著者
松浦 正憲 齊藤 菜穂子 中村 純二
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP11, 2015 (Released:2018-10-01)

1.背景 幾つかの種類のヤドカリは、神奈川県三浦市や三重県志摩市周辺等の一部の地域で刺身や味噌汁として食されている。不思議なことに、ヤドカリの中でもオニヤドカリ(Aniculus miyakei)摂食後、水を飲むと甘味が誘導される現象が知られている。このように水を甘く感じる作用から、オニヤドカリは「あまがに」とも呼ばれている。この現象を引き起こす甘味誘導物質については、水や有機溶媒に可溶な低分子化合物であることが報告されていたが、詳細は未解明であった1)。そこで、この特異な味覚修飾作用に着目し、甘味誘導成分の解明を目的として研究に着手した2)。2.甘味誘導成分の同定 実験材料として三重県伊勢市にて採取したオニヤドカリを用いた。まず、ヤドカリを身と内臓部分に分けて、水飲用時の甘味誘導を検討したところ、内臓部分(中腸腺)に甘味誘導作用があることが確認できた。摂取直後はほとんど味を感じないが、10秒ほどして徐々に弱い甘味を感じるようになり、水を飲用すると甘味が明確に誘導される。そこで、この水飲用時の甘味誘導作用を指標に、関与成分の探索を行った。凍結乾燥した内臓部分をクロロホルム/メタノールで抽出後、ヘキサンと90%メタノールで分配した。続いて、90%メタノール層をブタノールと水にて再分配し、ブタノール層を得た。得られたブタノール層を、逆相クロマトグラフィーによる精製を繰り返すことで、甘味誘導画分を得た。得られた甘味誘導画分は、クロマトグラム上では複数のピークを示すものの、NMRスペクトル上では、ほぼ単一成分であったため、各種NMRスペクトル解析により、この画分の主成分はオクテニル硫酸エステル(1)であると決定した(Figure 1)。そこで別途合成品を調製し(Scheme 1)、スペクトルを比較したところ、良い一致を示し(Figure 2)、さらに官能評価の結果、甘味誘導画分と同様の水飲用による甘味誘導作用が確認できたことから、オニヤドカリ由来の甘味誘導成分は1であると決定した。なお1は新規化合物であった。 続いて、オニヤドカリ中の1の含有量を調べた。オニヤドカリの内臓部分の抽出液をLC-MS/MS MRMモードにて定量分析したところ、乾燥内臓部分1 gあたり(約1個体分)、50mg以上の1を含有していることがわかった。1はおおよそ数mgの摂取で水飲用時に甘味が誘導されるため、オニヤドカリ中には甘味誘導に十分な1が含まれていることがわかった。また、比較対象として甘味誘導作用を示さない別種のヤドカリ(未同定)についても、その含有量を調べたところ、1が若干量含まれているものの、オニヤドカリと比較してその含有量は1/10程度であった(Figure 3)。この結果から、オニヤドカリ特有の甘味誘導現象は、1の含有量の差が原因であると考えられた。 (View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
工藤 雄大 千葉 親文 長 由扶子 此木 敬一 山下 まり
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP63, 2015 (Released:2018-10-01)

[背景・目的] テトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX, 1) は、電位依存性ナトリウムチャネルを強力かつ選択的に阻害する神経毒であり、致死性の食中毒を引き起こす。TTXはフグ、巻貝、カニなどの海洋生物、および陸棲の両生類であるイモリやカエルに含まれ、世界中に分布する。この特異な構造が自然界でどのように構築されるかは予測が困難であり、TTXの生合成経路は未だ解明されていない。既に我々も含めた複数の研究グループが海洋由来のバクテリアによるTTXの生産を報告しており1)、TTXは食物連鎖により海洋生物へと蓄積されると考えている。一方、陸上におけるTTXの生産生物は未同定である。唯一のラベル化合物の投与実験として、清水らによるイモリへのarginine, acetate等の投与例があるがTTXはラベル化されず2)、遺伝子解析からTTXの生合成経路に言及した研究もこれまでない。そこで我々は、TTX類縁体の化学構造が生合成経路を反映していると考え、新規TTX類縁体(生合成中間体)を得るために質量分析器を駆使した網羅的な探索を実施してきた3)。