著者
藤本 浩一 佐野 裕司 渡邊 英一
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.285-294, 2012-12-15 (Released:2013-03-02)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本研究は,脈波伝播速度(PWV)の計測に小型の近赤外線反射型センサーによって得られる加速度脈波を応用したものである.特に疾患の無い51名の研究対象者(21〜90歳)が実験に参加し,研究対象者を若年群(n=14),壮年群(n=21)および高齢群(n=17)の3群に分けた.脈波伝播時間(PTT)は頭部,指尖部および足底部の加速度脈波と心電図より求め,計測区間距離は体表面よりテープメジャーによって同定した.PWVは計測区間距離をPTTで除することにより求めた.なお,51名のうち12名の研究対象者は,加速度脈波と心電図により求めたPWVの精度を検討するため,従来法によるPWVの計測も行った.両方法によって計測されたPWVより求めたPTTは有意な相関関係(ピアソンの相関,P<0.001)にあることを確認した.腹部大動脈系を計測区間に含むPWV(心臓−前額間PWV,心臓−手指尖間PWVおよび心臓−足底間PWV)は男女ともに加齢にともなって有意な(分散分析,P<0.001;単回帰分析,P<0.001)上昇が認められたものの,腹部大動脈系を計測区間に含んでいないPWV(前額−指尖間PWV,前額−足底間PWVおよび指尖−足底間PWV)は加齢の影響を受けなかった.また,これらの傾向は性別,身長,BMI,心拍数,血圧で補正しても同様であった(重回帰分析,P<0.001).以上の結果は先行研究および弾性動脈と筋性動脈の特性と一致するものであり,本研究で用いたPWVの計測法は従来法と比較して迅速かつ簡便なものであるが,従来法と遜色なくPWVを評価できることが示された.