著者
吉川 純子
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.57-63, 2011-01
著者
樋泉 岳二
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.81-87, 1996 (Released:2021-06-16)

日本考古学は歴史学の一分野として発達してきた。このため,考古遺物としての動植物遺体は人工遺物より軽視される傾向にある。動物考古学者自身でさえも,標本の扱いは生物科学に比べてルーズであり,管理・公開への対応は著しく立ち後れている。現生標本は,同定根拠を示す証拠物であると同時に,正確な同定法を確立していくための比較骨学資料でもある。これらを恒久的に維持・活用していくためには,標本の登録・保管と記載法に関わる一貫した管理システムを構築することが必要だ。一方,近年の貝塚・低湿地遺跡発掘の増加・大規模化の結果,出土遺体は膨大な量に達しており,保管スペースの不足や整理・収蔵にかかる手間・経費といった問題が深刻化してきた。これらは「標本」に対する社会全体の認識とも関連する問題であり,社会的コンセンサスなくして抜本的な解決は望めない。遺体標本から描き出される人間と環境の交渉史について,社会一般にわかりやすくアピールし,標本の持つ重要性を広く理解してもらう努力が必要である。
著者
中山 誠二
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.33-42, 2015-02
著者
鈴木 三男 小林 和貴 吉川 純子 佐々木 由香 能城 修一
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.79-85, 2017 (Released:2021-03-17)

A cloth bag of the early modern Edo period (the latter half of the 18th century) was excavated from the road remains of the Minamimotomachi site, Shinjuku, Tokyo. This bag contained stems and leaves of plants. The material of the cloth bag was anatomically identified as fibers of the hemp (Cannabis sativa L.). From the plant morphological and anatomical studies, the contents of the bag were identified as stems and leaves of the tea plant (Camellia sinensis (L.) Kuntze). These results agree well with the description in the historical literature that, during the Edo period, commoners drank tea by boiling tea leaves in hemp bags in a pot.
著者
赤司 千恵 門脇 誠二 キリエフ ファルハド 西秋 良宏
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.59-70, 2020 (Released:2022-07-11)

ヨモギ属(Artemisia spp.)は民族誌において非常に重要なハーブであり,消化器系や呼吸器系の疾患,婦人病,感染症などに広く使われ,その薬効成分は成分分析でも確認されている。しかし,過去の社会にとってのヨモギ属の重要性を示す証拠は,これまで非常に限られていた。西アジアの出土植物データベースでも,ヨモギ属が人為的に採集されていたことを示す事例は1 例のみである。しかし例外的に南コーカサスでは,ヨモギ属の炭化種実が多数出土する遺跡が,狭い地域のなかに集中している。中石器(前7 千年紀)から新石器時代(前6 千年紀)にかけての3 遺跡で,その一つであるギョイテペ遺跡での検出状況は,ヨモギ属が防虫/抗菌剤として用いられたことを示した。ヨモギ属の殺虫・防虫効果は科学的にも証明されており,民族誌でも防虫剤として使われる。遺跡全体から高い頻度で出土することから,ヨモギ属は防虫剤としてだけでなく日常的にさまざまな用途に使われていたと思われる。ヨモギ属の多用は,先史時代のアゼルバイジャン西部の地域性を示す文化要素の一つと言える。
著者
小畑 弘己 宮浦 舞衣
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-14, 2021 (Released:2023-02-01)

本野原遺跡は,宮崎市の中心部から 50 km 西に位置する,約 4300 ~ 3500 年前の九州地方の縄文時代で最も大きな集落の一つである。我々は,36 回にわたるこの遺跡での 179,135 点の土器の「圧痕法」による調査によって,マメ類を含む 500 点以上の種実や家屋害虫の圧痕を発見した。この調査以前には植物性食料資源と推定されるものは本遺跡ではコナラ属の堅果類のみであった。X 線機器を用いた追加調査の結果,九州地方で最も多数のダイズやアズキなどのマメ類圧痕を得るとともに,九州初の多量マメ類混入土器を検出することができた。これらの発見は九州地方における最も初期のマメ類栽培と栽培植物の豊作に対する精神と儀礼的行為の出現の可能性を示す。さらに,土器胎土中の高密度のマメ類種子はそれらの粘土中への意図的混入を強く示唆している。
著者
柳原 麻子 松﨑 健太
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.71-76, 2020 (Released:2022-07-11)

