著者
小林 信一
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.247-260, 1992-10-15
被引用文献数
7

本論文は、若者の科学技術離れの問題の文化的、社会的背景を明らかにしようとするものである。オルテガは「科学技術文明が高度に発達すると、かえって科学技術を志向する若者が減る事態が発生する」と議論した。これが今日の我が国でも成立するか、成立するとすればそれはどのようなメカニズムによるのかを実証的に検討することが本論文の目的である。このために、まずオルテガの議論を、科学技術と文化・社会の連関モデルとして実証可能な形に定式化した。これを実証するために、世論調査や高校生を対象とする意識調査のデータをログリニア・モデルなどの統計的な連関分析手法で注意深く分析した。その結果、オルテガの仮説は今日の我が国でも概ね成立することが明らかになった。また、短期的な実証分析の結果を外挿的なシュミレーションによって超長期に展開する工夫を施し、その結果がオルテガの文明論的な議論と整合的であることを確認した。分析結果は、オルテガの指摘した逆説的事態は必然的に発生するものであることを示している。
著者
藤垣 裕子
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-83, 1996-09-01
被引用文献数
4

科学・技術と社会との接点において、各専門分野の個別知識に留まらず、複数の専門分野の個別の知識を統合して、実践的課題を解決する学際研究がのぞまれている。このような学際的研究の場面において、専門分野が異なると、相互の意志疎通が困難となり、学際研究遂行がうまくいかないことがよく見受けられる。これは、学問間の異文化摩擦であると考えられる。本稿では、このような摩擦の生じる理由として、並立共存する多くの専門分野における科学知識産出プロセスに注目し、その産出の際問題となる基準(その分野においてオリジナルな知識として承認される暗黙の前提)や妥当性要求の方向が、各分野の共同体ごとに異なっている点を挙げる。この視点のもとに、学際研究遂行時の障害の理由を分析し、知識の統合の方策についてのべる。まず学際研究をその出力の無いようにしたがって3つのタイプに分類した。次に、科学研究を妥当性要求の方向に従って分類する軸を示し、それを用いて学際研究遂行時の分野別コミュニケーション障害をのりこえ知識を統合する方策について考察する。そのさい、科学研究の妥当性の方向(分類軸)ごとにどのように知識が組み合わさるかを示し、そしてその組み合わせによる学問の発展の可能性についてのべる。
著者
加藤 明
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.187-191, 2010-03-01
参考文献数
7

日伊眼鏡産地に大きな影響を与えた3つのイノベーションである,福井・鯖江産地の「チタン製眼鏡枠」,イタリア・ベッルーノ産地における世界的な規模での「流通支配」,及び眼鏡の「ファッション・アイテム化」について論じ,それが産地の盛衰にどのような影響を与えたのかを分析する。特に,眼鏡製品のファッション・アイテム化については,これをファッション化イノベーションと呼ぶことにし,日伊眼鏡産地,産業に対してどのような意義を持つものだったのかを分析する。現在,日本企業はプロセス・イノベーションからプロダクト・イノベーションへの移行を迫られているが,目に見える,ハードな品質,機能を追求するだけのイノベーションでは限界がある。そういう意味においてイタリア・ベッルーノ産地,企業によるファッション化イノベーションは,競争優位を得ることについてのクラシカルで,シンプルなベスト・プラクティス事例であるといえる。
著者
馬場 靖憲 渋谷 真人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.33-47, 2000-10-25
参考文献数
14
被引用文献数
5

われわれは日本のTVゲームソフト産業のダイナミズムは産業クラスターの視点からの分析によって可能になると考え, 先行論文で東京ゲームソフト・クラスターを提案した。本論文ではなぜクラスターが併存することになったのかについて実証分析を行なった。産業クラスターの形成要因としては関連教育機関による開発支援環境の有無, マーケティング情報を入手するためのゲームソフト量販店に対する近接度, 加えて, 放送局, 出版社など知的社会インフラによって構成される開発環境の重要性に着目している。興味深いのは, ゲームソフト企業の母体企業がデジタルコンテンツに適した開発環境に立地する場合であり, 多角化企業とベンチャー企業は同一地域に密集して立地する。ここでは, 開発に関係する情報がリアルタイムで密度高く交換され, 高度化した情報環境は開発者のコミュニティの質を向上させる。良好な開発環境においてクラスターの中核が形成されると, 活性化された情報環境はさまざまな企業のクラスターへの集中化を測深しその形成を加速する。本論文では, このような現象が現在, 山手線クラスターにおいて進行中であることを示した。さらに述べれば, 近年, 同南部クラスターの勢いが強くなりつつあるのが現状である。
著者
鯉沼 葉子
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.369-382, 2010-12-17