そして最近、有毒のオキナワシリケンイモリ (Cynops ensicauda popei) から、TTXのC5-C10が直接炭素-炭素結合した10-hemiketal-typeの類縁体の4,9-anhydro-10-hemiketal-5-deoxyTTX (2) を発見した。化合物2は国内外の複数の有毒イモリに共通して存在していたため生合成中間体であると考え、2の特徴的な骨格構造からモノテルペンを出発物とする新たな生合成経路の可能性を考えた (Fig. 1)4)。本研究では、推定した経路を基に更なる生合成中間体を探索したので報告する。また未解明であるイモリにおけるTTXの起源を追及した。Figure 1. Proposed biosynthetic pathway towards TTX based on the structure of 2.4) 1. 新規環状グアニジン化合物群とTTX生合成経路の考察 質量分析器を用いて推定した生合成経路における中間体を探索した。これまで我々は水溶性の高いTTX類縁体の探索法として、希酢酸加熱抽出、活性炭による前処理、HILIC-LC-MS/MS3c, 5)による解析を行ってきた。しかし、本研究のターゲットとなる生合成中間体はTTX類縁体よりも親水性が低いことが予想されたので、探索のステップをそれぞれメタノール抽出、ODSによる前処理、逆相カラムによるLC-MSへと変更し、より初期の生合成中間体に焦点を当てた探索法を新たに構築した。この疎水性化合物用の探索法と従来の親水性化合物用の探索法の二つの方法で予想生合成中間体の発見を目指した。1-1. Cep-210, Cep-212の構造解析疎水性化合物の探索では、C. e. popeiのメタノール抽出物から[M+H]+ m/z 210.1606 (C11H20N3O, err. 2.2 ppm, ESI-TOF-MS) の微量新規成分 (Cep-210, 3) を検出した。その分子式から、化合物3は予想生合成中間体に相当する可能性が考えられたため、大量抽出および単離・構造決定を試みた。化合物3をC. e. popeiの身体組織 (415 g、約70匹) からメタノールで抽出して分配操作を行った後、数種の逆相カラムと弱酸性陽イオン交換カラムを用いて単離した。得られた3(69 nmol、マレイン酸を内部標準として1H NMRの積分値より算出)をCD(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
福山 圭 大類 洋 桑原 重文
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP30, 2015 (Released:2018-10-01)

【緒言】 後天性免疫不全症候群 (AIDS) は世界的に問題となっているHIV(レトロウイルス)感染症である。現在,作用機序の異なる薬剤を併用する多剤併用療法(HAART) が行われており飛躍的な予後の改善が図られている。しかし生涯にわたる多剤併用療法は予期せぬ副作用の発現と多剤耐性ウイルスの出現という新たな問題に直面しており,新薬の創出と供給は創薬化学およびプロセス化学上,喫緊の研究課題である。 近年4’-C-置換ヌクレオシドの特異な生物活性に注目が集まっている。4′-ethynyl-2-fluoro-2′-deoxyadeno- sine (EFdA, 1)は大類,満屋,ヤマサ醤油(株)の共同研究により創出された逆転写酵素阻害剤である (Figure 1)1)。近年,ヤマサ醤油(株)からメルク社(米国)へのライセンス供与が行われ,抗エイズ薬としての実用化研究が進められている。同様の作用機序を持つ代表的処方薬であるアジドチミジン(AZT, ジドブジン, EC50 = 22 nM, HIV-1NL4-3)等に比べ数百倍から数万倍という桁違いに強力なHIV複製阻害作用(EC50= 50 pM)を有することに加え,急性毒性を示さない(LD50 >100 mg/kg,マウス,p.o.),様々な耐性ウイルスに対しても有効である,長い血中半減期 (t1/2= 17.2 h) を持つ等の優れた特性から,極めて有望な抗エイズ薬候補と考えられている2)(Proc. Jpn. Acad., Ser. B 2011, 87, 53)。 一方,本化合物の臨床開発における最大のネックは1の供給体制が十分でない点にある。既存の2つの合成法(大類法1),桑原法3))が知られているものの(Figure 2),原料価格,収率,立体選択性の点で問題を残していた。この様な背景の下,我々は真に実用的なEFdA合成法の開発に着手した。