著者
湯田 勝
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.2-19, 1982-09-30

先進的資本主義社会における労働者階級の社会変革の担い手としての主体形成をめぐる状況は混迷しているようにみえる。この状況を突破しようとするさまざまな理論的試みのなかで、「労働の社会化」論、「貧困化」論そして「意識としての階級」論の三つに注目したい。現代における変革主体形成に関する理論的な見通しを得るためには、この三つの論点の統一的把握が不可欠である、と考えるからである。<BR>本稿は、そのための作業の一つとして、マルクスの変革主体論をこの三つの論点との関連で改めて検討しなおすことを課題としている。具体的な内容は次の二点である。<BR>(1) マルクスの変革主体論は、『経済学・哲学草稿』以来一貫して、「労働の社会化」論、「貪困化」論、「意識しての階級」論を理論的な視点として内包していること。だが、初期マルクスの変革主体に関する理論的展開は、イギリスの労働運動の経験に大きく制約されていたこと。<BR>(2) その後、経済学研究の深化に伴って (『経済学批判要綱』と『資本論』) 、「生活主体」論と「労働主体」論が確立されたことによって、「労働の社会化」と「貪困化」に関する主体的把握が可能になり、「意識しての階級」論の重要な要点をなす「欲求主体」論あるいは「価値主体」論の基礎がすえられたこと。