著者
土場 学 渡部 勉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.197-205, 1998-06-15 (Released:2016-08-26)
参考文献数
1

現代社会学において数理社会学の地位を確立した最大の功労者の一人であるトーマス・J・ファラロが、自らの学問的営為の集大成として『一般理論社会学の意味』をまとめあげた。本書の目的は、一般理論社会学を社会学における包括的な研究伝統として定義したうえで、そこにおいてこれまで並行的に展開してきたシステム思考、行為理論、構造主義の三つの下位伝統が現在「統―化のプロセス」にあることを指摘しつつ、そのことを生成的構造主義という構想のもとでフォーマル・モデルとして示すことにある。そのさい、ファラロの構想では、社会学の伝統的な行為理論と構造理論、ミクロ・モデルとマクロ・モデルが生成的構造主義のもとで調和的に統合される、ということになる。しかしながら、こうした構想は、行為と構造という構図のもとで社会学においてつねに問題にされてきた「循環」の問題を、ほんとうの意味で解決することにはならない。なぜなら、こうした循環の問題は、じつは従来の行為理論も構造理論もともに共有していた行為と構造の実体論パラダイムに由来しているからである。したがって、もしいま一般理論社会学がミクロとマクロの「統―化のプロセス」のただなかにあるとしても、それは従来の行為理論と構造理論の「収斂」のプロセスではなく、むしろそれらの「解体」のプロセスを意味しているはずである。ファラロの構想する生成的構造主義の問題は、根本的には、そうした認識を欠いていたところにある。