日本では,理工系分野の女性研究者が少ないことに注目が集まり,大学進学の際に理工系を選択する女子が少ない原因の究明や,増やすための政策的取り組みなどが始まっている。しかし,では理工系を選択した女性が大学でどのような環境に置かれているか,研究者の道に進む意欲を高めるような環境にあるか,といった検討はまだあまりなされていない。工学系に焦点を絞った検討となると,さらに少ない。A工業大学は,女性研究者登用推進を目指す第一歩として,女子の学部生・院生と過去10年間の卒業生・修了生を対象に意識調査を実施し,結果を公表した。そこで,この公表された結果を分析して,同校の女子学生の多くはなぜ大学院前期・後期へ進学しないのか,その原因を明らかにし,同校における女子学生を取り巻く環境が彼らのその後の進路選択にどのような影響を与えているかを考察した。その結果,A工業大学の女子学生,とりわけ学部学生では,女性は進学すると就職が難しくなるとの風説の影響を受け,将来像を描くための十分な材料も時間もないまま就職へと流れていく者が多いこと,博士前期の女性では,研究室とそこで行われている研究活動に魅力を感じず大学を出ていく者が少なくないことなどが明らかになった。この調査に見る限り,同校における女子学生を取り巻く環境は,女性工学修士・博士の誕生を奨励する方向にあるとは言いがたい。
著者
馬場 靖憲 渋谷 真人
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.266-278, 2000-07-31
被引用文献数
3

TVゲームは90年代における日本の代表的イノベーションであり, ハードウェアに加えソフトを大量に輸出するなど, コンテンツ開発においても国際的に健闘している。なぜ, 日本のゲームソフト企業が競争力を持つことになったのであろうか。本研究は予備的な聞き取り調査をもとに, 300社にのぼる企業を対象にデータベースを作成し, 同産業の競争力分析を行なった。そこで浮かび上がったのはゲームソフト開発を促進する既存企業の多角化とベンチャー企業の参入による「東京ゲームソフトクラスター」の存在である。まず, ゲームソフト企業を生み出す既存産業の立地に依存してクラスターの形成は始まり, ビジネスソフト開発からの参入, また, 各種コンテンツビジネスからの参入によって異なった空間的クラスターが形成されている。一方, 開発者が起業しゲームソフト市場に参入しようとする場合, ベンチャー企業はその発展段階にあわせて適当なクラスターを選択している。デジタルコンテンツ産業におけるクラスターの誕生はソフト化/知識化を目指す日本の産業社会に対して多くの含意を与えることになる。
著者
伏見 康治
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.244-245, 1997-05-09
著者
菅澤 喜男
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.28-35, 2008-06-12

This paper provides an introductory description of the concept of technology intelligence, a concept rather new to many readers, along with its applications to focusing of technological development and identification of new business areas. Since the establishment of the Society of Competitive Intelligence Professionals (SCIP) in the U.S. in 1986, many research works, including applications in actual enterprises, have been published. Japanese studies on technological strategy seem, in contrast, to fail to fully appreciate intelligence activity in enterprises. While being accepted as one of the most important areas of technology management, technology intelligence is understood somewhat differently in the U.S. and Europe: the Americans focus on the logic and methodologies for winning in competition; the Europeans emphasize creative actions for the development of new technologies and products. The author reviews studies in the area in the U.S. and Europe, expecting that this information serves as a starting point for technology intelligence studies in Japan.
著者
田中 秀穂 青野 友親
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.255-266, 2009-02-23
被引用文献数
1

