著者
桑山 浩然 渡辺 正男 井上 洋一 渡辺 融
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.研究の目的:平安時代から江戸時代に至る蹴鞠技術の変遷を総合的に考察するため、(1)文献の研究および翻刻、(2)現在まで蹴鞠の技法を伝承している団体である蹴鞠保存会の会員を対象にした、技法の調査や練習法の聞き取り調査、(3)鞠の復元製作とこれを利用した実技再現、を行なう。2.研究成果の概要:(1)蹴鞠関係の文献は、宮内庁書陵部・国立公文書館内閣文庫・国立国会図書館など各所に所蔵されるが、ここでは天理大学付属天理図書館・滋賀県大津市平野神社の2箇所に所蔵されるものに重点を絞って調査した。天理図書館は、かつて蹴鞠保存会にあった文献200余点を一括収蔵する。その中から今年は27点の調査を行なった。平野神社は、江戸時代に飛鳥井家と並ぶ蹴鞠道家(家元)であった難波家の史料を一括収蔵する。江戸時代中期の難波家当主がまとめた『蹴鞠部類抄』など他所にはない文献も多く、写真によって逐次解読作業を進めている。以上の調査を踏まえて、鎌倉時代初期に成立したと考えられる『蹴鞠口伝集』と、鎌倉時代末頃にまとめられた『内外三時抄』の2点を翻刻した。(2)実技の調査は、蹴鞠保存会の練習日に合わせて2度京都まで出張したが、いずれも豪雨となり、実現しなかった。やむなく聞き取り調査のみを行なった。(3)鞠の復元は、各所に問い合わせてみたが研究費の範囲では実現不可能との返事で、断念せざるをえなかった。ただ蹴鞠保存会が行なった鞠の「突直し」(補修)は見学することができた。3.研究発表:スポ-ツ史・日本史・日本文学などの研究者に呼び掛け、東京および京都で研究会を行なった。特に京都では蹴鞠保存会会員の参加があり、鞠・装束・沓などを実見出来た。報告書は、研究報告(3編)・文献研究(2編)・文献の翻刻・参考文献・平野神社所蔵史料目録など、計388ペ-ジとなっている。