著者
渡邉 尭 野澤 恵
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

太陽活動周期の上昇期から極大期に及ぶ1997-1999年に発生したCMEに伴う惑星間空間衝撃波の伝播特性を調べた.主なデータ源は,人工衛星や電波シンチレーション観測によって得られた太陽風データと,「ようこう」やSOHOなどの太陽観測衛星によって得られたコロナ画像である.この研究によって明らかになったことは,CMEの発生・伝播において,コロナ・太陽風における磁気中性面の役割が本質的に重要である,という点である.CMEの形状と磁気中性面との関係については,磁気中性面が惑星間空間衝撃波の伝播に対して,磁気中性面の方向に低速度の部分が形成されたり,惑星間空間衝撃波の広がりを制限することが示されたが,その後の研究により,CMEの一見複雑に見える構造は,コロナ中のsource surface近辺の磁気中性面に沿って,CMEが形成されていることが明らかとなり,磁気中性面はCMEの発生源となると同時に,CMEや惑星間空間衝撃波の伝搬特性を規制する,という複雑な役割を持っていることが分かった.次いで,CMEや惑星間空間衝撃波による高エネルギー粒子加速についても研究を行った.地上レベルでもそのような高エネルギー粒子が観測されるケースでは,フレアが太陽の西半球において発生していることが多いが,これは太陽と地球を結ぶ磁力線が太陽面を出発する経度である,太陽子午線の西60度の近辺に,800km/secを越える高速のCMEや惑星間空間衝撃波が存在することを示唆している.そのため,例えフレアが東半球で発生しても,CMEや惑星間空間衝撃波が十分な拡がりを持っていれば高エネルギー粒子現象が起こりうる.本研究ではこの点についても,実際の観測例によって確認した.また,CMEを発生させる要因は,コロナ磁場に蓄えられた磁場のエネルギーであることは,以前より指摘されている.その蓄積がどのような形で行われているかを見るため,「ようこう」による軟X線コロナ画像により,プロミネンス爆発が数回発生した場所を数太陽回転にわたって追跡したところ,磁場構造の複雑化に伴って,ポテンシャル磁場を仮定して計算した磁場構造に対して,軟X線コロナ・ループがなす角度が次第に大きくなり,プロミネンス爆発(CME発生)のあと,磁場構造が単純化するとともに,この角度も減少し,エネルギー状態に変化が起きた例がいくつか見られた.