近年,大学の特許出願が増加しその管理費用が増加する一方,実施許諾収入の伸びは緩やかで両者はバランスしていない。大学の研究成果の活用促進には,特許の権利範囲を広く確保し企業が実施許諾を受けるのに十分な排他性を持たせることが必須であるが,大学が出願した特許の排他性を定量的に検討した報告例はない。本研究では,国立大学法人と医薬品企業から出願された医薬関連特許の排他性を出願のタイプ別,および明細書の記載事項の観点から分析し,両者に差があるかを検証した。その結果,大学から出願された特許は排他性の強い物質特許の比率が企業に比べて低いこと,各出願の明細書に記載された実施例においても,大学からの出願では権利範囲を確保するための記載が企業の出願に比べて十分ではないこと等が示され,企業が実施許諾を受けるだけの価値を見出しにくいことが示唆された。大学は発明者,知的財産担当者の協力のもとに,特許出願において排他性を強める努力を行う必要がある。
著者
五十嵐 伸吾
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.120-128, 2008-09-26
被引用文献数
1

The resource-based view (RBV) has recently been attracting attention as a framework for entrepreneurship study. The present work presents an RBV analysis of the growth process of ACCESS Co., Ltd. as an example of Japanese high-tech start-ups. The company had limited resources at the time of foundation, and had been threatened by the mortarity risk until a certain level of resource accumulation was achieved. ACCESS has, however, successfully overcome such a risk by pursuing more than one stable business lines in parallel, and building up technical expertise, while managing R & D activities so as to avoid the threats of Microsoft. The competitive edge and growth of the company result from the management capability to make right decisions, and from the identification, accumulation and enhancement of its core competence.
著者
木村 壽男
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.52-61, 2012-09-20
参考文献数
8

真の技術経営を実践するためには効果的な技術戦略が不可欠となる。そしてその技術戦略の策定のためには,必要な技術を棚卸しして評価することがその第一歩となる。しかしながら,この技術の棚卸し・評価は「見える範囲,わかる範囲,できる範囲」という言葉に象徴されるように,意識は内部志向で行動は部分的アプローチにという不完全なものであった。そのため,本報では未来志向の技術戦略の策定に向けた,あるべき技術の棚卸し・評価の基本的な考え方と推進プロセスの概要について提言する。論者が考えるその要点は,1)未来に立った有望技術の棚卸し(抽出),2)特許分析を通じた定量的な技術評価の加味,3)未来コア技術等の戦略技術の仮説づくり,の3つである。
著者
鳥井 弘之
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.48-54, 1986

新製品開発12事例が紹介されている.採り上げられた事例は,日本経済新聞,日経産業新聞に過去1年間に掲載された新製品のうち,技術的な先進性や技術集約度の高いと思われるもの約600件の中から選ばれ,その後詳細なヒアリング調査がおこなわれた60件余りのうちの特に興味深いものである.新製品開発プロセスを総括すると,(1)開発課題の発見,(2)開発目標の設定,(3)開発作業,(4)製品の評価の4つのステップに分けることができる.日本企業の技術陣の目標接近能力は極めて高い.今後は課題発見と目標設定能力が求められている.プレークスルー・ポイントが(1)(2)である場合に,新鮮な新製品開発に結びつくケースが目立つ.
著者
矢澤 信雄 平澤 〓
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.214-226, 2003-08-06

本研究の目的は,LC(life cycle)全コスト指標を新たに定義し,それを客観的判断指標とした政策形成のあり方について検討をおこなうことにある。事例として各種発電技術をとりあげ,LC全コスト指標の推計をおこなった。推計結果から政策形成のあり方にかかわる次の示唆が得られた。太陽光発電と風力発電のLC全コストは,他の発電技術のLC全コストより極めて大きい。また,太陽光発電および風力発電のLC全コストは,その約8割以上が政策コストによって占められている。発電設備の普及ないし,公的支出による研究開発投資の削減をめぐる政策のあり方の検討が重要である。また,火力のレベルにまでこれらを下げるには,さらに建設費の低減ないし発電効率の一層の向上も必要である。原子力と水力は最も低コストの発電技術であり,火力の約半分程度以下である。原子力発電のLC全コストにおいては,廃棄コストが約1割と,他の発電技術に比べて廃棄コストが大きな割合を占めている。これを,安全性を低下させずに削減することが,これからの研究開発政策課題として重要である。火力発電のLC全コストにおいては,環境コスト,特に二酸化炭素処理コストが占める部分が5割以上を占めている。これを低減させることが,今後の研究開発課題として重要である。
著者
村上 路一
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.171-176, 1989-09-10