The Kuwagaishimo site is a large-scale settlement site of the late Jomon period (ca. 2000 cal BC) in the Kansai region with many stone axes that were probably used for gathering or managing such plants as rhizomatous ones and beans. This site is considered as a transitional site where the plant management using stone axes of central Japan changed to that in western Japan during the middle to the late Jomon periods (2500 to 1500 cal BC). Study of seed or fruit impressions on potsherds from this site revealed an impression of a Vigna seed that was as large as modern domesticated azuki varieties on a potsherd of the late Jomon period.
著者
能城 修一 佐々木 由香 鈴木 三男 村上 由美子
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.29-40, 2012 (Released:2021-03-17)

近年,コナラ属アカガシ亜属のうちイチイガシの同定が木材組織から可能となり,それをもとに,関東地方で弥生時代中期から古墳時代の木製品を多数産出した7 遺跡を対象として,アカガシ亜属の木材を再検討した。その結果,この時期を通して鋤鍬にはイチイガシが選択的に利用されていた。海岸に近い神奈川県池子遺跡と,千葉県常代遺跡,国府関遺跡,五所四反田遺跡では,鋤鍬の完成品だけでなく,未成品や原材でもイチイガシとイチイガシの可能性の高い樹種が50 ~ 70%を占めており,遺跡周辺で原材の採取から加工までが行われていたと想定された。それに対し,内陸部の埼玉県小敷田遺跡と群馬県新保遺跡ではイチイガシの利用比率が下がり,イチイガシ以外のアカガシ亜属やコナラ属クヌギ節を鋤鍬に用いる傾向が認められた。もっとも内陸部の新保遺跡では,鋤鍬の完成品だけでなく未成品や原材でもイチイガシ以外のアカガシ亜属とクヌギ節がほとんどを占め,イチイガシの鋤鍬は完成品と未成品が少数しか出土せず,これらは関東地方南部から移入されたと想定された。鋤鍬以外の木製品では,神奈川県や千葉県の遺跡でもアカガシ亜属以外の樹種が70%以上を占め,アカガシ亜属の中でもイチイガシの比率は低い。このように,イチイガシが鋤鍬に限定して選択されていた理由は,イチイガシの木材がアカガシ亜属の他の樹種の木材に比べて柔軟性があり,軽いわりに強度があるためであると想定された。
著者
鈴木 三男 能城 修一 小林 和貴 工藤 雄一郎 鯵本 眞友美 網谷 克彦
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.67-71, 2012

Urushi is the lacquer produced by Toxicodendron vernici!uum. In Japan, Urushi products is known since ca. 9000 years ago from a remain at the Kakinoshima B site and became common since the early Jomon period. Archaeological woods of T. vernici!uum, however, had not been reported until ca. 10 years ago, when identi!cation of its woods from those of close allies was made possible. Since then, re-identi!caiton of excavated woods revealed that T. vernici!uum was commonly grown around settelments since the early Jomon period, but also indicated the existence of a sample of the incipient Jomon period from the Torihama Shell Midden site, Fukui Prefecture, which is too old to be considered as an introduction from the Asian continent to Japan. Here, we measured the radiocarbon age of this sample as 10,615 ± 30 14C BP (12,600 cal BP) in the incipient Jomon period, 3600 years before the oldest remain at the Kakinoshima B site. Most botanists consider that T. vernici!uum is not native and introduced to Japan by ancient people. Thus, the presence of T. vernici!uum wood in the incipient Jomon period seems to mean that Urushi was introduced from the Asian continent already in that period.
著者
小林 克也 北野 博司
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.13-21, 2013 (Released:2021-03-17)

