著者
湧川 基史
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年,いくつかのケモカインレセプターがTh1,Th2の指標になることが明らかとなり,アトピー性皮膚炎(AD)の病態にも密接に関わっていると考えられるが,ADにおいての発現と病態との関係については不明であった.筆者らは,AD末梢血CD4T細胞上におけるこれらのケモカインレセプターの発現がTh1,Th2を反映するのか,さらにADの病態,重症度や検査値異常を反映しうるか,また,ADの活性化の指標とされるCD25や皮膚へのhoming moleculeであるcutaneous lymphocyte associated antigen(CLA)などを発現しうるか否かを検討した.さらに,病変部浸潤細胞におけるこれらレセプターの発現についても検討した.結果1.CCR4陽性細胞は,ほとんどがIL-4のみ産生するいわゆるTh2細胞と,IL-4,IFN-γの両者を産生するTh0細胞である一方,IFN-γのみ産生するTh1細胞は1%以下であり,Th2優位のサイトカイン産生パターンを示した.CXCR3産生細胞は,Th1細胞が約7割を占め,逆にTh2細胞は1%以下であった.つまり,CCR4の発現はTh2細胞の数を反映し,CXCR3の発現はTh1細胞の数をほぼ反映していた.2.CD4T細胞中のCCR4の発現率はAD群は20%を超え,健常人群の約4倍と高値を示した.CXCR3の発現率は健常人群とAD群で差はなかった.3.CCR4発現率は重症群で特に高く,重症群と中等症群において,健常人群よりも有意に高い発現率を示した.CXCR3陽性率は各群とも健常人群との相関が得られなかった.CCR4陽性率は末梢好酸球数と相関する傾向を示した.血清IgE値はCXCR3陽性率と有意な逆相関を認めたが,CCR4陽性率とは相関しなかった.4.CCR4陽性率は治療により低下する傾向を認め,CXCR3陽性率は逆にやや上昇を示した.5.CCR4陽性CD4細胞は,CCR4陰性細胞に比べ,有意にCD25,CLAの発現率が高かった.6.急性病変部の真皮血管周囲のCD4T細胞の多くがCCR4を同時に発現していた.AD患者末梢血中ではCCR4陽性細胞が増加し,ADの病態に関与していることが示された.CD4T細胞におけるCCR4,CXCR3発現はTh1,Th2バランスの指標になり,ADの重症度の指標にもなりうることが示唆された.