シナリオ・ライティング手法は、描写性とストーリー性が優れているため、他の技術予測手法に比べ、相手が興味を持ち、しかも理解し易いという特長がある。 このため、たんに技術予測のためだけに使用するのではなく、システム製品の販売や社内制度変更のためのツールとしても役立つことが明確になってきた。 本報告では、これらについて実例を挙げながらシナリオ・ライティング手法の書き方と企業における応用について述べる。
著者
渡辺 千仭 藤 祐司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.184-202, 2003-09-19
被引用文献数
1

日本の技術と経済の好循環は,企業の旺盛な研究開発投資に支えられた技術革新によるものである。そして「日本的経営システム」には,若年労働者の賃金をその生産性以下におさえ,その差額を自らの将来の投資に向ける「見えざる出資]が存在しており,これが研究開発投資をはじめとする,長期の不確実性を有する投資の誘発に少なからぬ役割を果たした。この「見えざる出資」は自社内従業員から間接的に負担を求める点で社員持ち株制度(ストックオプション)と類似しているが,株式発行による資金調達と異なり,経営主体独自の判断で運用することができる日本固有の精妙なシステムである。しかし,1990年代のバブル経済の崩壊と軌を一にした低・マイナス成長や高齢化等のパラダイム変化とともに,「見えざる出資」の機能が低下するに至っている。昨今の研究開発投資離れは,これと無縁ではない。本研究においては,1980年までの日本経済のパフォーマンスと1990年代以降のそれとの好対照に視点を据えて,製造業主要業種の「見えざる出資」及び資本コストに占める研究開発投資の位置付け等の計測をベースに,以上の仮説的見解の実証を試みる。その結果,「見えざる出資」が,『若年期の賃金抑制→企業の内部留保蓄積→設備投資増加→企業成長→中高年の高賃金支払い』といったメカニズムを通じて企業成長力の原動力となっていることを示した。しかし,近年の高齢化・少子化・低,ゼロ成長等のパラダイム変化に伴い,企業側にとって上記メカニズムの持つメリットが失われてきていることもまた明らかであり,これからの技術形成に対する姿勢は,研究開発投資額の増大よりも,より効率的な投資を可能とするシステムの構築が重要となることを示した。
著者
江崎 通彦
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.161-182, 1991-10-25
被引用文献数
2

This paper introduces the DTCN method; an new method for creative R&D that attempts to achieve the following three aims: (1) to create a new sense with regard to certain values; (2) to develop a useful method to deal with both R&D and the commercialization of its results; (3) to develop a method by which creative thinking finds concrete expressions. In the DTCN method, the origin and the norms for thinking and action are located in the customer. These thinking and action are systematized through DTCN. This method is thus a tool to stimulate and systematize the creativity of an organization and its members so that it may be rendered operational.
著者
小林 慎一 粂野 文洋 白井 康之 犬島 浩
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.192-206, 2010-03-01

ソフトウェア分野の研究開発力を強化するための一つの方策として,研究開発対象にする重点テーマを策定する方法論を提案する。この方法論では,ソフトウェア技術に関する複数のトレンドがそれぞれ独立に進展することによって対立概念が顕在化し,その解消のために新たな技術の創出が求められると考える。将来の対立点がどこに発生するかを推測することが重点分野の検討につながる。従来課題とされていた対立点の推測はソフトウェア工学の知見を活用したFURPS+モデルによるトレンドの対立度計算手法による。本方法論を用いて公的な研究費配分機関における重点的な研究開発テーマの検討を行い,25の重点分野を策定した。これらの重点分野の妥当性を評価するために,デルファイ法にもとづいて実施された文部科学省技術予測調査で得られた主要課題との比較分析を行った。本方法論で得た重点分野は文科省調査の主要課題の89%(8テーマ/9テーマ)をカバーしており,高い精度で両者が一致している。本方法論の重点分野の36%(9テーマ/25テーマ)は文科省調査の主要課題には存在しないテーマである。この部分は文科省調査に対する本方法論の独自性を示している。本方法論によって重点分野の検討プロセスに体系的な手順と一定の網羅性が得られ,複数人での検討作業が過度に発散せず,系統的で見通しの良いものになることを示した。
著者
岡本 信司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.367-382, 2009-05-25
被引用文献数
1

