソフトクラスター」の存在である。まず, ゲームソフト企業を生み出す既存産業の立地に依存してクラスターの形成は始まり, ビジネスソフト開発からの参入, また, 各種コンテンツビジネスからの参入によって異なった空間的クラスターが形成されている。一方, 開発者が起業しゲームソフト市場に参入しようとする場合, ベンチャー企業はその発展段階にあわせて適当なクラスターを選択している。デジタルコンテンツ産業におけるクラスターの誕生はソフト化/知識化を目指す日本の産業社会に対して多くの含意を与えることになる。