著者
繁森 英幸 渡邉 諒子 須藤 恵美 山添 紗有美 成澤 多恵子 堀之内 妙子 渡邉 秀典 長谷川 剛 山田 小須弥 長谷川 宏司
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP49, 2015 (Released:2018-10-01)

植物の具備する屈性現象については、これまで「オ-キシンが光側から影側に移動(光屈性)または上側から下側へ移動(重力屈性)することによって屈曲する」というCholodny-Went 説によって説明されてきた。しかしながら近年、「オ-キシンの横移動は全く起こらず、光側組織で成長抑制物質が生成され光側組織の成長が抑制される結果、光方向に屈曲する」という新しい光屈性の仮説 (Bruinsma-Hasegawa説)が提唱され、重力屈性についても同様に成長抑制物質が関与することが示唆された(図1)1-6)。そこで本研究では、Bruinsma-Hasegawa説に基づき、屈性現象に関わる生理活性物質を用いて、光刺激や重力刺激の感受から始まり、最終的に観察される屈曲といった一連の機序について、化学的ならびに生物学的手法を用いて分子レベルでの解明を行うことを目的とする。本討論会では、ダイコン下胚軸の光屈性制御物質の合成ならびに機能解明およびトウモロコシ幼葉鞘の重力屈性機構の解明について以下に報告する。図1.光屈性の仮説(左図、中央図)と重力屈性の仮説(右図)1.ダイコン下胚軸の光屈性制御物質の合成ダイコン下胚軸の光屈性制御物質として、MTBG、MTBIおよびRaphanusaninを見出した(図2)4)。MTBIおよびRaphanusaninはいずれも光屈性刺激によって光側組織で短時間に増量するが、影側や暗所下では変動しないことを明らかにした。また、光側において短時間で加水分解酵素の活性が高まることも見出した。そこで本研究では、これら光屈性制御物質の合成ならびにそれらを用いて機能解明を行った。図2.ダイコン下胚軸の青色光誘導性成長抑制物質の生成機構・MTBGの合成1,4-Butanediolを出発原料とし、TBDMS基で保護、酸化してアルデヒド体に誘導し、オキシム化に続いて塩素化を行った。このオキシム体をチオグルコシル化し、アセチル化、TBDMS基の脱保護、Dess-Martin酸化によるアルデヒド体への誘導、Wittig試薬によるメチルチオメチル化、アセチル基の選択的脱保護、硫酸エステル化、最後に脱アセチル化を行い、目的とするMTBGを合成した(図3)7)。図3.MTBGの合成スキーム・MTBIおよびRaphanusaninの合成 Thiolaneを出発原料とし、S-メチル化した後にNaN3を用いてアジド化合物へ誘導、この化合物をNCSで処理し加熱還流してビニルスルフィド化合物へ誘導した。これにCS2とPh3Pを用いてNCS化し、MTBIを合成した。MTBIをCH2Cl2中でシリカゲルと作用させることによって目的とするRaphanusaninを合成した(図4)。図4.MTBIおよびRaphanusaninの合成スキーム・MTBG、MTBIおよびRaphanusaninの生理活性MTBIおよびRaphanusaninについてクレス幼根およびダイコン下胚軸を用いた成長抑制活性試験を行った結果、両化合物とも天然物と同様、濃度依存的に成長抑制活性が見られ、また活性の強さもMTBIよりRaphanusaninの方が強かった。一方、Tissue Printing法により、MTBIおよびRaphanusaninをダイコン下胚軸に片側投与すると、青色光照射と同様に投与側でH2O2(View PDFfor the rest of the abstract.)