著者
岩下 佳弘 渡 孝輔 前田 曙 杉本 和樹 山田 しょうこ 飯山 準一
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2345, (Released:2021-10-14)
参考文献数
40

温熱治療によって増加する熱ショックタンパク質(heat shock protein, Hsp)は,アポトーシスを阻害し,尿細管の生存能力を維持し,腎保護に作用する.その一方で,近年,嚢胞性腎疾患においてHspが治療ターゲットとなり得ることが示された.そこで,我々は,多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease, ADPKD)モデル動物を用いて,サウナ介入を反復させたときのADPKDへの影響について調査した.我々は,DBA/2FG-pcy(pcy)マウスを用い,サウナ介入を実施し,脱水予防のために4%スクロース水を摂水させた(TS)群,4%スクロース水のみを摂水させた(SW)群,および,サウナ介入を行わないコントロール群の3群(各n = 3)で実験を行った.熱負荷には遠赤外線サウナ装置を用い,マウス直腸温を約39°Cに上昇させ30分程度維持した.1週間に2回のサウナ介入を4週間実施した.  実験終了時のクレアチニンやBUN値に有意差は認められなかったが,TS群は他よりもわずかに高い値を示した.しかしながら,TS群とSW群の嚢胞の成長はcontrolに比して軽減しており,Hsp90の発現は有意な減少を示した(p < 0.01 or p < 0.001, vs. control).またTS群では,嚢胞形成や増殖に関与するErkの有意な減少が認められた(p < 0.05, vs. control).Hsp27の発現およびリン酸化はTS群で増加し,caspase-3の発現は減少傾向であったが,活性化に差は認められなかった.  4週間のサウナ介入は,一時的な脱水とそれに伴う腎機能低下のリスクや熱負荷に伴うHsp27の発現増加による嚢胞形成や増殖を刺激するリスクを示唆するものであった.その一方で,熱負荷直後に適切な水分多量摂取を実施すれば,脱水予防と同時に嚢胞成長の抑制が期待できると考えられた.