【フラノース4位の新規増炭法の開発】 フラノース誘導体の4位を増炭する方法としては,安価で大量に入手可能なdiacetone-D-glucose (2)から5工程で得られるアルデヒド3をaldol/ Cannizzaro反応により4-ヒドロキシメチル化して4を得るMoffattらの方法4)が唯一の報告例であるが,生成する2つの水酸基の選択的保護に問題があった(Scheme 1)。 我々は,3-ケトフラノース誘導体6とホルムアルデヒドとのアルドール反応について検討した結果,K2CO3やEt3Nを塩基として用いると4位の立体化学の反転を伴って,アルドール反応生成物 7とそれがホルムアルデヒドと過剰反応を起こした8の混合物が定量的に得られることを見出した(Scheme 2, Table 1)。 8は報告例の少ないアセタール/ヘミアセタール連続構造を持つ新規糖誘導体であり,還元処理により7とともにアルコール9へ立体選択的に変換できた(アルドール反応完結後,濾過により塩基を除去し,濾液に水とNaBH4を加えることで簡便に四置換の4位炭素を持つ9を得る手法を確立した;白色結晶,100 g スケール,2から3工程,通算収率93%)。9の3位,5位および5’/6’位は選択的な修飾が可能であり,自由度の高い新規な四置換炭素含有合成ユニットになり得るものと考えている。【水酸基(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
花木 瑞穂 村上 一馬 赤木 謙一 入江 一浩
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP43, 2015 (Released:2018-10-01)

【緒 言】 アルツハイマー病(AD)の原因物質と考えられている42残基のアミロイド b タンパク質(Ab42)は,分子間 b シート構造を形成することによって凝集し,脳内に蓄積する.近年,この過程で形成される凝集中間体であるオリゴマー(2あるいは3量体を基本単位とした2 ~ 24量体)が神経細胞毒性を示すことが知られている.Ab42の凝集はAD発症の15年以上前から起こる最も初期の病理変化であることから,凝集を阻害する化合物はADの予防薬となる可能性がある.野菜や果物に含まれるフラボノイドの多くはAb42の凝集抑制能を示すことから注目されているが,その抑制機構の詳細は不明な点が多い. 本研究グループはこれまでに,マリアアザミ種子のメタノール抽出物であるシリマリンが,in vitro及びin vivoにおいて抗AD活性を示すことを明らかにするとともに1),シリマリン中のAb42凝集抑制活性成分として,カテコール構造を有するフラボノイドである (+)-タキシフォリンを同定した2).さらに,(+)-タキシフォリンは,溶存酸素により酸化されてo-キノン体を形成し,Ab42の16あるいは28番目のリシン残基(Lys16, 28)と共有結合(マイケル付加)することによって,凝集を抑制することを明らかにした3)(図1).一方,カテコール構造をもたない一部のフラボノ 図1. カテコール型フラボノイドによるAb42凝集抑制機構3).Lys残基は分子間 b シート領域に含まれることから,付加体を形成することで分子間 b シートの形成を阻害していると考えられる.図2. 非カテコール型フラボノイドの構造およびフラボノイド非存在下/存在下での1H-15N SOFAST-HMQCスペクトル.黒はフラボノイド非存在下でのAb42(25 mM)のスペクトル,灰色は各種フラボノイド存在下(500 mM)でのAb42のスペクトルを示す.Kaempferoloxはケンフェロール酸化分解物を表す.イドにも凝集抑制作用が認められている.本研究グループの先行研究において,非カテコール型フラボノイドはリシン残基を標的とせず,別のメカニズムを介して凝集を抑制している可能性が示唆された3).本研究は,非カテコール型フラボノイドによるAb42凝集抑制機構を分子レベルで解明することを目的としている.【方法および結果】1. モリンおよびダチセチンによるAb42の凝集抑制機構の解析 本研究では,タキシフォリン(25 mMのAb42の凝集能を50% 阻害するのに要する濃度:IC50 = 33.0 mM)と同程度の凝集抑制能をもつ非カテコール型フラボノイドとして,モリン(IC50 = 30.3 mM),ダチセチン(IC50= 55.4 mM),ケンフェロール(IC50= 75.1 mM)に着目した(図2).まず,空気酸化による凝集抑制能への影響を調べるため,チオフラビンT蛍光法を用いて,低酸素条件下(デシケーター中アルゴン雰囲気下)における凝集抑制能を調べた.その結果,いずれも通常の酸素濃度下と同様に凝集を抑制した.また,モリンとダチセチンのUVスペクトルは48時間(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