地域におけるイノベーション・システムの構築は我が国の重要政策課題であり,文部科学省の知的クラスター創成事業や経済産業省の産業クラスター計画等の地域クラスター政策をはじめ地方公共団体においても数多くの取り組みがなされている。これら地域クラスター政策の課題として,科学技術基本計画における重点4分野等への偏りが見られており,中央集権的志向,行政主導で地域特有の既存産業や中小企業家等のイニシアティブを促す「内発的発展」の姿勢はないとの指摘がある。一方,我が国には長い歴史と各地域の特性に立脚した伝統工芸産業があるが,需要の低下,新規市場開拓の問題,後継者難等の多くの課題を抱えている。これら伝統工芸に関する技術の中には先端科学技術に応用発展した事例があり,将来の地域イノベーション・システム構築に向けては,各地域の特性を生かした地場産業の一つである伝統工芸産業を基盤とした新たな展開が考えられる。本稿では,伝統工芸から先端技術への創出に向けた産学官連携活動を行っている京都地域と石川地域における活動の事例を分析して,地域における伝統工芸産業などを基盤とする科学技術を活用した「地域伝産学官連携」(地域における伝統工芸産業と大学,国及び地方公共団体,産業界との有機的な連携)の概念を導入した新たなイノベーション創出による地域活性化に関する提言を行う。
著者
板谷 和彦 丹羽 清
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.85-97, 2012-09-20

本論文では,発見を支援するマネジメントに関する新たな視点を導くことを目的として,発見のプロセスの理解に基づく現場主導型マネジメントを提示する。さらに,大手技術系企業の研究所において,4チームに対し,2ヵ月半にわたり非適用群を設定した実証実験として適用を行い,研究者の研究行動に与える効果を定性的方法により分析した。研究行動の事例は,適用群,非適用群によらず,「仮目標の設定」,「試行の場の設定」,「試行錯誤」の3つにカテゴリー化された。一方,適用群の事例では,発見志向の研究行動に多く適合する傾向にあり,相互に関係性を示す複数の発見志向の研究行動に適合する事例も見られた。現場主導型マネジメントの適用の効果は,高い自律性を有する施策によって,発見への探索の方法や経路の選択に関する制約や失敗に対する躊躇を抑制するとともに,偶然の結果に対する気付きや洞察,飛躍に結びつく視点の変化を導くことにあるとの考察を示した。
著者
玄場 公規 児玉 文雄
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.179-189, 1999-11-25
被引用文献数
7

各産業の研究開発活動及び事業活動における多角化度を定量的に分析した。多角化度については、エントロピー値という指標により測定した。1980年代においては、多くの産業で研究開発活動の多角化が進展しており、事業活動の多角化についても、研究開発活動に追随するように進展している。次に、研究開発活動及び事業活動の多角化データと産業連関表の産出投入表のデータを用いて、多角化の方向性を川上多角化度及び川下多角化度といった指標により定量化した。そして、研究開発の多角化の方向性を各産業の技術機会と捉え、産業カテゴリー毎に技術機会の方向性を整理した。分析の結果、ハイテク産業及び規模依存型産業は、川下方向への技術機会があり、科学技術と関連のある繊維・医薬・紙パ産業では川上方向への技術機会があると考えられる。さらに、本研究では、収益性向上に資する多角化戦略を検討するため、事例分析を行い、付加価値の高い川下方向への技術の展開を図る多角化戦略が収益性向上に寄与するという仮説を導き出した。最後に、この仮説を示唆する実証結果を多変量解析により得た。