山形県高畠町に所在する高安窯跡群では,7 世紀後半~ 8 世紀初頭に操業されていた須恵器窯跡が5 基と,9 世紀後半~ 10 世紀前半の炭窯跡が1 基確認され,出土燃料材と窯体構築材の樹種と復元直径,年輪数の分析を行なった。須恵器窯跡では,最も谷奥に位置し古相を示すC1 号窯跡では復元直径10 cm 以下のイヌシデ節やカエデ属などが多くみられ,群内で新相を示すB1・B2 号窯跡では,復元直径10 cm 以上のマツ属複維管束亜属が多くみられた。これは,一見すると窯業活動に起因するマツ属複維管束亜属の増大にみえたが,年輪数では,マツ属複維管束亜属は樹齢を重ねているものが多く,古くから生育していた樹木であった。よって高安窯跡群では,燃料材として復元直径10 cm 以内の広葉樹を伐採していたが,広葉樹がなくなると,丘陵尾根部などに生育する復元直径10 cm 以上のマツ属複維管束亜属を伐採利用していたと推測される。そのため最後に操業が行われたB2 号窯跡の操業終焉時には,燃料材に適した太さの樹木は無くなり,燃料材の枯渇が須恵器窯跡終焉の契機となった可能性がある。炭窯跡では,コナラ属コナラ節のみを窯跡周辺の自然植生から伐採利用していた。復元直径や年輪数の計測では,炭窯跡には利用木材に対して一種の規格のようなものがあった可能性があり,須恵器窯跡終焉から約200 年後には,周辺植生から良質の木材を選択できるほどに植生が回復し,炭窯跡の操業が行われていたと考えられる。
著者
中山 誠二
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.33-42, 2015 (Released:2021-03-17)

本稿では,レプリカ法によって確認された縄文時代のダイズ属種子圧痕を集成し,比較することによって,それらの大きさや形態の時間的変化を明らかにした。その結果,中部日本において縄文時代早期中葉(紀元前8 千年紀後半)から存在するダイズ属の種子が,縄文時代を通じて大型化し,特に紀元前4 千年紀後半の縄文時代中期以降,栽培型ダイズの種子が顕在化することが明らかとなった。この現象は,植物の栽培化に伴う一つの特徴である種子の大型化現象を示している。さらに,縄文時代のダイズ属種子は4 つの形態に分類され,野生種の利用から栽培化の過程で形態的な変化が生じ,複数の品種に分化した可能性を指摘した。
著者
山田 昌久
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.08, pp.3-12, 1991 (Released:2021-07-28)

Five stages of the wood industry in Japan excluding Hokkaido are summarized. 1. The discovery of what woods are available, 2. community resources between local groups, 3. the use of wood for fuel, construction and tools, 4. the introduction of coniferous wood for construction and tools, 5. the increase of wood consumption and the introduction of afforestation accompanied by economic growth. These are linked with Japanese history from the perspective of economic activities.
著者
鈴木 三男 小林 和貴
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.83-88, 2011 (Released:2021-06-16)

The material plant of a tinny basket excavated from the San’nai-maruyama site (early Jomon period) of Aomori, Aomori Prefecture, was identified as a stem of a monocotyledon in 1993. On the other hand, a further observation of the basket suggested that the studied material did not derive from the basket. Thus, a newly obtained material of the basket was reexamined anatomically and was shown to be the torn inner bark of a Cupressaceae tree. The original material formerly identified as a monocotyledonous stem was re-identified as a petiole of a fern akin to Arachniodes standishii (Dryopteridaceae). Furthermore, a rope excavated from the Sakuramachi site (middle Jomon period) of Oyabe, Toyama Prefecture, was also made of the same material. These results show that the original sample of the basket was a contamination from sedimentary deposits. This is the first report of a basket made of conifer bark and a rope made of fern petioles in the Jomon period of Japan.
著者
外山 秀一 中山 誠二
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.09, pp.13-22, 1992 (Released:2021-07-28)