繁森 英幸 渡邉 諒子 須藤 恵美 山添 紗有美 成澤 多恵子 堀之内 妙子 渡邉 秀典 長谷川 剛 山田 小須弥 長谷川 宏司
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP49, 2015 (Released:2018-10-01)

植物の具備する屈性現象については、これまで「オ-キシンが光側から影側に移動(光屈性)または上側から下側へ移動(重力屈性)することによって屈曲する」というCholodny-Went 説によって説明されてきた。しかしながら近年、「オ-キシンの横移動は全く起こらず、光側組織で成長抑制物質が生成され光側組織の成長が抑制される結果、光方向に屈曲する」という新しい光屈性の仮説 (Bruinsma-Hasegawa説)が提唱され、重力屈性についても同様に成長抑制物質が関与することが示唆された(図1)1-6)。そこで本研究では、Bruinsma-Hasegawa説に基づき、屈性現象に関わる生理活性物質を用いて、光刺激や重力刺激の感受から始まり、最終的に観察される屈曲といった一連の機序について、化学的ならびに生物学的手法を用いて分子レベルでの解明を行うことを目的とする。本討論会では、ダイコン下胚軸の光屈性制御物質の合成ならびに機能解明およびトウモロコシ幼葉鞘の重力屈性機構の解明について以下に報告する。図1.光屈性の仮説(左図、中央図)と重力屈性の仮説(右図)1.ダイコン下胚軸の光屈性制御物質の合成ダイコン下胚軸の光屈性制御物質として、MTBG、MTBIおよびRaphanusaninを見出した(図2)4)。MTBIおよびRaphanusaninはいずれも光屈性刺激によって光側組織で短時間に増量するが、影側や暗所下では変動しないことを明らかにした。また、光側において短時間で加水分解酵素の活性が高まることも見出した。そこで本研究では、これら光屈性制御物質の合成ならびにそれらを用いて機能解明を行った。図2.ダイコン下胚軸の青色光誘導性成長抑制物質の生成機構・MTBGの合成1,4-Butanediolを出発原料とし、TBDMS基で保護、酸化してアルデヒド体に誘導し、オキシム化に続いて塩素化を行った。このオキシム体をチオグルコシル化し、アセチル化、TBDMS基の脱保護、Dess-Martin酸化によるアルデヒド体への誘導、Wittig試薬によるメチルチオメチル化、アセチル基の選択的脱保護、硫酸エステル化、最後に脱アセチル化を行い、目的とするMTBGを合成した(図3)7)。図3.MTBGの合成スキーム・MTBIおよびRaphanusaninの合成 Thiolaneを出発原料とし、S-メチル化した後にNaN3を用いてアジド化合物へ誘導、この化合物をNCSで処理し加熱還流してビニルスルフィド化合物へ誘導した。これにCS2とPh3Pを用いてNCS化し、MTBIを合成した。MTBIをCH2Cl2中でシリカゲルと作用させることによって目的とするRaphanusaninを合成した(図4)。図4.MTBIおよびRaphanusaninの合成スキーム・MTBG、MTBIおよびRaphanusaninの生理活性MTBIおよびRaphanusaninについてクレス幼根およびダイコン下胚軸を用いた成長抑制活性試験を行った結果、両化合物とも天然物と同様、濃度依存的に成長抑制活性が見られ、また活性の強さもMTBIよりRaphanusaninの方が強かった。一方、Tissue Printing法により、MTBIおよびRaphanusaninをダイコン下胚軸に片側投与すると、青色光照射と同様に投与側でH2O2(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
松尾 洋介 大渡 遼介 草野 リエ 齋藤 義紀 田中 隆
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP33, 2015 (Released:2018-10-01)

