著者
渡辺 正巳 石賀 裕明
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-10, 2008

島根県西部益田平野において,ジオスライサーを用いて得た6400 yr BPころ以降に堆積した試料を対象に,花粉分析と,イオウ濃度分析,AMS 14C年代測定を行った。花粉分析結果を基に 局地花粉帯(MGS -I,II帯)と5花粉亜帯(MGS -IIa,IIb,IIc,IId,IIe亜帯)を設定し,AMS 14C年代測定結果から堆積速度を求め,各花粉帯と花粉亜帯の境界年代を推定した。花粉分析の結果,6400 yr BPころの益田平野周辺にスギ林が分布していたことが明らかになった。このことは,スギ林が益田平野から中国山地西部へ拡大したことを示唆する。6400~5300 yr BPには,アカガシ亜属花粉とイオウ濃度の増加傾向が一致した。これは海進を伴う気候の温暖化を示す。4660 ~3570 yr BPには「縄文中期の小海退」に対応する冷涼・湿潤な気候が認められた。1500 yr BP以降に認められるアカマツ林の拡大を,人間活動に伴う自然破壊によると考えた。同時に認められるスギ林の縮小は,人間活動に伴う現象と考えられるほか,「奈良・平安・鎌倉温暖期」に伴う現象である可能性を指摘した。花粉帯の境界年代を基に,益田平野と山陰地方中央部の古植生と古気候を比較した。