著者
源島 穣
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-17, 2017 (Released:2020-01-29)
参考文献数
80

近年、先進諸国では社会問題が複合的に生じる「社会的排除」の解決を目指す「社会的包摂」のアプローチとして、官-民のアクターの協働に基づく「福祉ガバナンス」が重視されている。しかし参加アクターの権限やリソース、利益が本来的に異なるため、福祉ガバナンスの実施体制を構築することは容易でない。それにもかかわらず、イギリスのブレア政権は地方アクターと円滑な協働関係を構築し、社会的排除の深刻化した地域の再生を進展させた。これより本稿の課題は、「近隣地域再生政策」を事例に、ブレア政権はなぜ社会的包摂をめぐり、福祉ガバナンスの安定した実施体制を構築できたのか、その舵取りの過程を明らかにすることである。本稿は「相互作用ガバナンス論」に基づいて分析し、福祉ガバナンスの政治目標として社会的包摂が設定および共有される過程、地方アクターの意向を反映させる制度および政府のアカウンタビリティを確立する制度が策定される過程、地方アクターによる事業実施過程を明らかにした。いずれの過程においても、ブレア政権は主導的に舵取りすることで、安定した実施体制を構築することに成功したのである。