【序論】紅茶は世界中で広く飲まれる飲料であり、ポリフェノールを豊富に含むことからさまざまな健康維持効果が知られている。紅茶は生茶葉を揉捻して製造されるが、その過程でカテキン類が酵素酸化を受けてテアフラビン類やテアシネンシン類などのさまざまな紅茶特有のカテキン二量体が生成する1)。テアフラビン類 (1–4) はベンゾトロポロン環を持つ赤橙色の紅茶色素であり、カテコール型カテキンとピロガロール型カテキンの酸化的縮合によって生成する2)。テアフラビン類は紅茶製造過程においてさらに酸化されることが知られている3)。我々はこれまでにepicatechin (5) 共存下におけるポリフェノール酸化酵素でのtheaflavin (1) 酸化生成物について検討を行い、theanaphthoquinone (6) やflavanotheaflavin A (8) などが生成することを報告した4)。しかし、ガロイル基を持つテアフラビン類であるtheaflavin-3-O-gallate (2), theaflavin-3′-O-gallate (3), およびtheaflavin-3,3′-di-O-gallate (4) の酵素酸化反応について、これまで十分な検討は行われていない。さらに、1は中性条件下において自動酸化され、ポリフェノール酸化酵素とは異なる酸化生成物bistheaflavin B (16) が生成することが分かっているが5)、ガロイルテアフラビン類2–4の自動酸化生成物は明らかとなっていない。紅茶ポリフェノールとして構造が解明されているのは全体の数パーセントにすぎず、実際の製造過程では非常に複雑な酸化生成物が生じており、その大部分の構造については解明されていない1,6)。これら未解明の紅茶ポリフェノール生成にテアフラビン類のポリフェノール酸化酵素や自動酸化による酸化が寄与していると考えられることから、本研究では5共存下におけるガロイルテアフラビン類2–4の酵素酸化機構および、中性条件下における自動酸化機構について検討した。【テアフラビン類のポリフェノール酸化酵素による酸化機構】Epicatechin (5) 共存下において3位にガロイル基を持つtheaflavin-3-O-gallate (2) をポリフェノール酸化酵素で処理した結果、theanaphthoquinone-3′-O-gallate (7), flavanotheaflavin B (9), およびtheadibenzotropolone A (10)7) が得られた。化合物7はベンゾトロポロン環が酸化を受けてナフトキノン環へと変化したものであり、9はベンゾトロポロン環と5が酸化的に縮合したものである。一方、10は2のガロイル基と5が縮合して新たなベンゾトロポロン環を形成した生成物であった。同様の条件で3′位にガロイル基を持つtheaflavin-3′-O-gallate (3) を酸化したところ、ガロイル基と5が縮合したtheadibenzotropolone F (12) が生成し、ベンゾトロポロン環が酸化を受けたものは得られなかった。 3位および3′位にガロイル基を持つtheaflavin-3,3′-di-O-gallate (4) の場合も3と同様に、ガロイル基と5が縮合したtheadibenzotropolones D (13), E (11), およびtheatribenzotropolone A (14)8) が得られ、ベンゾトロポロン環が酸化を受けたものは得られなかった。さらに、テアフラビン類1–4単独あるいは5共存下における酵素酸化反応について経時的変化を調べたところ、テアフラビン類単独ではポリフェノール酸化酵素によって(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
山田 諒介 安達 庸平 横島 聡 福山 透
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral3, 2015 (Released:2018-10-01)

1. 背景 ダフェニリン(1)は、ユズリハ属植物であるDaphniphyllum loungerasemosumの果実より単離されたダフニフィラムアルカロイドの一種である1。このアルカロイド群には、抗HIV活性やマウス腫瘍細胞に対する細胞毒性などの生物活性を有するものが知られており2、1に関しても有用な生物活性が期待される。しかし、現在までに十分な生物活性評価はなされておらず、その生物活性は不明である。一方で、1の構造的特徴としては、6つの不斉中心を含む複雑な六環性骨格を有していることが挙げられる。さらに、他のダフニフィラムアルカロイドにはない芳香環を有しており、合成化学的に興味深い化合物である。今回我々は独自の合成戦略に基づき、効率的な合成経路の確立を目的として、1の合成に着手した。2. 合成計画 まず我々は、芳香環を含むDEF環に着目し、本三環性骨格の立体配座について考察を行うこととした。そこで、D環内にAC環構築の足がかりとなる二重結合を有するモデル化合物2を用いて配座解析を行い、最安定配座を求めた。その結果、C5位メチル基はC10位不斉炭素上の水素原子と同一方向に配向していることが示唆された。