In this paper we categorized the ages of macroscopic and microscopic rice remains, e. g., fruit, stems, pollen grains and plant opal; stone and wood artifacts used for rice cultivation; and paddy fields and other facilities related to production. Then the history of rice cultivation and the relationship of culture and rice, from the Latest Jomon to the Early Yayoi periods in Japan. Significantly plant opal analysis of pottery composition was found to be an effective method for dating the rice cultivation in prehistory.
著者
渡辺 正巳 石賀 裕明
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-10, 2008

島根県西部益田平野において,ジオスライサーを用いて得た6400 yr BPころ以降に堆積した試料を対象に,花粉分析と,イオウ濃度分析,AMS 14C年代測定を行った。花粉分析結果を基に 局地花粉帯(MGS -I,II帯)と5花粉亜帯(MGS -IIa,IIb,IIc,IId,IIe亜帯)を設定し,AMS 14C年代測定結果から堆積速度を求め,各花粉帯と花粉亜帯の境界年代を推定した。花粉分析の結果,6400 yr BPころの益田平野周辺にスギ林が分布していたことが明らかになった。このことは,スギ林が益田平野から中国山地西部へ拡大したことを示唆する。6400~5300 yr BPには,アカガシ亜属花粉とイオウ濃度の増加傾向が一致した。これは海進を伴う気候の温暖化を示す。4660 ~3570 yr BPには「縄文中期の小海退」に対応する冷涼・湿潤な気候が認められた。1500 yr BP以降に認められるアカマツ林の拡大を,人間活動に伴う自然破壊によると考えた。同時に認められるスギ林の縮小は,人間活動に伴う現象と考えられるほか,「奈良・平安・鎌倉温暖期」に伴う現象である可能性を指摘した。花粉帯の境界年代を基に,益田平野と山陰地方中央部の古植生と古気候を比較した。
著者
佐藤 征弥 阿部 梨沙 乃村 亜由美 姜 憲 瀬田 勝哉
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.3-19, 2012 (Released:2021-03-17)

明治時代末の天然記念物保護の機運の高まり受け,大正2 年(1913)に刊行された『大日本老樹名木誌』は,各地の著名な樹1500 本について,所在地,地上五尺の幹周囲,樹高,樹齢,伝説が記されており,日本の巨樹研究において極めて重要な資料である。また,その6 年後の大正8 年(1919)には朝鮮総督府から『朝鮮巨樹老樹名木誌』が刊行され,朝鮮半島の3168 本の樹について同様のデータが記されている。本研究は,この二つの資料を基に,記載されている樹種や樹の所有者(所在地),伝承を整理し比較した。樹種でいえば,掲載本数の多い順に『大日本老樹名木誌』ではマツ,スギ,クスノキ,ケヤキ,サクラ,イチョウと続き,『朝鮮巨樹老樹名木誌』ではケヤキ,エノキ・ムクエノキ,イチョウ,チョウセンアカマツ(アカマツのこと),ヤチダモ,エンジュと続く。樹の所有は日本では,神社や寺院に植えられている割合が高い。一方,朝鮮半島では公有地,地域共同体である「里」や「洞」が圧倒的に多い。これは,地域で樹を祭る習慣があるためである。樹にまつわる伝承をその内容に基づいて分類した結果,樹種による違いが明確に表れた。それぞれの樹種が有する形態的,生理的特徴に起因すると考えられるものも多い。また,日本と朝鮮半島を比較すると,共通点もみられるが,むしろ異なる部分が目立ち,歴史,宗教,文化の違いが反映されている。