著者
新盛 英子 滄木 孝弘 石井 三都夫
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-7, 2013-06-30 (Released:2013-07-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

1日齢における血中免疫グロブリンG(IgG)濃度が基準値未満の場合に受動免疫移行不全(FPT)と診断されるが,子牛が肥育牧場や育成牧場に導入される1週齢前後のFPT基準値は報告されていない. 本研究は, 血清IgGおよび総タンパク質(TP)濃度の経時的変化を調べ, 7日齢の検査値を用いたFPT診断精度について検証した. ホルスタイン種(HS)43頭, 黒毛和種(JB)34頭を用いた. 1日齢と7日齢に採血を行い, 血清IgG(mg/mℓ)およびTP濃度(g/dℓ)を測定した. 1日齢と7日齢において, IgGとTPの間に強い正の相関関係が認められた. 1日齢のIgGとTPの散布図において, 近似曲線の一次方程式にFPT基準値(HS-IgG: 10.0, JB-IgG: 20.0)を代入して求めたTP濃度(HS-TP: 4.6, JB-TP: 5.3)を1日齢のFPT基準値とした. HS-IgG, HS-TPおよびJB-IgGは, 1日齢〜7日齢にかけて有意に減少した. 1日齢〜7日齢の平均変化率は, HS-IgG: 71.7%, HS-TP: 92.2%, JB-IgG: 73.8%, JB-TP: 95.4%であった. 1日齢のFPT基準値に平均変化率を乗じて7日齢のFPT基準値とした(HS-IgG: 7.2, HS-TP: 4.2, JB-IgG: 14.8, JB-TP: 5.1). 7日齢の血液検査において, FPT基準値未満であった場合を検査陽性とし, FPTの診断精度について検証した. HS-IgGの陽性的中率(PPV)は78.6%, 陰性的中率(NPV)は93.3%, HS-TPのPPVは76.5%, NPVは100.0%であった. JB-IgGのPPVは100.0%, NPVは80.0%, JB-TPのPPVは91.7%, NPVは86.4%であった. 以上より, 7日齢の血清IgGおよびTP濃度の測定はある程度の精度でFPTを診断できると考えられた.
著者
野嵜 敢 伊藤 めぐみ 村越 ふみ 滄木 孝弘 芝野 健一 山田 一孝
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.68-72, 2019-08-31 (Released:2019-09-27)
参考文献数
10

クリプトスポリジウム感染症は生後1 カ月以内の子牛に水様性下痢を引き起こす.クリプトスポリジウム症に有効な治療薬は存在しないが,子牛の下痢症に対する卵黄抗体(IgY)製剤が市販されており,これに抗クリプトスポリジウムIgY が含まれる.そこで本研究では,クリプトスポリジウム症に対する本製剤の効果を血清中および糞便中IgY 動態から検討した.1 酪農場の子牛12 頭を対照群(通常哺乳),初乳投与群(初乳に製剤60g を混合して投与),2 週投与群(初乳に製剤60g,生後2 週間まで生乳に製剤10g/日を混合して投与)の3 群に分けて供試牛とした.試験期間は生後21日目までとし,血液および糞便を採取した.すべての供試牛がCryptosporidium parvum に感染し,水様性下痢を発症した.糞便1g あたりの平均オーシスト数は2 週投与群が,初乳投与群および対照群より有意に少なかった(p<0.05).また,血清および糞便中の総IgY 濃度および抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は,初乳投与群および2 週投与群ともに高値を示し,糞便中の総IgY 濃度は生後5 ~14 日目までは2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).糞便中の抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は生後5 および7 日目に2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).本製剤の2 週間の連続的な経口投与はクリプトスポリジウム感染子牛のオーシスト排出量を減少させたことから,抗クリプトスポリジウムIgY はクリプトスポリジウム症予防に有用である可能性が示唆された.