C10位不斉中心より誘起された三環性構造の立体的特性を利用し、残る不斉中心を構築できるのではないかと考え、逆合成解析を行った。 ダフェニリンの有するABC環部位は、合成終盤において3のような環状アゾメチンイリドからの分子内1,3-双極子付加環化反応により一挙に構築することとした。3はアルデヒド4より導くこととし、さらにこのアルデヒドの有するC2位不斉中心は、[3,3]シグマトロピー転位により制御できるものと考え、5へと逆合成した。この2つの反応における面選択性は、先程考察した三環性構造の立体的特性により制御できるものと期待した。続いて、5は三環性化合物6に対して増炭を行うことで容易に合成可能である。まずはラセミ体での全合成を目指し、文献既知の三環性ケトン73より合成を開始することとした。3. [3,3]シグマトロピー転位前駆体の合成 まず、インデン8を出発原料として文献既知法に従い三環性ケトン7へと導いた(Scheme 1)。続いて、位置選択的なC-H酸化反応4によりC1位に炭素ユニット導入の足がかりとなる水酸基を導入した後、ケトンへのメチル基の付加と位置選択的な脱水、続くフェノール性水酸基のトリフラート化によって11とした。つぎに、薗頭カップリングにより炭素ユニットを導入後、三重結合部位をRed-AlRまたは、Lindlar触媒により部分還元することで、EもしくはZ体のアリルアルコール13a,bを合成した。次に、それぞれのアリルアルコールをビニルエーテル化することで14a,bとした。 4. C2位不斉中心の構築 得られたビニルエーテルに対して、トリイソブチルアルミニウムをルイス酸としたClaisen転位5の検討を行った(Table 1)。はじめにE体の14aを用いたところ、反応は円滑に進行したものの、新たに形成されるC2位不斉中心の立体選択性は、2:1と乏しかった(entry 1)。次に、Z体の14bを用いたとこ(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
尾山 公一 山田 智美 伊藤 大輔 渡邉 紀之 関口 由紀子 鈴木 昌子 近藤 忠雄 吉田 久美
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.PosterP61, 2015 (Released:2018-10-01)

【緒言】我々は、アジサイの花色変異の現象に興味を持ち研究を行っている。一細胞分析により、アントシアニンのdelphinidin 3-O-glucoside (1)が、助色素(5-O-caffeoylquinic acid (neochlorogenic acid (2))、5-O-p-coumaroylquinic acid (3)、3-O-caffeoylquinic acid (chlorogenic acid (4))の組成比、液胞pH、及びAl3+量の違いによって多彩に赤から紫、青に発色をすることを明らかにした (Figure 1) 1-3。アジサイの青色は、pH 4の条件下、1、2または3及びAl3+を混合すると再現できることがわかった4,5。この青色色素は、水溶液中だけで安定に形成される金属錯体で、ツユクサなどに見いだされた自己組織化超分子金属錯体色素(メタロアントシアニン)とは全く異なる性質を持つ非化学量論量の分子会合錯体である。これまで、結晶化の成功例はなく、1H NMRスペクトルもブロードで複雑なため、構造は今も不明である。本研究では、5-O-アシル化キナ酸類の効率的合成方法を新たに開発した。次に、合成した助色素を用いて青色色素を再構築し、解析可能なNMRスペクトルを得ることに成功した。【5-O-アシル化キナ酸類の効率的合成法の開拓】従来の2と3の合成4-6では、1位のカルボン酸の保護基にメチル基を用い、アシル基のフェノールの保護基にアセチル基を使用しているために、最終ステップの脱保護反応で競争的脱アシル化反応とアシル転移が起こり、収率が著しく低かった。また、5位へのエステル化は酸クロリドを用いていた。そこで、合成経路を見直し、1位のカルボン酸の保護基としてPMB基を持つキナ酸誘導体5を新たに分子設計して、Scheme 1に示すように(–)-キナ酸 (4) から5段階79%で合成した。5の5位アキシアルヒドロキシ基へのアシル化反応は、遊離カルボン酸にTsClとN-メチルイミダゾール (NMI)を加えてアシルアンモニウム中間体を生成させて、そこへアルコールを反応させる田辺法7を検討した。i-Pr2NEtの添加によりアルコールとカルボン酸の求核性が上がり収率が向上した(Scheme 2)。また、アンモニウム中間体の生成と同時にアルコール5が本中間体をトラップすることを目指してNMIを最後に加えた。その結果、収率はさらに向上した(Scheme 2)。この改良法を用いてp-クマル酸やコーヒー酸などの種々の遊離カルボン酸のエステル化反応を行い、72–94%の高収率で6-12を得た (Scheme 3)。得られたアシル体6-11の脱保護反応を検討した(Table 1)。芳香環部分に酸素原子のない6-9では、いずれも高収率(79-87%)で目的のアシル化キナ酸を得た。しかし、フェノール性ヒドロキシ基をMOM保護した10と11では、収率は40%以下と低かった。種々検討した結果、BCl3/C6HMe5を作用させると高収率(69,73%)で脱保護体が得られた 8。これらにより、市販のキナ酸(4)から7段階、通算収率45–60%で種々の5-O-アシル化キナ酸類の合成を達成した9,10。【アジサイ青色金属錯体色素の化学構造】合成した助色素類を用いて、アジサイ萼片の青色再現実験と得られた溶液の可視吸収スペクトル、円二色性、およびNMR分析を行った。これまでの知見により1-5、(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
南 篤志 劉 成偉 田上 紘一 松本 知之 Jens Christian Frisvad 鈴木 秀幸 石川 淳 五味 勝也 及川 英秋
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 57 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral34, 2015 (Released:2018-10-01)

ペニトレムA(1)は、Penicillium crustosumなどの糸状菌から単離されたインドールジテルペンである(図1)1。同菌は、酸化度や修飾様式が異なる構造類縁体{ペニトレムB-F(2-6)}に加えてパスパリン(7)2、PC-M5(8)、PC-M4(9)なども生産する3, 4。1は、パキシリン(10)やアフラトレム、ロリトレムなどの多くのインドールジテルペンと同様に7をコア骨格とする一方、インドール環上にある4-6縮環骨格や8員環エーテルなど他のインドールジテルペンではみられない特徴的な構造を有する(図1)。その特異な化学構造は有機合成化学者からも注目され、4については全合成も達成されている5。一方、その生合成については、標識化合物の投与実験などから1-6が生合成後期における酸化的修飾によって構築されると推定されていたものの6、骨格構築機構については不明であった。最近我々は、麹菌異種発現系を用いることで17種の遺伝子が関与するペニトレム生合成マシナリーの解明に成功し、特徴的な骨格構築機構を含む生合成経路の解明に成功した7。本討論会ではその詳細を報告するとともに、我々が改良してきた麹菌異種発現の有用性についても議論したい。ペニトレム生合成遺伝子クラスターの同定 ペニトレム生合成マシナリーの解明へ向け、生合成遺伝子の探索を試みた。予想生合成中間体である7の生合成に関与する遺伝子(paxGCMB)8を指標としてペニトレム生産菌(P. simplicissimum9)のドラフトゲノムデータを精査したところ、ptmGCMBを含む15個の読み枠から構成される生合成遺伝子クラスター(cluster 1:図2)を見いだした。しかしながら、酸化的な修飾反応を触媒する酵素遺伝子が明らかに不足していたため、遺伝子クラスターの分断が示唆された。分断した遺伝子クラスターを同定するためにRNA-Seqによる発現解析を生産/非生産条件で行ったところ、4種の酸化酵素遺伝子と1種のプレニル基転移酵素を含む遺伝子クラスター(cluster 2:図2)を新たに見いだした。1と同じ分散型生合成遺伝子クラスターはfusicoccin10、austinol11などで報告されているが、いずれも類縁化合物の相同遺伝子もしくは経路特異的な遺伝子を指標としてゲノムデータから探索されたものである。これに対して本結果は、植物由来の天然物と同様、発現解析が糸状菌天然物における分散型遺伝子クラスターの同定において有効であることを示す結果であると考えている。 麹菌異種発現系を利用したペニトレム生合成マシナリーの解明 最近我々は麹菌を宿主とした異種発現システムに着目し、代表的な糸状菌由来二次代謝産物であるインドールジテルペン7,8,12、テルペン13、ポリケタイド14の生合成マシナリーの再構築と物質生産を行ってきた。本手法の特徴は、①導入した遺伝子の確かな機能発現、②生合成経路の同定と物(View PDFfor the rest of the abstract.)